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護道幸助の人生経歴

5/21 改訂しました

 むかしむかし、あるところに…


 と言っても、別に昔のお話というわけではなく、寧ろ現代のお話。


 日本のあるところに、護道幸助よりみちこうすけという、ある時期までは(・・・・・・・)ごく平凡な人生を送っていた少年がおりました。


 運動会の徒競走では早くもなく遅くもなく、テストの成績も常に良いわけでもなく悪いわけでもなく。

 素行も特別悪いわけではないものの、人並みに忘れ物をしたり、風邪で学校を休んで皆勤賞を取れなかったりする、平々凡々な子供の例のような少年でした。


 中学では特に部活に所属しておらず、学校が終われば真っ直ぐ家に帰っていました。にもかかわらず、苗字の読み故に「寄り道野郎」とよくからかわれていましたが。


 強いて人と違う部分を挙げるなら、人よりもやや存在感が薄い、所謂空気な所でした。そう、彼という人間を例えるなら、「パニック映画で逃げ惑う群衆の中にいるエキストラチックなモブの一人」と称する事ができるほどに。要は、目立ちにくいのです。とはいえ、それなりに彼と話をしたりする友達もいたため、左程気にも留めませんでしたが。



 さて、そんな彼の人生の転機はといえば、彼がまだ小学生の頃でした。


 ある時、彼は同級生のみならず下級生や上級生達も行くという肝試し大会に、半ば巻き込まれる形で参加する事になりました。

 彼らが赴いたのは、彼らの小学校の裏にある、今は廃校になった小さな小学校。昔そこで誰それが自殺しただの、不審者が殺人事件起こしただのの噂の絶えない、所謂曰くつきと称される学校でした。


 実際のところ曰くつきというのは本当で、それどころか、それらの噂の尽くが事実であったという、陰陽師等のオカルト方面の専門家が見ればお墨付きが得られる程のお化け屋敷だったのです。

 なぜそんな物騒な建物が取り壊されていないのかと言えば、一重にそれは、妖怪ならぬ怨霊の仕業に他ならなかったのでしょう。


 さて、そんな曰くつきどころか地雷原にも等しい所に飛び込めば、当然ながら小学生の彼らは、怨霊達の格好の餌食です。案の定、肝試しにやってきた幸助を含む子供達は、幽霊の群れに襲われ、正真正銘のお化け屋敷の中を右往左往する破目になるのでした。

 そして、幸助もまた、そんな子供達の中にいました。


 当然の事ながら、幸助とて信じられない現象を目の当たりにして、平静さを保てるほど、精神的に成長しきっていませんでした。そのハズだったのです。

 しかし、度重なる幽霊からのドッキリ―少なくとも幸助の視点では―を体験すると、次第に彼の中にある感情が芽生えました。


「鬱陶しくてイライラする」


 なんという事でしょう。血みどろのトラップやら骸骨やお化けが追いかけてくるやらで失神する子供達が続出する中、彼はこの状況に順応し、慣れてしまったのです。その結果―


「ねぇねぇ、なんで僕らに襲ってくるの?僕らなんか悪い事した?少なくとも僕は何もやってないよね?なのになんでこんな嫌がらせばっかりするのさ?ねぇねぇ、なんで?なんでさ?ねぇったら」

『ふ、ふえぇ…』


 慣れというものは恐ろしいもので、唐突にキレてしまった彼は、逆に幽霊を追い回すほどに大暴走。同級生の少年少女が怨霊が襲い掛かってくる理由を突き止め、学校の呪いが解かれるまで、幽霊から恐怖の対象と捉えられる事となったのです。

 気が付けば、子供達の怨霊のみならず、殺人鬼の霊までもが幸助に追いかけ回されていました。

 このような幽霊系ホラーとしてあるまじき展開になってしまうなどと、誰が想像できたでしょうか。


 結局、何事も無かったかのように学校から出てきた彼は、深夜に廃校に来た事がばれ、他の子供達同様大人達に怒られる事となりました。しかし、彼の受難は、これだけに留まらなかったのです。寧ろ、彼の巻き込まれ体質が、この時目覚めたとでも言うべきでしょうか。


 それからというものの、彼は事あるごとに、ホラー映画やホラーゲームにありがちな出来事に巻き込まれました。悪霊や怨霊蠢く家屋、謎めいた怪物の住まう屋敷、それに邪教徒達の根城。某神話のTRPGもかくやな場所に、どういう因果かちょっと出かけただけで辿り着き、下手をすれば一年に二回しか行かなかっただけマシとすら思えるほどでした。

 そんな冒涜的で凄惨な出来事を短期間に何度も体験してしまえば、普通の人間なら発狂どころか、廃人になってしまうでしょう。しかし、幸助は自らの体験してきた出来事の数々を、まるでゲームでの出来事のような感覚で捉え、一向に発狂する兆しを見せなかったのです。それどころか、如何なる状況に巻き込まれようとも、逆に冷静に分析できてしまうほどに慣れてしまったのです。

 いつの間にか精神的に屈強になっていた彼でしたが、相変わらず影が薄く、未だにエキストラ系モブから脱却する事ができずにいました。


 あれから数年。かれこれ何度、恐ろしい目に会い、その都度生還してきたでしょう。彼自身も、通算十回を超えた辺りから数えるのをやめ、巻き込まれる出来事も、似たり寄ったりなものばかりになっていました。そんな彼も、いよいよ中学卒業が間近。

 幸助は高を括っていました。「どうせ、卒業式辺りで何かしらに巻き込まれる」、と。「そしてそれは、ラブコメだとかそういうものとは、一切無縁なものである」とも。

 平和な日常や美少女が一人の男を取り合うような日常よりも、魑魅魍魎ちみもうりょう跋扈ばっこする血生臭い非日常こそが日常である彼にとって、己の人生経験こそがその理由であり、一切揺らぐ事のない根拠でした。

 が、おかしな事に、幸助の予想に反し何も起こりませんでした。そのまま彼は中学を卒業する事ができた彼は、それまでの不安が杞憂だったと、安心しきっていました。


 彼は肝心な事を忘れていました。良くない事というのは、気を抜いた時に起こるという事を。いつだって不測の事態は起こりうる事を。


 そして、今日。卒業旅行と題した旅先で訪れたとある村―言わずもがな、曰くつきの村―で、恐怖経験豊富な彼が今までに体験した事のないような出来事に巻き込まれる事になるのです。

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