第二話 退屈な日常とのお別れ
真奈は普通の性格をした可愛らしい女の子です
真理は退屈だった日常にほんの少しだけ色を与えてくれる、私の最愛の希望だった。
彼女は私と瓜二つの容姿で、幼いころからずっと私に甘えん坊で、私と違って良くおどおどしていたから虐められていた。
私は幼いころからずっとこんな性格だったから、毎日に嫌気が差していて、自暴自棄になったりした事があった。でも、その時に、彼女は私に言ってくれた。
「お姉ちゃんはわたしの騎士様で、いつも守ってくれるから大好きだよ
私は彼女のこの言葉を聞いて、私は彼女にとって必要とされている人間であり、姉だと自覚が出来た。
初めて、この世界で生きる意味というのを理解した。
私は、この世界での彼女のたった一人の騎士様になる事が、最も生きがいだったのだ。
だから、守るべき彼女が居るだけで私はいつまでもこんな廃れた生活にも耐えれたし、彼女を虐め、辱めた自分の父をも手に掛ける事が平然と出来た。
ただ、彼女を守っていた。
なのに、何で? 何でなの? 真理……
「おーい、真奈ー!」
「……」
「真奈ー! 真奈ってばー!」
「……ん?」
「ん? じゃないよ、一体どうしたの、いつもより全然元気が無いけど?」
通学路を歩いている途中、隣で恵美の声が聞こえ、ゆっくりと彼女の方へと私は顔を向ける。
すると、恵美は心配そうに私を見ていた。どうも、私を心配しているみたいでしきりに「大丈夫?」っと聞いてくる。
私は別に何でも無いっと彼女に言うのだが、恵美は何故か私の言葉を信じてくれそうにない。
「何でも無いって顔じゃないけど? クマが酷いし…… 昨日はちゃんと寝たの?」
「夜更かししたからね…… ほら、私って深夜アニメが好きじゃない?」
「そんな話聞いた事ないし…… ねぇ、今日は休んだら?」
「そうね…… 正直身体が持ちそうにないわ」
「私も一緒に休んで介抱しようか?」
「お願いする…… って良いたいとこだけど、あなたは確か国語の点数が低すぎて補習を受けないといけないのでしょう? 私を心配するよりもそっちを優先させた方が良いわ」
「すっかり忘れてた……」
何故補習の報告を受けたあなたが真っ先に忘れているのよ!
心の中で私は盛大に彼女を突っ込み、それから帰る前に、絶望した表情で落ち込んでいる恵美の名前を呼んだ。
「恵美」
「うぅぅ、何よ?」
「あなたは…… 私を置いて死なないよね?」
「え? 死ぬ?」
「何でもないわ、やっぱり身体の調子が良くないみたい。ごめんなさいね」
どうも、今回の私は本当に調子が悪いみたいだ。
私は恵美に体調が悪いから休むっと言う旨の連絡を任せて、自分は来た道を引き返す。
恵美と別れてすぐ、私は商店街の近くまで歩いて、ふと、あの時に二人組から聞いたあの噂を思い出した。
『この学校の近くの商店街でさぁ、最近変な失踪事件が多いらしいんだよね。知ってる? 何でも、すっかり寂れてシャッター通りになったあそこを一人で帰ると、消えてしまうんだって。何も痕跡を残さずに』
「そういえば、そんな事を言っていたわね」
消える。
何も痕跡を残さず自分が消える。
今では、その言葉が心の中ではひどく響いていた。
生きていても自分が守ろうとしたかけがえのない妹は自殺しているうえ、死体になった父は警察に遅くとも見つかるだろう。そして、私は警察に捕まって今よりも退屈であろう少年院の生活が待っている。下手したらそれよりも最悪な精神病院行きだ。
それならば、私は……
「消えてしまおう…… ただ、残してしまう恵美の事が気がかりだけど…… でも、殺人者と親友なんてレッテルを張られるより遥かにマシでしょう」
私はそう決断すると、一人で人気のないシャッター通りと化した商店街に入るのだった。
「信憑性がありそうな程不気味ね、改めて入ってみると」
中に入ると、ほとんどの店がシャッターで閉じられており、開いている店はあっても何故か店員等は人っ子一人見受けられなかった。
一体どうなっているのだろう?
