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 まちはUFO騒ぎで浮かれていた。宇宙人襲来!?などというありがちなテロップを貼り付けて、実際にUFOを目撃はしなかった大勢たち。しかし、よくある話、とは捉えられなかった。

 なにしろ規模がすごい。まずはネットで騒がれて(しかも投稿動画数が一つや二つではなかったのだし)、『紫光』を動画越しに全国、いや全世界の人間が見ることになる。

 まちには多くの取材陣が押しかけていた。

 まちに住まう人々は取材にやや心浮かされつつも、煩わしいという思いを感じながら横目でやり過ごす人も多かった。

 ある朝の番組で、ゲストに呼ばれた奇妙な、著名人らしいが一風変わった人物が『紫光』映像を眺めると、突然、番組の想定している内容とは違う言葉を、長々と語りだした。

「このUFOは、宇宙人の宇宙船ではありませんねぇ」

 なにか、悟ったかのような口ぶりだ。

「宇宙船ではない?」何か迷惑そうな顔をしながら言うアナウンサーの言葉に、著名人は頷く。

「いわば……これは……」

 ぼそぼそしながら、彼はパネルを足元から取り出して、カメラに見えるようにした。

 パネルには、黒色のサインペンで手描き。表と裏、と真ん中に縦線があって、右側が表、左側が裏、という風に示されていた。

「なんでしょう、これは?」

 胡散臭そうにアナウンサーはパネルを覗き込んだ。

 著名人は、説明をはじめた。

「この世界にはですねぇ……もう一つの世界があるんですよ! このUFOは、その世界に住んでいる人間のものです!」

 スタジオ中の空気が、凍りついてしまった。

 アナウンサーは画面に映っていない人たちを気遣う表情を浮べながらも、どうしようもなさそうな疲れを感じている風だった。

 そのうちに、丁度良いタイミングで、CMに入った。

「うわー、変な人だったねええ」

「なんか雰囲気、きもちわるかったし……」

「結局、何なんだろう……よくわかんなかった……」

「あー私もUFO見たかったなあ。あ、そろそろ出ないと遅刻かな」

「面倒臭いな、さぼりたいー」

「ははは。みんなでUFO話するの楽しみじゃない」

「それは……確かにその通り! あぁ。気分を盛り上げよっかな」

 その女子高生は自分の通学バッグからルーピックキューブを取り出すと、危うい手つきでカチャかチャと六面体を揃えようとしはじめた。

「ギターを上手く弾けるようになるためとは言え、頭使うのはだるいよぉ~」

 と弱音を吐きながら、カチャカチャする。

 手先を器用にしたいという思いから、頭を使うのが苦手な彼女もルーピックキューブをやってみるなどのことをしているのだった。

「さて、行こうか。用意できた」

「これ完成したら~」

「完成させたこと、一度もないと思うんだけど……」

 三人の女子高生は談笑しながら、一晩泊まった空井 美南ミナの部屋から出て、階段を降りて一階の玄関から、外へと出たのだった。

 空井 美南ミナ、山部 希奈キナ、海葉 依衣那イイナ

 希奈、美南、依衣那はバンドを組んでいる。バンド名は3モンキーと言った……。

 たまたま名前が似ていて、しかも三人揃うと、見ざる、聞かざる、言わざると言った風に丁度なることに絹髪塚が気が付いたことから、3モンキーというバンド名になった。ただしメンバーが増えたら3モンキーを名乗っている訳にもいかなくなるはずなので、その辺はどうするつもりなのだろうと心配性の空井 美南、リーダーの山部 希奈は良く考える。海葉 依衣那は呑気なので別に考えない。

 依衣那はルーピックキューブに飽きたので鞄に閉まうと、

「UFOもう見えないのかなぁ~」

 と天を仰ぎながら、物欲しそうに言う。

「見えないよ。昨日の夜に出現したらしいんだから」

 と希奈はうっとうしそうにしながら言うと、ペチ、ペチ、と依衣那の背中を叩いた。

 依衣那は、はぁ、とわざとらしいため息をつく。

「UFOみたかったな~」

「……昨日の夜、気が付けば良かったよね……」

「ん、美南、調子悪そう~」 

 依衣那は時たまに、普段は呑気な性格なのに、細かな変化に気が付く。

 美南は、ああしまった、と思いながら、

「ちょっと風邪気味なのかな……」

 と言った。美南は様々なことを心配していたから、気分が優れなかったのであるが、依衣那と希奈に察されたくはなかったから、風邪と言ってごまかしたのだ。彼女は相変わらず、二人にはバレないようにストラップを力強く握り締めていた。

 3モンキーは、てくてく雑談しながら歩いている内に、駅に到着する。

 多くの高校生や社会人が乗車している電車に乗り込んで、ボックス席を確保することはできないが、つり革三人分は確保できた。

 近くにいる誰かが汗臭いと思いつつ、3猿は電車に揺られながら、学校へと向かった。

 途中、雪也、陽一、菜霧の三人も電車に乗った。

 黒、金、白の三人は相変わらず目立っていた。

(うーん)

