第四話 謎の老人と出会った日
ハートフルな心優しい老人が登場します。
愛によって、助けられた私こと『影森真奈』は彼女と一緒に化物の居た不気味な夜の街をブラブラと散歩をしていた。
彼女から何か武器を持った方が多少生き残れるだろうっと言われたので、私は先程倒したマネキンの化物が持っていた血だらけの鉈を手にし、取り敢えずこの街を歩いている。
勿論、警戒は怠らない。
もしかしたらそこらへんの小道や、私の近くにあるマンホールから奴らが現れるかもしれないっと、予想を立てておかないと急に襲われたら人間の私はイチコロだからだ。
「夜は魔物が活動する時間だから、普段、人間は家の中に隠れてるんだよ」
「へぇ、でも。私がここに連れてこられた(?)時に、男の悲鳴が聞こえたけど」
「それは、違う世界…… つまり、私達が元暮らしていた地球の住人がここへ召喚されているの。あいつらは、強引に私達が居た世界から人間を引きずり出して、そして……」
「血祭りパーティーを始めるわけね、恐ろしい事だわ」
私が冗談っぽく、両手をやれやれっと振ってから答える。
すると、愛はじっと私を見て不思議そうに尋ねた。
「愛って変わってるね…… 普通ならパニックになってもおかしくないけど」
「そうかしら? あー、まあ、そうよね。でも、私は普通よ? ちょっとメンタルがタフなだけで」
「それにしては…… 何だか襲われてる時もそうだったけど、笑っ……」
愛が小さい声で続きを言おうとしたその時。
「やぁやぁ、生還おめでとう」
突然しわがれた老人の声が背後から聞こえ、私は驚いてすぐに振り向いた。
私は周りを警戒しながら歩いていた筈なのに、何故かそこには杖を持ったトップハットにコートを羽織った紳士然とした老人が立っていたのだ。
私は取り敢えず手に持っていた鉈をあいつに向かって投げる構えに入る。だって、いきなり人の背後で話しかける奴なんて怪しすぎる。
ともかく、殺られる前に殺れ……だ! あの時と同じように。
私はあいつの顔面に放り投げようと集中を高めて、その時、ふいにあの言葉を思い出して動きをピタッと止める。
『お姉ちゃんは殺人鬼なんかにならないで…… これはわたしの一生に一度のお願い』
「…………」
「あ、愛? 何してるの?」
「え、あぁ。ごめんなさい、てっきり化物かと思ったわ」
「警戒するのも無理は無いさ。君にちょっと話したい事があってね、少しお時間を頂いても宜しいかな?」
「こんな不気味な場所では嫌よ? …… っていうより、私だけなの? 愛は?」
「愛は私の関係者で、愛に君を助けるように言ったのも私だ。何故なら私は君に用があるのだからね」
「貴方があっても、私には無いと思うけど? もし貴方が人間の皮を被った化物なら容赦無く殺すわ」
私は老人に血のこびりついた鉈を突きつけると、彼は嬉々として喜び、更に大きな声で話す。
「そう、それだよ! 私が君に興味があるのはそれなのだよ! この状況で普通の人間ではまず抱かく事が無い冷静な理性を持ちながらも殺すという残酷な感情! 心の中で渦巻いているであろう狂気! その血を見る事に飢えた瞳! 正に、君こそが人間の皮を被ったとんでもない血に餓えた化物だ」
「ただの正当防衛だわ」
「正当防衛にしてはかなり過激だな。影森真奈。ところで、私にいつまで武器を構えるつもりなのだね? 私は君の味方だ」
彼は仰々しく腰を折って、私に礼をする。正直馬鹿にしているように見えてイラッとしたけど、私は隣の少女をチラリっと見てから、冷静に老人に喋った。
「貴方が味方だという証拠を出してくれるまで。ちなみに愛だけは別よ? 貴方の部下だから感謝しないというわけでは無いけど、あくまで私が信頼しているのは彼女だけだから」
「これは手厳しいね」
彼はそう言うと、トップハットのつばを持って深く被ると、フフフ……っと含み笑いをする。
それから、老人は指をぱちんっと鳴らして、何も無い場所からひと振りの細長い剣を出現させた。
「受け取りなさい、これが私が君に送る信頼の証だよ」
「レイピア…… なかなか綺麗ね」
きらきらと光る細見の剣が私の目の前にゆっくりと落ち、それを私は腰を折って拾う。
私が彼から受け取った剣はレイピアと呼ばれる細身の剣で、確か突くことに特化した剣の筈だ。あまり振り回すとその細い刀身は簡単に折れてしまうという……
レイピアは刀身と鍔、握っている拳を守る護拳、握り。全てがまだ濡れたての血の様な赤に染まっており、私は何だか握っていて寒気を感じた。
だけど、それと同時に、私はある種の興奮を感じたのだった。
しかし……
「気に入ってもらったかね、影森真奈?」
「えぇ、とても…… 綺麗なまるでルビーの宝石を付けたアクセサリーをもらった気持ちだわ」
「それは至極光栄だ」
「だけど、だけどね。一つ問題があるのよ」
「ほう?」
私が「一つ問題がある」っと含みのある言葉を口から出すと、老人は眉根を寄せて、こちらを見る。どうやら、予想していた反応と違うみたいで、不快に思ったのだろうか? まあ、どうでもいいけどね。
「一体それは何だね?」
「それはね、私が剣を扱いきらない事よ」
私は正直に答えると、老人は先ほどの表情からぽかんっと口を開けて驚いた表情をした。
「だって私は運動が苦手で剣道なんて受けて居ないし、ずっと家に籠って本を読んでいた人間よ? こんな物振り回せるわけないじゃない」
「いや、その鉈を振り回す気満々じゃなかったか?」
「これだと例えデタラメに振り回しても相手は大きい刃で皮膚を切り裂かれて出血し、いずれは死ぬじゃない。素人でも度胸があれば扱えるわよ」
「なるほどのう……」
「今更じじい臭い語尾を付けるんじゃないわよ」
彼はどうしたものかっと考え、それから愛を見る。
それから少しして、彼は一度頷いてから口を開いたのだった。
「もし、君が良ければだが。人間をやめてみないかい?」