噂が本当だとしたら、一体何故、どんな原理で人を痕跡もなく消すのか? 普通ならニュースになってもおかしくは無いのに……
私は頭の中で考えながら歩いている時に、店と店の間に出来た小道から、影が横ぎったのを見た。
一体何が横ぎったのだろう?
私は影が気になり、小道に入っていく。
だが、歩いてすぐに何が横ぎったのかが分かった。
「ニャー」
「猫?」
どうやら、あの影はやせ細った野良猫みたいだ。
私は少しだけがっかりし、猫に背を向けて元の場所に戻ろうとしたその瞬間。
ペチャッ…… ピチャッ……
「え?」
何か…… 変な音がする?
しかも、足下が赤く光っている!?
私が不気味な音に気付いた時、足下が光っているのに気付き、慌てて下を向く。
足下には何か幾何学模様みたいなものが描かれており、幾つもの円が重なっている。
まるで、ファンタジー映画とかアニメで見るような魔方陣みたいだった。
「こ、これが…… 失踪事件の……」
喋っている間にもどんどん視界がドロッと血に染まるように赤黒くなっていく。
「あ……あぁ…… 真理…… 今、私も逝くからね……」
私の視界は黒い闇に包まれ、やがて、何も見えなくなった。
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「ほう…… この子は君と良く似ているね」
「う、うん…… そうだね…… 」
「今はまだ放置しておこう、ちょっと反応を見ておきたいからね…… ふっふっふ」
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誰かの声が聞こえた気がする。
一人はしわがれた老人の声、もう一人は、私の妹に似た、臆病そうな可愛らしい鈴の音のような声……
私はゆっくりと瞼を開けて、自分の視界に風景を取り込む。
その時、私は目の前の風景を見てガバッと起き上がった。
「あ、いたた……」
どうも、数時間以上地面の上…… しかも、レンガの床に寝そべっていたみたいで身体がカチコチに固まって、悲鳴を上げていた。
だけど、そんな痛みに構っている暇は無い。
何故なら、ここは……
「中世のイギリス?」
数々のゴシック建築と言える大きな教会や、木と石造りの街並み、夜を照らすランタン達。
街灯があるが、電気の方では無く先端にランタンが付けられている古いタイプで、道も石造り。何より目を引くのが地球ではありえないような眼前に迫りそうな程大きな満月だ。
もしかして、ここが天国なのだろうか?
「だけど……」
何故か街なのに一切の人の気配がしない…… っというより、息を潜めている感じがする。
そして、先程から肺を圧迫するような不気味な感じ……
「ギャァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
「ひっ!?」
何何何!?
一体今の男の悲鳴は何なの!?
私は突然の悲鳴に心が恐怖で支配されていく。
と、とにかくここで立ち止まっては居られない。
私は震える足を気合で立たせ、すぐに走り出す。
ここの地理は全く分からないし何がどこなのかさっぱり分からないけど知った事ではない。
とにかく走れ! 走れ! 走れ!
もし、ここが天国だったらなら、もしかしたら彼女に会えるかもしれない。
だって、眠っていた時に私の耳に入った声は真理に似ていたから。
確証は無いのだけど、でも、目的が無いまま死ぬよりは遥かに良い。
「はぁ…… はぁ…… まったく…… 運が…… 無い、わね…… 私!」
とにかく走り回った結果、私が辿り着いた場所、それは目の前の建物が門で閉じられているうえ、四方が囲まれているといういわゆる行き止まりだ。
ペタッペタッ……
突然背後で変な足音が聞こえ、私はビクッと肩を震わせる。
それから、恐る恐る振り向くと……
目の前に信じられないが、顔がのっぺりとした、まだ生々しい血が付いた鉈を持ったマネキンが居た。
多分、悲鳴を上げた男を殺した化物なのだろう。
「う、嘘でしょ? …… 」
私は自分の前に立つ、不気味な人形を見て呆然とする。
自分が恐怖で何も出来ない事を良いことに、あいつはどんどん鉈を振り上げながら近づいてきた。
今度は、自分が殺されるのか…… 最愛の妹を犯したあの下劣な父と同じ運命を私は辿るのか……?
「冗談じゃないわ……! 絶対あんな男と同じ死に方をしてみせるものか! それに、まだ私はここが何か分かっていない。何も分からないまま死ぬなんて冗談じゃない!」
私はこんな展開を心のどこかで望んでいたのだろう。
今、私はとても生を実感できて、恐怖しながらも今までになく興奮しているのだった。