 3モンキー”聞かざる”でリーダーの希奈は、このUFO騒ぎを自分の結成しているバンドのために何とか利用できないか、と想像してみた。電車に揺られながら。ルーピックキューブで暇潰ししている依衣那を見ながら。たしかに美南は風邪を引いているためか気だるそうだなぁ、と思いながら。

(だめだ、わからね)

 全然良い策も思いつかないので、後で絹髪塚先生にでもいろいろ相談してみよう、と決めた辺りでUFOの話をしている男子高校生たちの会話が耳に入ってきた。

 でも、電車の音がうるさいので、……UFO……という風に単語しか聞こえなかった。

 やがて、電車が、駅に止まった。

 一気に大勢の高校生たちが降りていく。美南、希奈、依衣那の三人も当然に下車したし、雪也や陽一や奈霧も下車した。UFO話に花を咲かせている男子高校生たちも、楽しそうにソレについて話ながら、下車した。

 駅前には、報道陣がいて、インタビューされている高校生や、まちの住民もいた。

 普段より、駅前はさわがしい。テレビカメラや、記者たち。

 タクシーの運転手のおっちゃんたちなどは、運転席で迷惑そうな顔をしている人もいれば、インタビューを受けたそうに何気ない素振りをしている人もいた。

 で、報道陣は大勢の人々にインタビューを繰り返す内に、『紫光』という奴の存在はやけに信憑性の高い光、デマではなく実在していたUFOなのではないか、と想像することになった。なにせ、ほとんど多くの証言が、食い違うこともなく、一つのUFOが確かな存在であった確率を高め、深めてくれたからだ。

『紫光』がPM:8:00からPM:9:00あたりに、まちの上空で、8の字を描いていた。

 目撃した人の多くがそう語ったので、まちの住民が人集めのために大勢で嘘を付いているということでなければ、昨夜、まちの上空で、本当にUFOが遊泳していたということになる。

 UFOの存在。

 多くは、不気味なソレがまちの上空に飛んでいたにも関わらず、楽しげにインタビューされ、語っていた。普段よりも賑やかになったまちの風景を喜んでいる雰囲気さえあった。

 まるで、お祭り騒ぎ。

 しかし雪也、陽一、菜霧の三人は、お祭り気分ではいられなかった。

 


 普段、『2-D』の生物を担当している教師が出張でいないため、絹髪塚が授業をしていた。

 絹髪塚は授業が上手いので生徒から歓迎されつつ、授業を行っていた。

 陽一は絹髪塚のことや授業内容のことは、ほとんど気にもかけず、昨日からおかしいと感じられる様々な異変のことを思っていた。

 昼頃に見た奇妙な夢。

 黒魔術の部屋で田中に教えられたこと。

 久しぶりに意識を失った菜霧。

 小学校で見た、謎の人影。

 今朝には、UFO話。

 

 ――そして今度は、何が起きると思う?


 声が、教室中を反響エコーした。陽一に聞き覚えはあった。電車の中で菜霧の白髪が長く伸びた時に聞いた声音だ。

 反射的に、周囲百八十度に顔を向けた陽一は、まず菜霧がまた血を吐いている瞬間というのを目撃する羽目になった。

 深湖 菜霧はそのままパタリと顔を机にうつ伏せにしてしまう。血がどんどん広がって行き鞄に垂れたり、床に染みこむ。血がノートにもかかってドロドロに。

 夢だ、夢だと陽一にはわかった。

 だがそれでも菜霧がむごたらしい惨状に陥っている様は、ひどく陽一をひきつらせた。事態はそれだけに止まらず、以前の夢でも聞いた音が、より激しい調子になって教室中にヒビを入れはじめた。   

         ピキリ               ピキ

   ピキリ      ピキ    ピキリ          ピキ

  ピキ     ピキリ          ピキ

ピキ      ピキリ        ピキ            ピキリ

   ピキ     ピキ         ピキリ   ピキ

         ピキ    ピキリ     ピキ      ピキリ

            ピキ     ピキリ

 黒板に亀裂が走って開いた先には、以前と同じように子供たちの行軍があったが、その数が比べ物にはならないほどに増加していて、ゆらりゆらりと近寄ってくる様には、前にはなかった殺意のようなものがあって陽一を戦慄させる。

 子供だけではない、怪物もいる。あの「はろぅ」と陽一に告げたような怪物がそこら中、もう黒板だけではなく三百六十度、どの壁をも突き破って、禍々しい有様でこちら側へと近づいてくる。こちら側?ではあちら側があるのか。あれはあちら側からやってくる怪物たちなのか。死の世界からやってきた悪魔たち……幽霊、亡霊の類……人を殺しに、食べにきたのか……そうか、だが、いや……チガウのではないか?

