表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三題噺  作者: どらぽんず
7/101

ななつめ:年末の明暗

ちょっと早いですが年の瀬っぽいお話。


 この時期になると、一年というのはあっという間に過ぎるもんだよなぁと思う。

 暦は十二月。今年も残すところあと一週間というところで。

 一日や一週間は長く感じるというのに、カレンダーを見ればもう今年も終わりが近いのだから驚くばかりだ。

 この時期は暇な時間が多くて宙ぶらりんな気分になっていたり、忙しすぎて何も考えられなかったりと様々だが、今年の私はほどほどに仕事をしつつ、余裕のある状態で年の瀬を迎えられそうな塩梅だった。

 仕事納めまであと数日。少ないながらもボーナスは出たし、年末か年始に何かしたいな、何ができるかなと考えながら日々の時間を過ごしている。

 そんな風に過ごしていると、会社用のメアドに一通のメールが来た。

 件名は『同期で忘年会やらんかね?』というもので、差出人は今でも交流がなくもない同期の一人だ。CCを見れば、同期全員に送っているらしい。

 日時を確認すれば、開催日は今週末の金曜日になっていた。

 今日は確か火曜日で、時刻を確認すれば定時まで一時間とちょっとくらいしかない。

 急な誘いだなぁとは思ったが、こういう機会はそうそうないのだ。自分で企画することはほぼないのだし、折角だから参加するのもいいかなと思って参加の旨を返信する。

 他にはいったい誰が来るのだろうかと思いながら、その場はいったん仕事に戻った。





 金曜日になった。

 仕事をそつなくこなして、会社を出る。

 花の金曜日で、同期での忘年会もあるとなれば、気分もそれなりに高揚する。

 今回の忘年会は会社の最寄り駅に程近い、居酒屋の全国チェーン店であるらしい。

 よく予約がとれたものだと思ったが、着いてみて、なるほどと理由に納得した。

 参加者がそんなにいないようだ。

 まぁ急な誘いだしそんなものかな、とも思う。

 開始時間になって揃った人数は、両手で足りるくらいだった。

 集まった面子は、それなりに付き合いのある連中だ。忘年会などの機会以外にも、二三ヶ月に一回くらいのペースで飲みに行くことのあるやつらばかり。だからこそ集まったともいう。

 まぁ気兼ねも要らないし、ぱーっと気楽に飲むには都合がいい。

 人数分のビールが集まったら、まずは乾杯だ。

 がちゃんとジョッキをぶつけてから、一気に飲み干す。集まったのは飲兵衛ばかり。中身はすぐに空になる。

 追加の飲み物を注文する。ビールばかりのやつもいれば、最初の一杯だけ付き合ってカクテルやらチューハイを頼むやつもいる。誰が何を飲むのかわかっている間柄だ。いつもお前は甘いのだよなぁとか、おまえだってビールばっかりじゃねえかなんて笑い合う。

 飲み物のついでにつまみやら主食になりそうな料理を頼んでおく。

 ここの売りは分厚いチキンステーキだ。ガーリックを効かせてカリカリに焼き上げているのがたまらない。明日は人に会う用事もないから気にせず食べられるのが最高だ。

 料理や飲み物が来る間に交わされる会話の主な内容は仕事の愚痴ばかりだ。

 やれあの上司は仕事ができないだの、客は常識が無くてゴミだ屑だと言い合って意気投合した後で、この後うちの会社はどうなるんだろうなぁなんてしんみりしたりもする。

 ひたすら飲んで、話して、笑って。腹も満ちて、酒に酔って、じんわりと満足感を感じ始めると、話す話題も少なくなって少し静かになる。

 まぁそれでも話は尽きないものだ。自分でもどこから出てくるのか不思議になるが、どーでもいいようなちっさな話題でもとりあえず振って笑ってしまう。

 細々とそんなことを続けていると、店員がラストオーダーを伝えてきた。

 もうそんなに経ったのか、なんて思いながら会計を確認して割り勘する。取りまとめは発起人の仕事だろと、過不足ない金額を手渡してから先に出た。

 酒であったまった体に、外の冷たい空気は気持ちよく刺さる。

 これからどうするかなぁ。二次会でも行くなら付いていこうか。久しぶりにカラオケとか行きてえなぁ、なんて思いながら視線を適当に回したときだった。

 駅に向かう流れと飲み屋に向かう流れが混ざってごった返す人混みの中に、見知った人影を見つけた。

 それは一組の男女だった。一人は同期の紅一点で、もう一人はこれまた同期のそこそこ雰囲気イケメンだ。俺には負けるけどな。――ごめん見栄張った。あいつはイケメンだ。仕事もできるし。

 なかなかいい雰囲気のようだ。二人で見つめあいながら笑い合っている。向かう先は雰囲気のいいバーだろうか。この辺りはそういう飲み屋も探せばある。

 そう思ったところで、後ろから声がかかった。残りの連中も出てきたらしい。

 視線を一度後ろにやって返事をした後で、視線を人混みに戻してみたが、もう二人の姿は見えなくなっていた。

「……うらやましいねぇ、まったく」

 こちらは女日照りの男衆。あちらはいい雰囲気のロマンスか? 格差社会ここに極まれりってやつだな。世知辛いぜ。

 これからどうする? なんて会話が聞こえてきたので、おらぁと声をあげて言った。

「二次会行くぞ二次会! 今日は飲み尽すぜ!」

 どうしたんだよいきなり、と半笑いの声が返って来たが、構うことなく進む。しょうがねーなぁという声が聞こえて、数人が付いて来る気配がした。付き合いのいいやつらだ。最高だぜまったく。

 進んでいる途中で声をかけてきた客引きの兄ちゃんと交渉している間も、さっき見た二人の姿が脳裏にちらついたが、心中でけっと笑い飛ばしてかき消した。

 交渉はうまくいった。割安で飲み放題。お通しにプラスで一品つく。なかなかの成果だった。

 連れに結果を話せば大喝采だ。大したことじゃないとは言え、褒められるのは悪い気分はしないもんだ。笑いながら兄ちゃんについていく。

「よーし、飲むぞ飲むぞ!」

 あっちはあっちで楽しめばいい。こちらにはこちらの楽しみがあるんだから。

 ……負け惜しみじゃねーぞ。断じてな。

 誰に言い訳をするでもなくそう思いながら、二次会の会場となる居酒屋にみんなで入った。


今回のお題は以下の三つ。

1)居酒屋

2)魔法

3)ステーキ

※三題噺お題ジェネレータより。


2)の魔法については入ってるかな? って感じですかねぇ……。

異性とうまくやることが不思議って感じでひとつ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