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三題噺  作者: どらぽんず
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にじゅういち:異性の友人を迎えに行くのは面倒だ


 ――だからこいつを迎えに来るのは嫌だったんだ。

「ごめんね、あの子ったらいつも待たせてばっかりで。……こんなのしかないけど」

「あー、いえ、お構いなく」

 迎えに来た友人の母親の言葉に、愛想笑いで応じる。

 今居るのは、友人の自宅、そのリビングだ。

 正直気まずい。友人の家であるし、その両親とも顔合わせをすることくらいはある。近所だし。でも、だからといって、その友人が居ない状況で、他人の親を前にしてくつろげるほど図太くはない。

「…………」

 思わず漏れそうになった溜息を飲み込んで、目の前に置かれたものを見る。

 サーブされたのはコーヒーと、付け合せのチョコクッキーだった。ミルクと砂糖は見当たらない。砂糖は入っているのだろうか? ブラックは苦手なのだが、出されたものに文句をつけるわけにもいかない。

 覚悟を決めて、カップに口をつける。

 ……にっが。

 顔をしかめないように努めたが、うまくいったかな。

「……ふう」

 溜息の代わりに、飲んだ後の一息という形で息を吐く。これくらいは許されるだろう。きっと。たぶん。

 リビングに会話はない。友人の母はこちらを気にしていないように――実際気にしていないのだろうが――リビングを出たり入ったりしながら家事をこなしている。

 がちゃがちゃと慌しい音を背景に、沈黙が漂っている。非常に気まずい。この気まずさを感じているのは自分だけかと思うと苛立たしくて暴れたくなるが、なんとか抑える。

 どうしてこうなったのかと言えば、それは数日前にした約束のせいだ。

 いや、せいだ、というのは今の感情から来る形容である。

 本当は楽しく遊ぶための約束なのだ。

 来る週末に、暇だったら集まって遊ぼうという、ただそれだけのこと。よくある話だろう?

 そう、そこまではよかったのだ。よかったのだが……ここのお宅のお子様は遅刻常習犯だった。その上、置いていけば癇癪を起こすし、責めれば泣き出す我侭なお嬢様。扱いに困るったらない。

 まぁそれでも付き合いがあるのだから、それほど嫌っているわけではないぞ? うん。

 話がそれた。

 そんな暴走車をうまく目的地に誘導してやらなければならない、ということで、家の近い自分がお迎え役に抜擢されたというわけだ。

 そして時間に間に合うよに家を訪れてみれば、案の定寝坊をしていたらしく、インターホンに出てきた母親にたたき起こされて当人は大急ぎで準備中となっている。

「……何度目かわからんがな」

 もう我慢しきれないと、溜息が口から漏れてしまった。

 いかん、と思って周囲を見る。幸い、友人の母親はリビングに居ないタイミングだったらしい。ほっと胸を撫で下ろす。

 友人の自室から聞こえる騒がしい音を聞いて、まだ準備が終わるまでに時間がかかりそうだと判断した。

 他の友人たちにその旨を連絡すると、左右の膝上に、両肘をそれぞれ置いて手を合わせて、合わせた手の甲の上に額を乗せて、心の中で愚痴を呟く。

 ……女子の家なんだから、女子が迎えに来いよ。

 愚痴を頭の中で回し始めれば、その勢いは止まらない。


 今日はいないからいいけど、父親なんかが居ると最悪なんだぞ。普段はリビングに居たがらないって話らしいのに、待ってる間ずっとリビングに居てこっちをちらちら見てるんだから。母親だってリビングに入る度に、なんか思うところがありそうな視線をちらっちら向けてきやがるんだ。居心地が悪いなんてもんじゃねえ。それを話したときの友人連中の態度が想像できるか? 楽しんでやがった! しかも、それを判った上で、俺しかいないんだから行ってこいとまで抜かしやがる! 本当に勘弁してください。いやマジで――

 

