第五話 一日の終わり
若干遅れて申し訳ございません。今回でようやく始まりの一日は終わりです
「人間をやめる……?」
「そう、私の力で人間には無い力を君に授けよう」
老人はそう言うと、ニヤリと笑って私に手を差し出す。
「但し、その代償として君は一度死に、人間っというものからかけ離れた存在になってしまうだろう。そう、化物と言える存在にね」
「私は化物から殺されかけたのに、私を化物にするって貴方は大馬鹿なの?」
「そうだとも、私は大馬鹿者さ。だから君に問う。今死ぬか、苦しみながらゆっくり死んでいくか。どうせ、君はこの世界から帰る事が出来ない。どうすれば良いのか一目瞭然じゃないか」
「……」
確かに、むかつく事なのだがこの老人の言っている事は理解できる。
「真奈……」
愛が何故かこちらを心配しているように見ている。だけど、決して「駄目だよ!」っと私を止めるような事はしなかった。まあ、そんなテンプレ展開、現実には無いわよね。
あぁ、そうだ。この世界は現実なんだ。漫画やゲームのようなフィクションでは無い。
それならば答えは決まっているようなものだ。
「良いわ」
「何……じゃと?」
「真奈!?」
二人が思いっきり驚いた表情をし、老人はサッと手を引いた。
え、ちょ。何なのその反応は!? しかも、仕掛けた側の人間が!
私は普通に力がもらえるなら人間やめても良いと思っていたのだけど……
驚いた老人は私を見て、徐々に腹を抱えて笑い始める。
それから、ひーひー苦しそうにしながら続きの言葉を口にした。
「ははは、本当におかしな奴だな。ではこう言ったらどうだろうか、この世界から帰る事が出来ないっと言ったのは嘘じゃ。人間であれば普通に教会へ行けば転移で帰る事が出来る。さて、それを知ってもなお、化物になるのか?」
「へえ、そうなの。でも、私は帰る気なんてサラサラ無いわ。私は元々あの世界から消えたかったのだから」
そう、自分はもともと死にたかったからあそこへやってきたのだ。化物に殺されるのは嫌だったし、この世界に興味を持ってしまったから足掻いた。
だからこそ、この世界で化物として蘇り、生活するのも悪い気がしなかったのだ。
理性があるのかは分からない。でも……
「ほう……」
「でも、だからって人間をやめるなんて駄目だよ…… だって、化物になってしまうと好きな人と恋が出来なくなっちゃったり、大切な人を傷つけてしまう事だってあるんだよ? 私がそうだったから」
愛はそう言うと、私にずいっと近づいた。
そして、ゆっくりと私に何かを見せるように、大きく口を開ける。
彼女の歯には、人間に無い鋭く長い牙が二本生えていた。
やはりというか、彼女は化物だった。
つまり、そういう事だ。
この世界で人間から化物になっても、人間の姿で居られるし、何より理性と感情を捨てない。
本物の狂った化物にならない。だから、私は人間の感情と記憶を持っているのなら死んで生まれ変わっても良いと思ったのだ。
「吸血鬼って、知ってる?」
「えぇ」
「なら説明はいらないね…… 私はこの世界で死んで吸血鬼になったの。だから、人間の血を吸わないと生きていけない…… だから、人間と関わったらいけないの。襲うこと以外は」
襲う事以外? …… つまり、彼女が私を助けたのは新鮮な血が欲しかったから? だけどそれなら何故、私を真っ先に襲わなかったのかしら? それに、彼女は血を欲しているように見えないし、私をあの世界に帰そうとしている。
彼女の気持ちはありがたいが、それでも私は、元の世界へ戻ろうとは思わない。
戻ってしまったら、きっと私は私で無くなるだろうから。
そんなのは理性の無い化物と一緒だ。私が私で無くなったら生きていても意味が無い。
だから、私は戻らない。絶対に。
唯一の心残りは恵美だけど…… 彼女に置いていかないでっと言っておいて、自分が消えているのだから最低というか自己中というか…… 今思い出すと自己嫌悪したくなる。
「私は……」
私は化物になる。
そう言おうとしたその瞬間。
突然、愛が抱き着いてきた。
「愛?」
「あ、マズイのう」
「マズイって…… あ」
老人の言葉を理解し、私は恐る恐る愛を見る。
すると、彼女は私の首筋に顔を持ってきており、その長い牙を今まさに突き立てていた。
「ふむ、良い事を考えた」
「えっと、それは何かしら? っというか、彼女を引き離してもらっても?」
「君を化物に変えるのはやめだ。代わりに、提案がある」
「提案?」
私が訝しく思いながら彼の言葉を復唱すると、彼はにやりと笑って、
「君はこれからずっと、愛の餌になってもらおう」
っと言いやがったのだった。
次はライトでほのぼのチックな朝~昼のお話になります。