2話
昔、小学生くらいだったか…友人たちと自転車で走り回って遊んでいる時に先の方を走っていた友人が宙を舞っていたのだ。
突然車道の飛び出したせいもあり、車にはねられてしまったのだ。幸い、骨にひびが入った程度で済んだが下手をすれば死んでいてもおかしくない飛び方だったと今でも思う。
なぜ急にこんなことを思い出したかというと、俺自身が全く同じ状況になっているってことだ……違いがあるとすれば、友人は軽乗用車にはねられたが俺はダンプにはねられたんじゃないっかって程吹っ飛んで行っている。
(これが走馬灯ってやつなんだろうなぁ~)
ドスンッ!っと音が響き、キョウは地面に叩きつけられた、普通の人間はあの速度と重量で体当たりされれば骨がバラバラになってもおかしくはない、ましてやその後に数十メートル程上空に打ち上げられ、地面に叩きつけられたのならば生きているわけがない、死んで当たり前の現象だ。
そう、『普通』の人間ならば………
※※※※※
「…あん? なんで俺生きてんだ? つか全然痛くねぇし……どうなってんだ?」
顔を上げると目の前のイノシシもいぶかしむような顔をしている、なぜまだ生きている、餌の分際でまだ死んでいないのか、と。
それを眺めているとなんだか無性に腹がったてきた、目の前のイノシシを睨みつけると目があった、その瞬間イノシシは鼻を鳴らした、まるで馬鹿にしたように……。
『ぶちぃぃぃぃ』
何かがちぎれるような音と共にキョウはゆらりと立ち上がる、その顔には憤怒の表情を宿していた。
「…貴様コラァ~…豚の分際で何なめた態度ばとっとうとかぁ……」
あまりの怒りに博多弁が漏れ出ているが怒りで思考回路がぶっとんでいる為、本人はまるでその事に気づいていない。
一瞬にして場の空気が変わる。餌だと思っていた存在がまるで正反対の存在だとその時初めて気が付いてイノシシは後ずさる。
キョウは一歩前に歩を動かし、イノシシを睨みつけた。憤怒と殺意にまみれた瞳に睨まれてイノシシは石造になったかの様に動けなくたってしまっている。
その時、イノシシは気づいた。目の前の怪物の右腕に殺意が集まり、まるで陽炎の如くゆらめていている光景が……。
「調子こいてんじゃねぇぞコラァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
目の前の怪物の姿が消えた、そう思った。そう思った時には既に眼前に拳が迫ってきていた、その光景がイノシシが見た最後の光景だった。
※※※※※
竜は理解出来なかった。いや、したくなかった……先程まで地に這いつくばっていた弱者が一瞬にして殺意と言う名の暴力でこの場を支配してしまった。
(ありえない……なんだあの化け物は、あれはこの世にいてよい存在ではない。私を眠りに付かせた者達が何百何千といたとしてもあれには勝てない…いや、勝つとか敗けるとか考えるだけ愚かな事だ……っな!?)
竜は見た、見てしまった。エルフの形をした化け物が消えた瞬間、白い獣が爆散した光景を。
(な、な、何をした? 全く見えなかった、腕を振りぬいているということは殴ったのか? 殴っただけで跡形もなく爆散する攻撃など見たことがないぞ!?)
驚愕と恐怖に支配され、本来であれば直ぐにでも脱兎の如く逃走をしなければならないはずなのだが目の前で起きた非常識な光景に唖然として逃げることを竜は忘れてしまっていた。
その光景を竜はじっと眺めていると男がこちらを向いて………そして目が合った。
「あ? んだてめぇは? どこ中だごらぁ~!?」
こうして竜とクラフターは出会う。これからこの世界を巻き込んだ出来事を引き起こす一人と一匹。一方は因縁をつける様に睨み、一方は涙目で脅えている姿で……
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