「おっまたせー!」

 ――と、ぐるぐる思考が回っていたところで、聞き覚えのある大声が響いてきた。

 深くなっていた思考を通常復帰させてから、コーヒーを一気に飲み干して席を立つ。

「ちょっと、反応してくれてもいいんじゃない!?」

 そんなことを言う友人の横を抜けて玄関に向かい、すれ違った友人の母親にお礼を言ってから外に出る。

「もぉおお、待ってよー!」

 外に出てから、自分を追いかけて一緒に外に出てきた友人に振り向く。

 その反応に驚いたように、友人はびくりと体を跳ねさせると、問いかけてくる。

「お、おう。何よいきなり」

 その顔、態度、雰囲気のどこにも悪びれた様子が無いことに、毎度のこととは言え、少し腹の立つ部分もあったので、苛立った気持ちをそのまま口にした。

「いい加減ちゃんと起きろ。約束の時間に遅れる、なんてのを繰り返して後で困るのはお前だぞ」

 こちらの言葉にひるんだように表情をびくつかせながら、しかし友人はおどけたように笑う。

「な、なによぅ。怒ることないじゃん。いつものことだし」

「いつものことだから悪いってんだろ」

 この言葉で、本当に機嫌が悪いのだと気がついた友人はさっと顔を青くすると、あわあわと慌てた後で、

「……そ、そんなに怒らないでよ。悪かった、私が悪かったから。機嫌直して? ね?」

 本当に申し訳なさそうに手をあわせて、こちらを上目遣いで見つめてきた。

 その姿勢のままじっとこちらを見続ける視線としばらく向かい合っていると、こちらが悪いような気持ちになってくるから女というのは扱いに困る。この様子を周囲から見たら、男である自分が悪い風に見えるのだから損しかない。

 溜息を盛大に吐く。肩を大袈裟に落として、頭を左右に大きく振って、その後で両手を肩のあたりまで上げるようにしてやれやれと肩を竦める。

 この反応に、友人はすこぶる気分を悪くしたようで、見る見るうちに表情が苛立たしげに歪む。

 その反応を無視して、ただ一言、言っておくべきは言っておくとしようと、友人が何かを言うより先に口を開いた。

「……そう言って、いつもお前はそうだからな。まぁ、致命的に失敗するまでそうしてればいいさ。俺は知らん」

「……っ」

「そんなどうでもいいことよりも、だ。

 約束の時間に遅れてる。既に連絡は送っているが、それでも急いだ方が遊ぶ時間は多く取れるんだ。さっさと行くぞ」

 言って、友人から視線を外して歩き出す。

 友人も、数秒遅れて歩き出して、こちらの横に並ぶ。

「あ、あのさ」

 横合いから、窺うような気配を伴ってこちらに問いかけるようにかけられた言葉が来た。

「なんだ」

 視線を合わせず、ただ先を促すように言葉を送る。

 一呼吸の間を置いて、友人は少し小さな声で問いかけてくる。

「……さっきのは、もう迎えに来てくれないってこと?」

 その問いかけに、真っ先に出た反応は溜息だ。

 友人はこの反応を気に入らないと言わんばかりに、少し前に回って憤慨してみせたが、取り合う理由もないので、横をするっと抜ける。

「何なのよ、その反応は! むっかつくったら!」

 友人が再度斜め前に回ってきて、抗議をするようなポーズをとってみせたので、視線だけ投げて溜息を追加して、言う。

「あまりにもアホな話だったからだ。こういう約束があって、俺が頼まれれば迎えには来てやるよ」

 この言葉を聞いて、友人はぱっと表情を明るくする。

「……ほんとにっ!?」

 何が嬉しいのかわからないし、わかる努力をする気もないのでスルーした上で、続ける。

「ただ、次からは俺を家に招く必要はないと、きちんと親に伝えておけ」

「わかったわかった! 伝えておく!」

 友人があんまりにも軽く頷くので、釘を刺しておくことにした。

「これも何度も言っているはずなんだがな。これに関しては、もう次はないぞ」

 三白眼で睨みつけながらそう言うと、一度言葉をつまらせた後で、

「……わ、わかった。ちゃんとする」

 これ以上怒らせるのはまずいとでも思ってくれたのか、普段より幾分か真剣な様子で頷いてくれた。

 わかってくれたのならいいと、吐息を吐いて頷いておく。お願いした内容が本当に守られるかは正直微妙なところだが、まぁ今回はここで引いておくのがベターだろう。

 ――さて。面倒なやり取りはここで終わりだ。

 そう思って、うー、と唸りながら不満げに俯く友人の肩を軽く小突く。

 小突くと、当然機嫌を悪くした友人がこちらに詰め寄ろうとするので、足を止められないようにうまく避けて、追いつかれそうで追いつかれない絶妙な速さで小走りを始めた。

「おいこら、待て!」

「はっ、これくらいは許されるだろ。お前の所業を考えればな!」

 そう言い捨てて、笑いながら走り続ける。

 まぁこれで、少しは到着時間も早まるだろう。

「こらぁあ! 待てやぁあああ!」

 おおこわ。あちらはこちらの意図に気づいては居ないようだ。いいけどね、別に。

 損な役だよなぁこれ、と思いながら目的地まで走り続けることにした。

今回使用したお題は以下の三つ。

1)控え室

2)付け合せ

3)車

※三題噺お題ジェネレータより。


控え室 は待っている場所ということで、そういう表現を使ったという形でお題消化としています。

全体的にお題消化の仕方が雑な感じが、とても残念です……。

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