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毎回通りに、松長 十字朗が偶然にロボット製作の現場を発見し、あんまり手伝う気もないくせに「手伝おうか」と言った。
毎回通りに、田中 由美が松長 十字朗に呪いをかけて、口付けさえもして、彼に幻覚を見せたりなどした。
毎回通りに、上ノ原 陽一は田中 由美によって黒魔術の部屋に招待されて、おかしな連中や菜霧の花のストラップを見て、儀式に付き合わされる。
毎回通りに、その日の放課後に深湖 菜霧の中に運命の主が侵入して潜み、その影響で意識を失って倒れた菜霧の様子を見に保健室へと陽一と雪也がやってきて、三人揃う。
毎回通りに、黒魔術の儀式とか田中の発言とかで動揺していた陽一の向かい側の席で、髪の毛がロングになった菜霧を目撃して、三人とも戸惑う結果になり、小学校へいって、で三人とも少年の影を見る。
毎回通りに、まちの上空にUFOが出現し、松長も高校の屋上でその遊泳を目撃する。そして松長は妹の幻覚より黒の本を手渡され、黒の本の中に自らの魂を取られて倒れる。
毎回通りに、次の日の朝にはUFO騒ぎで報道陣がまちにやってくる。UFOの目撃情報のせいでまちが浮かれている中、雪也が松長の死体を屋上で見つけ、陽一はまた黒魔術の部屋に呼ばれて、田中が自分の魂を使って、六芒星より黄金の槍を呼び出す。
毎回通りに、怪物たちが現れる。皆死ぬ。
毎回通りに、悪魔と対峙した雪也も、拾った黒の本から吐き出された魂を通して、銀色の刃物を棒と歩行ロボットを糧として召喚するが、やられてしまって気絶する。
毎回通りに、雪也と陽一は事情もわからぬまま、悪魔退治をはじめる。
毎回通りに、サタンが六芒星を通して運命の世に出現しようとする。
毎回通りに、二人の活躍によって、六体の悪魔は金と銀に染められる。
毎回通りに、最後の仕上げのために、雪也と陽一と菜霧が多目的ホールへ足を入れる。
そして、毎回通りでないことは、二つあった。
ひとつは、3猿と絹髪塚、そして3猿の新たなメンバーになったひとり、に生じていた大きな違い。その大きな変化とはすなわち、微妙に美南以外の四人も忘れていない記憶がある、という点だった。知らないはずのボーカルにしたくなる歌声の持ち主を、全員がその存在をわかっていて、騒動が始まる前に絹髪塚が彼女を勧誘、バンド3猿の新たなメンバーとして引き入れたのである。しかも、その新たに加わったボーカルの彼女も、自分がこうして誘われることをなんとなく察していたのは、まさしく本来失われているはずの記憶が、やや彼女らに影響を与えているということに違いない。
彼女たちは騒動が起きる前に、四人揃って、練習までした。絹髪塚はその練習風景を幸せそうな表情でみつめていた。それはおそらくルーピックキューブの影響というのはあった。前回の事件の時、ルーピックキューブを完成させたことによって明るくなった四人は、歌声の持ち主を探索するモチベーションを保つことができて、ついにストラップを持って歌を歌っていた四人目を、発見することができた。
ルーピックキューブが完成したのは、依衣那が、記憶を失くしていても毎回の繰返しの間にルーピックキューブをいじっていたために、その腕前が増していたからであったわけだが、百回ほどの繰返しによって事件の途中で六面体の色を揃え、完成させることになった。
これが結果として、事件中の四人のモチベーション向上に繋がり、ボーカルとなる新メンバーを見つける運びになり、そのタイミングで逆行がおきたために記憶が完全には消去されず、印象に強い記憶が残った。
そんな彼女らに、謎(運命の主の声)のお告げが。
これらがひとつめの変化だった。
そしてふたつめの変化は、この繰り返してきた事件の結末に関わってくる変化で、もちろん『最後の手段』によって生じた変化なのであるが。
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秩序の主は彼乃 雷都に必要最低限の情報しか与えていなかっから、彼乃 雷都は自分が適役だと適当な理由をつけられただけなのに納得していたが、実際には能力的な面で言えば任務を遂行するにあたっては、彼以外の適役はいくらでもいた。
しかし秩序の主は、運命の主へと、皮肉な結末を味合わせたいので、元々は運命の世界の住人であった彼乃 雷都をかのUFOに乗せて、じつは里帰りであることも教えぬまま任務を遂行させた。彼乃 雷都は何も知らされていなかったし、何も覚えてはいない。
知らされていたのは、任務推敲のために必要な部分だけで、決して本当のことを教えられることはなかった。
まず彼のしたことは、UFOでまちを遊泳すること。
この行為も秩序の主にしてみれば挑発のために重要であり、運命の主への露骨な見せつけでもあった。
お前の世界に侵入してやったぞ、今から世界のヒビを修正してやるぞ、という見せつけ。
UFOには操縦者と同乗者がいて、彼乃 雷都は同乗者だった。彼はUFOより跳び下りて、夜中の屋上に着地する。そして松長 十字朗が倒れている現場に彼乃 雷都は夜中、UFOから地上に降りた途端に出くわした訳なのだが、任務時には任務以外のことには気を配らぬよう教育されているため、スルーする。
彼乃 雷都は校舎内に屋上の扉より侵入し、朝がやってくるまで警備員にもばれぬよう、一夜を校舎内で潜伏する。
