序章3
これで序章は最後です
【ミザール大霊峰・上層】
「やっとここまで来たのはいいんだけど、相変わらず酷い有様だねぇ~」
辺りを見回せばPTを組んでいる中堅プレイヤー達が今か今かとモンスターが
出てくるのを待っている。
これは、POP待ちと呼ばれている行為でモンスターが出現した瞬間に攻撃を叩き込みファースト・アタックを与えることで、そのモンスターからドロップアイテムを狙う事なのであるが……いくら人気のアイテムだからといって、はたから見ればいじめにしか見えない、出現と同時に大よそ三十人弱のプレイヤー達から集中砲火を浴びせられているのが、雪山羊と呼ばれる可愛らしい姿をしているものならなおさらである。
「お、おい…あそこに居るエルフあのギルドの奴じゃねぇか?」
「ん? あ~あの変態ギルドの変態クラフターね」
おい、聞こえてんだよ!てめぇ顔覚えたからな!
「あの~すいません、あなたもここで山羊狩りを?」
青髪の人間種の男が話しかけてくる、大盾持ってるからタンク職の人かな?
「いや、俺はこの先の洞窟に用があって来たから気にしなくいいよ」
その言葉を聞いて周りにいるプレイヤーもほっとしているように見えるのは気のせいですかね? まあ、気持ちはわからんでもないが……。
「よかった~『爆弾魔』のあなたが参加したら俺ら、稼ぎが出来なくなっちゃう所でしたよ」
苦笑いしながら頭を掻いている仕草が妙に板についているな……こいつ、苦労症なのかな?
ちなみに爆弾魔なんて危なっかしい呼び名は以前ギルドのみんなと一緒に作り上げた爆弾をフィールドボスに投げつけたら、まわりの雑魚もプレイヤーも巻き込んだ大爆発を引き起こしてボスとプレイヤーのドロップしたアイテムを根こそぎ奪っていった時についた呼び名だ。
(あの時はみんな深夜のテンションで頭可笑しくなってたんだよ、希少な材料を惜しげもなく使って作り上げた会心の作品だ……後でみんな死ぬほど後悔したんだけどね)
「そういう事だから、んじゃね~」
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【ミザール大霊峰・洞窟内隠しフロア】
カンカンカン カンカンカン カンカンカン カンカンカン カンカンカン カンカンカン カンカンカン カンカンカン
カンカンカン カンカンカン カンカンカン カンカンカン カンカンカン カンカンカン カンカンカン カンカンカン
洞窟内をピッケルの叩く音が延々と反響することおよそ一時間、目的の物が出ずにキョウはイライラが頂点に達しようとしていた。
「……でねぇ、俺ただでさえ運悪いのにドロ率渋い宝珠がそう簡単に出ないのはわかりきった事なのは知ってたさ、でもこれはあんまりじゃない?一時間頑張ってこれって……。」
『採取結果』
「霊水」×36
「霊銀石の欠片」×122
「霊銀石の原石」×33
「アダマンタイトの原石」×1
「くず石」×1448
「アダマン出た事にはびっくりだけどさ、そこじゃねぇんだよ! なんでこんなどうでもいい事に運使っちゃうんだよ!アダマンなんて他の所でいくらでも取る手段あるんだよ!」
独りで頭を抱えながら洞窟内で叫んでいる者の絶叫が響きわたる、もしこの光景を誰かが見ようものなら間違いなく頭の可愛そうな残念な子扱いされるであろう。
「……はぁ、後ちょっとやって出なかったら帰ろ、最悪市場で高値払って買えばなんとかなるでしょ。」
カンカンカン カンカンカン カンカンカン カンカンカン カンカンカン カンカンカン カンカンカン カンカンカン
カンカンカン カンカンカン カンカンピコーン!
「おぉ!? 出たのか!? 流石俺!」
急いでメニュー画面のドロップ表に目を走らせる
『採取結果』
「霊銀宝珠の欠片」×2
「霊銀宝珠の原石」×1
「? ? ? 」×1
その画面を見てキョウは困惑する、目当ての物は確かに出ている……が、明らかに異質な物がその中に混じっている、キョウはこれでも全クラフターの中で頂点と言っても恥ずかしくない職業とスキルを持っている、そのキョウでも鑑定出来ない未知の鑑定不能アイテムが出てくれば困惑して当たり前だ。
「こんなこと『究極ノ一・創』のジョブとってからは初めてだな……鑑定レベルが足りないってことはまず有り得ないな、なら何らかの手段で鑑定可能な特殊アイテムか?」
このゲームには職業レベル依存の通常鑑定と何らかのアイテムや魔法、攻撃を加える事で鑑定可能となる特殊鑑定が存在する、キョウは全ての生産系職業レベルを課金までして最大まで上げているので間違いなく、通常鑑定品ではない。
さらに今現在発見されている特殊鑑定品も全てキョウは鑑定済みで有る為、未知のアイテムに困惑したのだ。
「ふぅん……久々の特殊鑑定か、腕がなるねぇ~ これそのまま皆に見せてもつまらんな……ここで手持ちのアイテム全部使って鑑定してみるか、出来たらあいつら絶対驚くだろうなw」
そう言ってウキウキ気分でメニューからアイテムを取り出していった、これだけの量のアイテムなら一個くらい当たるだろう、中には相当なレア度の付いた物まであるのだ、これで当たらなきゃ嘘ってもんだ。
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(そう思っていた時期が私にもありました)
「……マジかよ、世界樹の雫にドンケルハイトの花弁まで使った最高のエリキシル剤だぞ?」
結果からいうと手持ちのアイテムは全滅、虎の子の最上位回復薬を使っても全く反応が見られなかったのである。
「こうなったらもう……物理で殴るしかねぇよなぁ~!」
この時、キョウは自分の最高傑作である回復薬が無駄になり、かなり可笑しなテンションになってまともな思考が出来る状態ではなかった。
「オラァァァ! 『ドラゴニック・ブロー』!」
格闘系の上位属性攻撃『ドラゴニック・ブロー』このスキルは打撃ダメージはそこまで大きくはないのだが火属性の継続ダメージを相手に与える格闘系プレイヤーには人気のスキルだ。
ドガッ!っと岩を砕くような音がした後に炎が未知のアイテムを包むと聞き覚えのある音が聞こえてきた。
ポォーーーーーン
この音は全てのプレイヤーが知っている音であり、知らないものはこのゲームをしている存在ならいない。
この音の正体は『アイテム使用音』である。
「……あ」
その瞬間、ほんのわずかな時間だが視界が真っ白に染まっていった。
「あん? 何にも起きないな……なんだったの? いまの」
確かに視界が白く染まったはずなのに周りは一切変化がない、変化しているのは未知のアイテムが綺麗さっぱりなくなっている事ぐらいだ。
「あ~ もったいねぇ事しちまったぁ~! みんなこの事言っても絶対信じてくれないよなぁ……」
ハァ、とため息をついたキョウは目当ての物は手に入ったし土産話もできた事に無理やり気持ちを切り替えてこんなとこ、とっとと出てって帰ろうと出口に向かって歩き始めた。
本来なら掘っていた壁が元に戻るはずなのに戻らず、ピッケルに削り取られたままの状態に気づきもしないで……。
次からやっと本編開始です。
読みづらかったりしたらご意見下さい。
出来る限り読みやすい様に改善していこうと思います。