狭間より見つめる者
異世界行きのイベントの直後に辿り着く場所が異世界だと、いつから錯覚していた―?(訳:はい、異世界到着は次回になります)
『退屈極まりなし』
声が聞こえる。えらくエコーの効いた声だ。例えるなら、真の黒幕とかラスボスが現れる時みたいな。性別は…どっちなんだろうか。男のようにも思えるし、女のようにも思える。かと言って、中性的とかそういうんじゃない。
俺は今、よく分からない空間にいる。いや、よく分からないなんてレベルじゃない。ハッキリ言えば、異常な空間。
上か下か、左か右か。そんな方向感覚が狂わされ、更には重力だとか引力だとか、そういう『自分が認識できる自然の力』が出鱈目に働いてるときた。現に俺の視界を埋め尽くす赤黒い景色の中で、極彩色どころか言葉では形容しがたい色合いをして、オマケにテレビ番組の海外特集の中でも見ないような禍々しい岩が、あっちこっちに飛び回り、互いに衝突を繰り返してる。
かくいう俺も、あっちへこっちへと、縦横無尽に飛び回ってる。正確に言えば振り回されてる、の方が正しいかもしれない。まるでジェットコースターみたいだが、スピード感も何も感じない。それが逆に、気持ち悪い。
…うう、そろそろ吐きそうかも。
『はてさて、此処が閉鎖された空間になってから、どれ程の時がたったか。そもそも時というモノが、此処に存在しているのか。それすらも、忘れてしもうた』
また声がなんか言ってる。閉鎖された空間?こんな馬鹿みたいにただっ広い空間が?
『此処に果てという概念は無い。故に広さを測る事など、叶わぬ事よ。小さき人間』
あれ、もしかして聞こえてる?おっかしいな、頭の中で呟いたつもりなのに。
『思考や心を読むなど、造作も無し。もっとも、お主では到底理解できない方法で、だがな』
はぁ…よく分からんが、とりあえずそういうもんだと納得しておこう。で、ココ何処?アンタ誰?
『それならば、声のする方へ向けばよかろうて。さすれば、我が何者かも、自ずと知れるであろう?』
やだよ、と即答させてもらおう。どうせアレでしょ?見たらSAN値とか色んな数値が削れちゃうんでしょ?嫌に決まってんじゃん。
…見ないからな。ぜってぇ見ないからな!
『意固地になるな。可愛い奴め。どれ、ならば余が直々に…』
か、川ッ!?え、ええと、山!…違う?それに今、「余」って、自分の呼び方変わっ―トゥエ!!?
な、なんだ!いきなり体の向きが変わったんですけど!?この野郎、急に動くからビックリしたぞ!心臓は大丈夫だったけど!
あー、見えちゃったよ…なんか黒いのが逆さになってて胡坐かいてて…上半身?がなんかイソギンチャクの触手とか蛇みたいにうねってら…そこまでショックじゃなかったけど。なんていうか、どっかで見覚えが…アレだ、美術の教科書だかで見た、メデューサの頭の石像。あれに足生やして黒く塗りつぶしたらこんな感じになる気がする。しかも、顔と思える部分がまるで見当たらない。鼻や口、耳すらも無い、シルエットだけのような姿だ。
『ほう、妾の姿を見て、平然としていられるか』
今度は「わらわ」って、確かそれ女の…って、多分気にしちゃいけないんだろうな、うん。それに「平然としていられる」って言うけど、正直此処にいるだけで実はちょっとパニクってたり。
『…フゥム。見た目は小さき人間。しかし、その内に秘めたる魂は、常人のそれを遥かに逸している、か。これはまた、面白い者がおったものだ…『彼方』も、まだ捨てたものではないという事か』
あちら?あちらってもしかして、俺のいた所ってか、世界の事?てことは、此処は所謂異世界ってやつなのか?
『此処は、世界などと呼ばれる程の所ではない。全ての生命にとっての恐怖、或いは恐怖を知った生命が、最後に辿り着く場所…世界と世界の狭間よ』
…んー、やっぱよく分からん。今の俺には難しすぎる。…成績悪いとか、そんなんじゃないからな!
で、何さ?アンタが俺を此処に呼んだわけ?
『呼んでなどおらぬよ。寧ろ呼びたいぐらいなのだがな。生憎、我輩の方から彼方に直接干渉できぬ。精々出来る事はと言えば…』
うわ、頭の…触手?蛇?どっちか分かんないけど、向こうの方に飛んでった。
あ、かと思ったらすぐ戻ってきた…って、何処かで見たような鈍色の球――ああっ!あのオッサンが持ってた!
