第六話 この世界で初めての一日の始まり
一日遅れ申し訳ございませぬ!
チュンチュン、チュンチュン
小鳥のさえずりが聞こえる。
もう朝ね、何だか今日は夢を見る事もなく、寝てしまっていたけど何故かしら?
まあ、そんな事はどうでもいいわね。
早く、起きてから学校の準備をしないと。あぁ、でも。お布団が気持ちよくて出たくない……
チュンチュン、チュンチュン
あぁもう、分かったわよ。うるさい小鳥ね。
「う、うぅん…… ふぁぁ………… ん?」
私は目を開きゆっくりと身体を起こすと、一瞬にして先程まであった眠気が吹き飛んだ。
まず、ベッドの毛布がふわふわとした中世ファンタジーに出るような高級そうな刺しゅう入りピンクの羽毛布団。私のは只の羽毛布団で色が白の筈だ。それから、周りを見て更に目を見開く。
綺麗な本棚に天井にはシャンデリア。壁には持ち運び可能な壁掛け蝋燭があり、扉は木製で黒色をしており、何だか厳かな雰囲気がある。
まるで、イギリス貴族の邸宅に泊まっているような感じだ。
「一体何でこんなところに……? って、あ」
そういえば私は……
数時間前。
「うっ……」
愛が私の首筋に牙を突き入れ、私は顔を歪ませる。
痛みは一瞬で、すぐに何かを注入されたのか、私の身体に一気に倦怠感が襲い掛かってきた。
一体、これは何だろうか? 徐々に感覚が奪われていく。もしかして、麻酔か何か?
ギュッ
「あ、愛?」
愛は私の背中に腕を回し、私に力を入れて抱き着いていた。
私の首筋から血を吸う彼女の姿はまるで、母親の乳を吸う赤子のように見える。だけど、私は泣き虫だった妹の真理を思い出したのだった。
何故なら、真理は私に甘える時や泣いていた時に良く、こうして抱き着いたから。
私は自ずと彼女の背中に両腕を回し、抱きしめ返そうとした。
だが、その前に……
「えっ? 何…… この、んあ……!」
ドクンドクンっという心臓の鼓動が早くなり、身体全体の感覚がみるみる熱くなっていくのを感じた。
それから、徐々に胸が苦しいような、まるで走り続けているような息苦しさが出て、吸われる度に私の息遣いが荒くなる。
両足がガクガク震え出し、何故だか分からないが変な快感じみたものが後からやってきた。
これは…… もしかして……
「……!」
私がこの現象についてどこかで聞いた事があったと思い、それを思い出すその瞬間。
ビクンっと身体が一瞬だけ反応し、一気に嫌な恍惚感というものが身体全体から感じた。
そして私はゆっくりと崩れ落ち、やがて、意識もゆっくりと闇に溶けたのだった。
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以前の事を思い出し、私は自分が死んでいない事に驚く。いや、愛のあの血を吸う勢いは正直、全身の血を抜き取らん勢いだったからね……
まあ、生きてるなら生きてるで良かったと思っておこう。
しかし、血を吸われていた感覚は何というか、強制的に犯されている(体験した事ないが)ような嫌な恍惚感というか性的な快感があった。あれは慣れたらいけない気がするし、私は多分慣れないだろう…… 多分ね。
「あぁ、私の初体験が奪われたわ…… 女の子に。でも、愛なら許すわ。可愛いし」
私がそんな事をうっとりとした口調で半ば冗談半分で言うと、突然扉の向こうからガチャン!! ッと、陶器が割れた音がした。
それから少しして、扉が開いて恐る恐るといった様子で顔が真っ赤な愛が顔を出す。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、えっちな気分にさせて本当にごめんなさい」
「あ、ごめんなさい。冗談だから、顔を上げて?」
割と本気で謝り倒されて、こちらもつい謝ってしまう。
何だか純粋無垢な愛に少しでも卑猥な事を言うと罪悪感みたいなものを感じてしまったし、それを兼ねてね。
「……」
「……」
二人で無言になってしまい、凄く…… 気まずい。
昨日の今日だからというのもあるからそれも拍車を掛けている。
取り敢えず、一言も喋らなかったら何も進まないし、私はコホンっと咳払いしてから愛に話しかけた。
「あの素敵なお爺さんから貴女の餌になってくれって言われたのだけど、どういう意味かしら? 言葉の意味通りだとしたら、何故こんな部屋で拘束もせずに、私を丁重に扱ってくれるのか気になるわ」
「え、えっと…… Masterは真奈を人間のまま仲間に…… しようと、思ってるみたい」
「人間のまま…… 仲間に? って、あれ? え? つまり、彼は化物を仲間にしているという事?」
「う、うん。私とか…… 他にも、居るよ。えっと、ここはMasterの家だから、誰かがお仕事のシフトが休みなら、会えるかも」
お仕事? シフトっていうのは何だろう?
その疑問を口にする前に愛が悟って、その答えを言ってくれた。
「えっと、お仕事というのはMasterが経営している喫茶店のお仕事でね、仲間の皆と一緒にそこで働くの」
「へぇ、だからシフトなのか」
営業で働くと良くあるシフト制勤務という奴ね。
「身体、大丈夫?」
愛が恐る恐るといった様子で私の身体を案じてくれた。本当に彼女は健気で可愛いらしい。
「勿論」
私は無い力瘤を彼女にわざとらしく見せつけて元気アピールし、それからベッドから出ようとしたが……
愛が部屋の中なのに靴を履いている事に気づき、すぐに顔を下に向ける。
すると、やはりというか近場の床に新しい部屋用の靴が置かれていたので、それを履いてからようやくベッドから出た。
何というか、外国へホームステイした気分になるっというか、実際もう違う世界へ渡ったのだからある意味合っているかもね。
「えっと、この屋敷って広いから…… 案内するね」
「うん、ありがとう」
私は彼女の案内に付いていき、心の中で前の世界ではありえないと思える程、楽しいっという感情に満ちていた。
あぁ、笑顔を抑えるのがとても難しい。こんな事、初めてよ……