    ピキリ    ガヅン     ピキ   ガヅ ガヅ

  ピキリ ピキ  ガヅ ピキリ   ピキ ピキ ガヅン     ピキ

   ピキリ  ピキ  ピキ  ガヅン  ピキリ   ピキリ    ピキ

  ピキ   ピキ  ピキリ  ピキリ  ピキ  ピキ  ガヅ    ピキリ ガヅ

ピキ    ピキリ ガヅン ピキリ     ガヅ   ピキ   ピキ ピキ  ピキリ

   ピキ   ピキ  ピキリ ガヅン  ピキ ピキリ   ガヅ

  ピキ  ピキリ   ピキ  ガヅン    ピキリ ピキリ  ピキ ガヅ

 ピキ  ガヅン ピキ     ピキリ  ガヅ  ピキリ    ガヅ   ピキ

    ガヅ   ピキ  ピキリ  ガヅ ピキリ  ガヅン

        ガヅン      ガヅ      ピキ    リ

 壁はもうすべてが裂けてしまった。陽一の、前にあった黒板も、後ろにあった黒板も、右と左にあった壁や窓も。すべてが裂けて、奥行きのある向こう側のように見える空間から、怪物と子供たちがゆらゆらと近寄ってくる。

 はじめに被害を受けたのは、絹髪塚だった。怪物に噛み付かれて、首筋から血を吹き出してしまった。教師だけではない。生徒たちにも、怪物と子供たちは噛み付いた。血が、出る。

 『2-D』はあっという間に血飛沫で溢れて、生きていた人間たちは瀕死となってピクピクとショックで痙攣を起こした。

 みんな噛まれて、くるくる踊るようにしながら倒れていく。

 もはや夢の中とはいえ、生きているのは陽一だけ……ではなかった。

 菜霧が、首筋から血を噴き出しながらも、陽一の前にまで歩いてきた。

 そして言った。

「陽一のことも、殺してあげようか」

「やめろよ」

 しかし菜霧は両の手を伸ばして、陽一の首を絞めた。

 首がギュギュと絞まる。呼吸困難になる。

 死にたいとは思わなかった。死なないためには……。

 陽一は、殺される前に、殺さなければいけないと思った。でもそれは駄目なんだとわかっていた。だが殺されなければ殺されるのだった。しかしわかっていることが一つあって、してはいけないということをわかっていた。

 だが陽一は頭の中でわかったりする前に、もう菜霧に向かって両手を伸ばしていた。

 陽一の手が、菜霧の首にあてがわれた。その首はひどく冷たかったが、力を込めると熱を送ってあげたからだろうか、力を込めれば込めるほど首が熱くなっていった。

 ポキリッ、とどちらかの首の折れる音が鳴った。

 それでも、どちらも力を込めるのをやめなかった。だからどちらの首もポキリッ、と音を鳴らして折れてしまった。

 ポキリッ、という音が夢から覚める合図だったらしい。

 陽一は夢から目覚めたから、現実に戻ってきた。

 陽一は現実に戻ってきたから、もう安心だと思って大きなため息をついた。


 ――どうしたんだい? 上ノ原くん。


 まさか、今度は夢じゃないのか、と一瞬思ったがその声は絹髪塚のものだった。例の声ではない。

 陽一は彼自身が想像するよりもずっと大きなため息をついてしまって、そのため息は、絹髪塚の耳にまで聞こえたらしいのだ。

 二日連続でそういう恥をかいたので、うんざりしたが、丁度良く授業が終わるチャイムが鳴ってくれた。

 陽一は気分を転換するために一目散に教室の外へと避難すると、まるで昨日の繰返し、渡り廊下のある方角からルンルン楽しそうに女子高生が歩いてきた。

 田中 由美。

「……」

「……」

 田中 由美と上ノ原 陽一は、互いに睨み合うように立ち尽くした。

 多くの他の生徒たちが何事かと通り過ぎていくのも気にせず、睨み合っていた。といっても睨んでいるのは陽一のほうで、田中は余裕があった。

「なんとなくわかってきたんじゃないかな。私の言うことには従った方が良いんだよ。おとなしく言うことを聞くなら、お前に有利なアドバイスができる。今日起きたUFOの騒ぎだって、まったく関係のないことじゃないんだよ」

「何言ってんだよ、妄想狂」

 もう機嫌が悪くなった陽一は、田中に背を向けてトイレに行こうとした。

 しかし、先ほどの夢のことを思い出した。子供、怪物、血まみれの教室。

 それで、嘲笑うかのようにしながら、田中が言った。

「お前、夢を見たよね?」

 結局、陽一は田中に視線を戻した。もう何も言えるはずはなかった。

 そんな二人のやりとりを、会話こそ聞かなかったが、何かしら二人には因縁深い関係でもあるのだろうかという雰囲気を感じながら、絹髪塚は職員室に戻ろうとしていた。

 絹髪塚は、その途中で3モンキーに呼び止められる。

「せんせぇー」

「あ、君達、練習合宿ははかどったのかい」

「一日だけじゃ……遊んじゃいました……」

「それより先生、UFO騒ぎは私たちのバンドが有名になるために利用できませんかね!」

「え……と、とりあえず、落ち着いて話を聞こうか。次の授業の準備もあるから、あまり時間はないんだけどさ」

 絹髪塚と3モンキーは職員室の方へと、連れ添って歩いていった。

 それと丁度同じころ。

 ある事件の、第一発見者が、誕生した。

 遠夜 雪也が、屋上で、死体を発見していたのだった。

 

 

 

 

 


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