第八話 これから先輩になる方と出会って、そのお方から首が刈られそうになった日
今回のお話は某ピョンピョン作品と同じぐらいゆるふわに仕上がって満足。
「いらっしゃい、ワンダーランドへ」
喫茶店へ入ると、早速従業員の女の子が無表情で出迎えてくれた。
愛と同じのシルクのような銀髪に、可愛らしいフリルの付いた白黒のワンピース。頭にはカチューシャは付いていないが、何だかメイド服のような感じだ。日本ではメイド喫茶というものがあったから、割と喫茶店にマッチしているような気がしなくもない。多分。
しかし、この出迎えてくれた従業員さん。声が低いのもあるせいか、かなり無機質でどこか不気味とさえ思う感じがする。
流石にお客様に対してその第一印象を与えるのはマズイと思うのだけれど……
「どうしたのでしょうか? 立っていないでさっさとお好きな席へどうぞお座りやがって下さい」
「どっかで聞いた覚えのある丁寧そうに見えたぞんざいな言い方ね。まあいいわ」
「いや、全然良くないから…… こらー、マリアちゃん! ちゃんと挨拶しないとまたお客様が逃げちゃうよ?」
「怒るのじゃなくて逃げるのね」
「真奈ちゃん、突っ込みどころそこじゃない」
このマリアっていう少女は無口なのか、それともクールな性格なのかあまり喋ろうとしない。愛のお説教を無表情で聞いてはいるのだが、どこ吹く風みたいに聞き流しているように見える。
「真奈ちゃんだから良かったけど…… 普通のお客様には絶対しないでね?」
「はい、分かりました」
「本当かなー……?」
愛はまだ彼女を訝しく思うものの、やがて諦めが付いたのか、私に振り向いてから「取り敢えず適当な場所に座ろう」っと言って、カウンター席の方へと座るよう促した。
私は愛の隣に座り、机に置いてあるメニューを手に取ってどんな軽食や飲み物が置かれているか確認する。
「意外ね…… 料理とか飲み物が前に居た世界と一緒よ。って、そういえば今更だったけどこの世界の文字ってどう見ても日本語よね?」
「この国ヨルガドだけだろうけど…… この国を貧困から守った一人の聖女と呼ばれた一人の女の子が言葉と知識を広げて、この国を豊かにした後、彼女が死んでからもずっと使われてるらしいよ」
「日本人だったのかしら」
「うん、そうかも…… ? 色々凄い人だったみたい。化物の群れに襲われても笑顔で千切っては投げ、千切っては投げ…… 最終的に化物が昼に現れないよう、夜だけに限定させたのも彼女っていう話があるよ」
「以前は昼にもあんなおっかないのが居たの?」
「みたいだね」
私は彼女から色々とその聖女様の話を聞いて、何となくだがヨルガドの歴史みたいなものが掴めた気がする。この国は以前は化物に毎日のように蹂躙され、農耕も出来ずに朽ち果てるだけの貧しい国だった。しかし、そこに一人の英雄が現れてこの国を助け、そして化物が出来るだけ出没しないように昼は化物が全て眠ってしまうように何かの魔法を掛けたようだ。詳しい事は教会が知っているみたい。化物である彼女達が昼に何故起きて居られるのかはまだ聞いていないので後で聞く事にする。多分、あの老人が関わっていると思うけどね。
「メニューは決まりやがりましたか?」
突然、横から棒読みの言葉が聞こえて、私の思考が一旦停止させられてしまう。
そういえば、お昼を食べにここへ来たのだった。
「そうね、頂くわ。私はこのブレンドコーヒーとサンドイッチのセットをお願い」
「私は輸血パック(真奈)をお願い」
「何てものをさり気なくオーダーしてるのよ」
(真奈)っと言う事は、私は寝ている間に誰かに血を取られていたのね。なるほど、気絶する前に餌と言われた理由を完全に理解した。
「かしこまりました、それでは作って参ります」
彼女はそう言うと、やたらと巨大な鎌を召喚させるや私の首を曲がったのこぎりのような刃でいつでも刈れるように構える。
これ、動いたら死ぬわよね?
「そのまま動かないで下さい、首を飛ばすから。では、今から採血します」
「あ、はい」
「ちょ、ちょっとマリア。輸血パックは確か一個だけあったはずよ?」
「貴女が朝食と言って嬉しそうに飲んでたあれですか? 空っぽなのでゴミ袋に入れましたよ」
「あ、そういえばそうだった……」
愛はちょっと恥ずかしそうにミリアから顔を背ける。
その仕草は可愛いけど、今の状況は萌えている暇は無いのよね? だって、首元にまるでのこぎりのようなギザギザの恐ろしい刃があるわけだし。っていうか、中々かっこいいわね、これ。
「大丈夫、私に身を委ねれば痛くはしません。魂ももれなく天国行きです」
「思いっきり殺す気満々じゃない」
「嘘です、忘れて下さい」
「無表情で淡々と言われても信憑性が感じられないけど。でも、嫌いじゃないわ。それと注射器を取りにくいならその鎌をしまいなさいよ」
彼女は必死に片手で大きな鎌を持ち、もう片方の手で注射器を持つがどうしても大鎌が重いらしく腕がプルプルしているし、全く動く気配が無い。そんな感じでも彼女の顔は涼しそうだ。
「貴女に好かれても嬉しく無いです。でも、言葉に甘えてやりやがります」
「あ、やっぱり重たいのね」
ミリアは鎌を私から離すや、亜空間みたいな物を空間に召喚し、その中に無造作に放り投げる。
それから、私に近づいて思いっきり腕を取るや、注射器を刺した。ひどい。
「あら、痛くないわね?」
「私は痛覚を無くすお呪いを知っていますから……」
「それは結構便利良いわね」
「あまり自分には関係無いですけどね、一瞬で終わらせますから。ところで貴女のお名前は影森真奈で宜しいのですか?」
彼女は普通に会話するようにするっと物騒な事を言い、私の名前を確認した。
私は頷いて、「そうよ」っと答える。
「自己紹介がまだでしたので、しておいてやります。私の名前はマリア・ウォーカー…… ただのしがない死神です。以降、お見知りおきを」
彼女はそう自己紹介し、優雅に腰を折る。
彼女のその仕草は美しく、まるで本当の給仕が礼儀をしているように見えたが、いつの間にかお店に入っていたお客に「あのー、すみません! 注文したいのですけど!」っと催促された時に彼女は「ちっ」っと舌打ちをしたので、それはきっと私の勘違いっと思う事にしたのだった。




