二年生、夏
評価、ブックマーク、感想有難うございます。お礼に番外編を書きました。
後日談はゲーム、イベント要素もなく、糖分少なめが続きます。
最初は距離を置いていた。心の中でも敬語を使って近付き過ぎないように、本当に好きにならないようにしていた。それが崩れ始めたのはいつからだったのだろう。
「ごめんなさい。気持ちは嬉しいですけど、付き合えません」
自分の口から出た声は思ったより突き放す言い方になった。ううん、これくらい言った方がいいのかもしれない。
期待させるつもりはないから。
空が曇っているから夏でもそれほど暑くない。それとも夏が終わりに近付いてるからかな。
たぶんどっちもだ。
頭の片隅で考えながら中庭で立ち尽くし、相手の言葉を待った。
すぐに立ち去ってもよかったのかもしれないけど、それも冷たい気がして相手を待ってしまう。
沈黙は長くはなかった。
「好きなやつがいるのか?」
彼の言葉に私は少し考えて曖昧に笑った。
「秘密です」
もうこれはイエスと言っているようなものだ。
好きだけど名前は言えないので、これで納得してほしい。
私の考えていることが伝わったのか、彼は小さく息を吐いた。
「わかった。言ってくれて有難う」
男子生徒はそう言って笑った。
お礼を言われる立場じゃないのに。
彼はまた誰かを好きになる。そうして、私のことは忘れるのだろう。
去っていく男子生徒の背中をぼんやりと見送った。
「……秋だなぁ」
アンニュイな気分になる。
「秋はもう少し先だろ」
唐突に聞きなれた声がした。
「羽ケ崎先生!」
声がした方に振り向くと羽ケ崎先生が立っていた。
「先生、いつからそこにいたんですか?」
「んー……、最初から?」
最初って……。中庭に呼び出されて、告白されて、お断りしてたとこまで全部ってことじゃないですか。
ひとり言も聞かれたし。
聞かれたと思うと妙に恥ずかしい。声を掛けてくれれば――って、一瞬思ったけど駄目だ。
私が逆の立場だったら邪魔はしたくない。告白現場を見るのは嫌だけど、伝えることは悪いことではない。
彼女たちの想いをなかったことになんてできない。あー、嫌なこと思い出してきたな。
「なんでそこで不機嫌になるんだ」
羽ケ崎先生が落ち着かすように私の頭を優しく撫でる。
「……ちょっと思い出してただけです。気にしないでください」
「気にするなって言われても気になるだろ」
先生の両手が私の頬を包み込んで視線を合わせる。
「抱きしめたかった。抱きしめて、宣言したかった。俺のだって……」
心臓がドキンと跳ねて、ぎゅっと締め付けられるように苦しくなる。苦しそうに熱を帯びた視線が絡みつく。
「私も、大声で叫んでみたいです」
私が笑顔で返すと、先生はくすくすと笑った。
「里衣なら、やりそうだな」
「やりませんよ。私だってちゃんと大人になってきてるんですから」
「大人ね……」
「先生、大丈夫です。もう折り返し地点ですから」
やっと二年の夏が終わる。三年の卒業まであと半分。一年と半年。
「あぁ。待ってるよ」
先生は眩しそうに目を細めて笑った。
私も待ってます。誰でもない羽ケ崎先生からの”好き”を――