『…この玩具を、スキマを通して彼方に送り込んで、此方にやってきた人間で遊ぶ事ぐらいかの』
わぁ、予想通りすっごい趣味悪い。てか、アンタの頭に見覚えがあると思ったら、あの球から出てきてた蛇じゃんかよ。
『…あれは朕に非ず。我が気を受け変容し、気枯と化した知を持たぬ者共、その一部よ。だが、そんな事はどうでもよい。お主が此処に来た事の方が重要よ』
なんかやたら難しい言葉の…ラレツ?とかそんな感じで、何言ってんのかさっぱり分からんぞ。つまりなんだ、あの球から出てきたのは、アンタじゃないって事でいい…のか?
まぁそれはそれとしてだな、一応言っておくけど、俺だって好きで此処に来たんじゃないぜ。今すぐにでもこっから出ていきたいぐらいなんだ。けど、体が自由に動かせないし…あー、困ったなー…と言いながらチラ見してみたり。
『さてさて、変わり者の小さき人間よ。其方のその魂を見込んで、頼みたい事がある』
ワーオ、なんか俺スルーされてない?後、誰が変わり者だ、誰が。…まぁいいや。何となく自分でもそんな気はしてるから。で、頼み事?
…やーな予感しかしない。
『なぁに、そう難しい事ではない。ただ此処にいて、儂の遊び相手になってもらうだけの話よ…永遠に、な』
あーんやっぱりィー!しかも永遠!んなもん無理に決まってらぁ!
『案ずる事無かれ。時などというものは、此処では無意味にして無価値ぞ。故に、肉体が朽ち果てる事も無し』
いやいやそういう事じゃないんですって。何が悲しくて、ずっとアンタのオモチャとして扱われなきゃいけないんだよ。てか永遠にこんなところいたら絶対気が狂うって。主に退屈で。
あ、そぉだ。知らない人にはついてっちゃ駄目だって、先生や親から言われてるし、俺はここらで…。
『そうかそうか。では、何をして遊ぼうか。何せ、マトモな生命なぞ、久々に見るからのう…さっき来たのも、知無き者共に食われてしもうたし…ぬぅ、選択の余地が有りすぎるというのも、中々考え物よのぉ…』
聞けよ人の話ィ!何!?強制なの!?何様だてめぇ!つかさり気なく怖い事言ったなオイ!?
『話を、聞く…?…ああ、某は人ではないぞ。かと言って、お主ら人間の言うような神と呼ばれる存在でもない』
そこじゃねぇよ!確かにアンタが何者なのか訊きたくはあるけど、聞いて欲しかった所はそこじゃない!
…あ゛ー、疲れた。喉もガラガラになってきて限界。駄目だ、このままだと間違いなく、未来が無い。ジ・エンドだ。かと言って、どうやってこっから逃げればいいんだ…?
『小さき人間よ。時として、諦めが肝心なのだぞ』
じゃあアンタが諦めてくれっての――ん?なんか右の方が…眩しッ!
『ぬ?また門が開いたか…嗚呼、なるほど。先客がいたというわけかえ。…腹立たしい』
何?門?先客?それってどういう…。
『…そうさな。ならば、こういう遊びにするか』
ってオイ!何触手で俺に触ろうとしてんだ!そういう趣味ねぇ――っつぁあアア!!!??!?いってぇ!なんかチクッてした!背中が!掻きむしりたいけどそこまで柔らかくないんだって!!しかもなんか、痛みがどんどん酷くなってる気がするんだけど!!?
『慌てる事は無い。少しばかり、お主の体に力を注ぎ…もとい、細工を施したまでの事』
余計悪化してませんかねぇ!?って、今度はなんだ…体が右に引っ張られて、というより落ちそう―落ちる!?もはや重力の概念すらないの此処!?ニュートン先生もビックリだよ!
『なんだ、いきなり喧しくなりおって。…そんなに、吾と一緒にいるのが、嫌なのか?』
そんなヒロインみたいな事言われても困るんですがガガGAAAA!!!!痛い!とにかくいてぇ!痛すぎて頭がどうにかなりそうなんだよ!こんな痛み…今ま、で……ごがっ…。
『…フゥム、魂自体は逸脱して―れど、やはり幼――――か――――るま――――』
あ、なんか、声が、遠く、なっ、て――――また――落ち――――――――――
『さて、楽しませてもらおうかの』
何故か最後にその一言だけ、ハッキリと聞こえたような、気がした。