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メタリッカー  作者: 小高まあな
第二章
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5/33

2−3

「白藤、大丈夫なの?」

 次に銀次が意識を取り戻したとき、聞こえたのはアリスの声だった。どこか遠くで、ぼんやりと聞こえる。

「お医者様呼んだの?」

「ええ、診て頂いたから大丈夫ですよ」

「……そっか。お見舞いしちゃ駄目?」

「いけません。もしも、お嬢様にうつってしまったら、悲しい思いをするのは白藤ですよ」

「……わかった」

 相手をしているのはシュナイダーのようだ。珍しくアリスが心配そうな声色をしていて、それをシュナイダーがいつものように優しく宥めているようだった。

 ええっと、一体何があったんだっけ。

 ゆっくりと目をあけて、自室の天井を見つめる。

 なんだか嫌な夢を見ていた気がする。

 夢?

 しまった! 寝坊した! アリスお嬢様が起きていらっしゃるっていうことは、とんでもない寝坊だっ!

 意識がぱっとそこに傾くと、慌てて銀次は飛び起き、

「っ」

 息が詰まるような体の痛みに、起こした上体をそのまま丸めた。

 呼吸するのも困難なぐらい、体が痛い。

「銀次くんっ! まだ、起きてはいけませんっ!」

 シュナイダーの声がすぐ近くでして、そっと背中に手が当てられる。そのまま再びベッドに寝かされた。

「シュナイダーさん……」

 名前を呼ぶ声が、自分でも驚くぐらい掠れていた。

 一体、何があったのか。

 いつも冷静沈着で自分達使用人をまとめあげている執事長が、いつになく焦ったような顔をしている。

「あれ……、お嬢様、は?」

 さっきまで彼と会話していたはずだ。

「優里さんにお任せしました。自室に戻られました。……銀次くん」

 シュナイダーの顔が、痛ましげに歪められる。

「何が起きたか、覚えていますか」

 何が、起きたか?

「……あれは」

 覚えている。

 覚えているけれども、あれは夢だと思っていた。思っていたのに。

「夢じゃ……」

「残念ながら現実です」

「旦那様が………」

 旦那様に渡された薬を飲んだから、突然体中が痛んで。意識が飛んだ。

「あれは、一体……」

 言いながら自分の額をおさえるように右手をあげて、

「これ、はっ」

 目覚めてからはじめてみる自分の右手に、悲鳴のような声をあげた。

 それは到底、自分の腕だとは思えなかった。銀色の、薄い鉄っぽい何かに覆われたようになっている。でもこれは、何かを外部的に身につけられたものじゃない。重いとか、そういった感覚はない。感覚でわかる。これは、

「……俺の手が、変わっている」

 左手を持ち上げる。左手は自分の手のままだった。その手でそっと、右手に触れる。右手に、触られた感触があった。いつものような。

 気持ち悪い。なんだこれっ。

 反射的に自分の右手をベッドに叩き付けそうになるのを、

「銀次くん」

 そっとシュナイダーにおさえられた。シュナイダーの手の熱を感じる。

 泣きそうになりながらシュナイダーを見る。いつも冷静で頼りになる、彼を。

「それが旦那様の研究成果です」

 シュナイダーが苦虫をかみつぶしたような顔で告げる。

「旦那様の?」

「説明はあとでします。あとでしますから、今はもう少し眠ってください」

「あとでってっ」

 そんなこと言われたって!

 そう怒鳴ろうとした瞬間、腹部に強烈な痛みを感じた。

「ぐっ」

「銀次くんっ」

 体の中を何かが暴れているような気がする、痛み。

 体を丸める。少しでも痛みを逃がそうと、左手で腹部をおさえる。

 痛い痛い痛い痛い。

「銀次くん」

 シュナイダーに左手を掴まれた。

「しゅな……」

 彼の手には、注射器が握られている。

 ああ、鎮痛剤とかそういったものだろう。

 痛みが自分の大部分を占める中、どこか冷静に思った。

 ちくり、と針が刺さる。

 右腕がなんだかとても熱い。

 気分が悪い。

 痛い。

「銀次くん」

 優しく名前を呼ばれる。

 きつく目を閉じる。

 はやくはやく。痛み止めが効くのでもいい。痛みのあまり失神してしまうのでもいい。はやくはやく。

 この痛みから逃げたい。

 きつくきつく、目を閉じた。

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