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あそーと  作者: 春哉那多
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おもいあい

 平凡だった俺の人生は彼女と出会ったことで変わった。

 今の俺は幸せ者だ。

 何故ならとても可愛い彼女が出来たのだから――


 初めて彼女と出会ったのは半年前に家族で行った旅行先だった。

 当時の彼女は修学旅行で来ていたであろう学生に囲まれ、腕を掴まれていた。


「や、やめてください」

「えー、いいじゃん。俺たち来たばっかでこの辺りのことよく知らないんだよねー」

「だからさ、案内して欲しいんだよ。ついでにご飯食べに行こうよ。ご馳走するからさ」

「そのあとカラオケな。大丈夫、何もしないから」


 おとなしめの服装に負けないくらいおとなしそうな性格の彼女に、学生たちは軽薄な口調で次々と誘いをかけていた。


「あーあ、可哀想に」


 そのときの俺は彼女に同情していたが、わざわざ助けに行こうとは思ってなかった。だが正義感の強い両親は違うみたいだった。

 まず父親が彼女たちへと向かい、続いて母親が俺の頭を叩いてから父親を追いかけた。


「うちの娘に何か御用ですかな?」


 明らかに不機嫌そうな声で学生たちに話しかける父親。


「あらあら、そちらの方々はお友達ですか?」


 母親も父親に追従する形で彼女へと声をかける。

 彼女は突然見知らぬ大人に話しかけられて驚いた様子だったが、母親の後ろに隠れていた俺を見ると大きく目を見開いた。


「ほら、何してんだよ姉ちゃん。早く行こうぜ」


 両親に睨まれたので俺は仕方なく芝居に付き合う。


「はっ、はい。うん、ごめんね! ありがとう!」


 彼女も俺たちの意図に気づいたようで合わせてくる。その様子を見た学生たちは「えっ」とか「いや」とか途端に弱気になった。


「用がないのなら行きましょうか」


 母親の一言は学生たちに反論を許さず、俺たちはあっという間にその場を離れた。

 学生たちの姿が見えなくなったところで両親は彼女を気遣い、彼女も助けてくれたことに対する礼を言った。

 他人に対しても過保護な両親は彼女を家まで送ろうとしたが、そこまでしてもらうわけにはいかないと彼女は断った。お互いが引かなかったので、妥協点として俺が一人で送ることになった。俺は表面上嫌そうな態度をとったが内心役得だと思った。可憐で儚げな彼女は好みのタイプだったからだ。

 送る途中、彼女は色々と質問をしてきた。名前、出身、趣味、から始まり家族構成、通ってる学校先など根掘り葉掘り聞かれたが、俺が話すたびに嬉しそうな顔をする彼女を見て全ての質問に答えていった。

思った以上に饒舌な彼女を家まで送り届け、その家がものすごい豪邸だと知って俺はヘコんだ。釣り合うはずがないと思ったからだ。


「よかったら家に上がっていって」

「いや、親が待ってるから帰るよ」


 彼女の申し出は嬉しかったが俺はそれを断り足早に立ち去った。こうして俺の初恋はあっけなく終わった。


 次に彼女と再開したのは転校した学校先だった。

理由はよくわからないが、突然親が転勤することになり、家族全員で引っ越すことになった。親の転勤先は偶然彼女と出会った旅行先で、担任がしきりに勧めた転校先には偶然彼女も通っていた。あまりの偶然に仕組まれたのでは、と思ったがそんなことをしそうな人も理由も思いつかなかった。

 俺は素直に彼女との再開を喜び、一緒に行動するようになった。最初は積極的に話しかけてくれたクラスメイトは、彼女とよく話す俺のことを不快に思ったのか、無視するようになった。ただ、時折恐るような目でこちらを見てくるが、俺には身に覚えのないことだった。

 そんなわけで俺は孤立していったが、彼女だけは気にせず僕に話しかけてくれた。彼女が心の拠り所になるのは当然のことだった。


「俺と付き合ってください!」

「はい喜んで!」


 俺は彼女に告白をし、彼女は間髪いれず返事をくれた。感極まって抱きついてしまったが彼女も背中に手を回してくれた。こうして俺と彼女は恋人同士になった。


 彼女と付き合ってから俺の日常は変わった。不思議なことに今まで無視してきた生徒は手のひらを返すように謝ってきたし、友達もどんどん増えた。彼女は二人でいられる時間が減ったと可愛く拗ねるが、その嫉妬すら俺は嬉しく思った。


「好きだよ」

「うん、私も。愛してる」


 俺たちはお互いを常に想い合っている。

 ホント、俺は幸せ者だよ。

 ただ時折“お姉ちゃん”って呼ばせようとするのは困るけどね。











 一目惚れだった。

 その日、偶然一人だけで行動していた私は運悪く害虫にまとわりつかれてしまった。抵抗しつつ全員の顔を覚え、どう始末しようかと考えていたそのとき、私は彼に出会った。最初は彼のご両親が声をかけてくれ、彼はお母様の後ろで隠れてこちらを見ていた。


「ほら、姉ちゃん何してんだよ。早く行こうぜ」


 初めて聴いた彼の声は変声期を迎えたばかりなのか、低くも高くもなく背伸びをしているようで可愛らしかった。

 彼と彼のご両親に助けてもらった私は、二人きりになれるように会話を誘導して、彼一人に家まで送ってもらうことに成功した。送ってもらう最中色々なことを聞いて、彼が一人っ子であることや、ここには家族旅行で来たことなど様々なことを聞いた。

 私の家を見た彼は何故かそそくさと帰ってしまったけど、大丈夫。だってまたすぐに会えるから。

 私はすぐに父のもとへと向かい、害虫駆除と彼のお父様をこちらに栄転させるよう伝えた。続いて彼が通っている学校に圧力をかけて彼が私の通う学校に転校するよう根回しもした。

 目論見通り彼が転校してきて私は歓喜した。同時に心配もした。彼の周りに近づく人間が多かったからだ。

 私の家はいろんな意味で有名だったので、クラスメイトにちょっと“お願い”をしたら快く聞いてくれた。

 次第に孤立する彼に私は優しく話しかけ続け、彼は私に依存するようになった。


「俺と付き合ってください!」

「はい、喜んで!」


 待ち望んでいた告白をされたとき、即座に返事をしてしまって怪しまれるかと思ったけど、純粋な彼は気がつかなかったようだ。彼の方から抱きしめてくれたとき、私は多幸感に包まれた。

 こうして付き合うことができた今、彼を孤立させる必要はなくなったのでクラスメイトにはまた“お願い”をしておいた。目に見えて明るくなる彼を見て少しクラスメイトに嫉妬してしまうけどそれは仕方がない。最初に会ったときみたいに“お姉ちゃん”って呼んでもらうことで手を打とう。


「好きだよ」

「うん、私も。愛してる」


 彼が“好き”って言ってくれると嬉しい。“愛してる”なんて言われたら昇天してしまいそうになる。

彼は私のことを想ってくれている。私も彼のことを想っている。

 これから先、彼から離れない、放すつもりもない。もし彼が先に死んでしまったら私も死ぬ。私が先に死んでしまったら彼も一緒に死んでもらう。このくらいは当たり前だよね?  だってお互い愛し合っているんだもの。私たちは死ぬまで一緒、死んでからも一緒。

 ずっと。ずっと、ね。






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