朝になって生徒がやってくるタイミングで、一番早く学校にやってきた人間をターゲットにして即座に意識を失わせて拘束、その姿形を完全にコピーしてから、排除する。
こうして教室内にて紛れることに成功した彼乃 雷都は、違和感がなるべく出ないよう会話は控えていたが、何食わぬ顔で一生徒として授業を受けた。
目標である深湖 菜霧という人物を目視し、作戦期間中、常に補足しておき、指定されている時間にしっかりと彼女を殺害しなければならない。想定外の事態の発生もありえるから、なるべく早く対象を目視しておきたい、と授業中に任務内容について考えていた彼乃 雷都は、おぞましい化物の突如たる出現に戸惑うことになる。
何故、ここにこいつらが現れるんだ、と秩序の世界と対立している混沌の世界の低級の火の玉怪物が現れたことに戸惑いつつも、彼乃 雷都は授業が中断されたこと事態は好機と見て、これなら自由に動いても大丈夫だ、と深湖 菜霧を補足するために、行動を開始した。
で、呆気なく見つかる。
なにせ、目立つ白髪。
彼乃 雷都は正直、衝撃を受けた。自分のように白髪の人間を、目標として殺せという主はなんて非情なんだ、と、秩序の駒である雷都も、信じられぬ思いで目を疑った。
気持ちが、ぐらり、とした。
しかし訓練と教育を受けた兵士である彼乃 雷都は、感情を廃して任務を遂行する。
時がやってくるまでは彼女が他の理由で殺されぬようサポートしつつ、指定の時間がやってくればしっかりと彼女を殺す。それで任務は成功となる。主がそうおっしゃっているのだから、それを遂行するまで。
たとえ殺す相手が自分と同じ白髪であろうが、そんなのは任務の成否には関係のないことのはず。任務を遂行する兵士である自分が動揺して失敗を犯してしまえば、それこそ問題だ。ならば、白髪であることなど関係ないと肝に命じ、時間がやってくるまでは深湖 菜霧を監視していればいい。そして時間が来るまでは彼女を場合によっては護衛し、時間がくれば殺す。
自分の感情をコントロール術も知っている彼乃 雷都は、兵士として秩序の主からのミッションを達成するために、行動し、待機する。時には、白髪である深湖 菜霧や、彼女と仲の良いらしい男性と接触して、なぜか脳味噌がざわつくような感覚が生じた時はあった。ムズムズするとでもいうような感覚。
けれども彼乃 雷都は、とにかく任務に集中し、土好と自らを偽り、バレない所で、ひっそりと菜霧のことを監視していた。騒動が起きたはじめに一度だけ深湖 菜霧と接触しておいたのは、もし自分の姿が何らかのアクシデントで彼女に見られてしまった時に、知り合いとして認識されておけば、怪しまれる具合も減るだろうという思惑の元であった。
監視の途中、遠夜 雪也の活躍を何度か見て、秩序の世界を困らせる混沌世界の悪魔をいとも簡単に殺している彼に、尊敬の念を抱きそうになった。と思っていたら、こんどは金髪の、名前はわからないが『よう』と呼ばれていた人物が悪魔を一方的に殺しているのを目撃して、普段兵士として悪魔と苦戦して戦っている彼乃 雷都としては、開いた口が塞がらなくなる光景だった。
自分と同年代くらいであろう見た目の男性が、悪魔を簡単に殺している。
これは兵士としての彼乃 雷都の尊厳がやや傷つけられる光景ではあった。
しかし秩序の歯車となって動く彼乃 雷都は、自身の尊厳よりも任務の成否のほうが重要事であり、それさえ成功すれば、ともなって自らの尊厳も回復すると経験上知っている。
彼乃 雷都は息を潜めて時を待った。
一度だけ、堪えきれぬ衝動で動いてしまい、遠夜 雪也を邪魔するような声をあげてしまったのが自分でも信じられぬ気分で、失敗だったのだが、それ以外には失敗もなく、完全に影に潜んで過ごすことができて、対象を監視し続けた。
(あと、すこしだ)
ある程度ずれることを前提ではあるが、時間は指定されている。
その指定された時間がもうすぐ訪れるとやや安堵していた時に、彼乃 雷都はサタンを校舎の中から目撃してしまい、またも開いた口が塞がらなくなり、そうになった。
何とか口を塞いだまま彼は、何でこんなところに大悪魔がいるんだ、と兵士としての冷静な心をわずかに失い、戸惑う。サタンには様々な借りがあった。仲間であった兵士たちを殺された経験もある。サタンは彼乃 雷都だけでなく秩序の世界の兵士にとっては仇そのものの存在だ。
(だが俺一人であれを倒せるはずもない。UFOの操縦主はこの情報を主に送っただろうか……いや、主はそもそも、この事態を理解しているのか!? 俺は本当にこのまま、任務を遂行していていいのか……いや、いいんだ、変更の連絡もない。任務は、続行!)
感情を自らコントロールし、平静を取り戻した彼は、一旦サタンのことは忘れて、その後も監視を続けた。
そして、多目的ホールに、陽一、雪也、菜霧と揃ったとき。
その陰で、彼乃 雷都も息をひそめて、近くにいた。
彼らの会話を聞き取ることはできなかったが、しかし彼らのやりとりは何とか見えていて、黒い赤ん坊の姿も見えていた。そして、彼らが、それを刺し殺した時、彼乃 雷都はたしかに目撃する。
(まさか、あれはサタンの本体だったのか……)
一瞬、サタンの影が視界に入った後に、赤ん坊が灰になってパラパラと落ちていた。
サタンを殺してくれた二人に対して、思わず賞賛の拍手を送りたい気分が沸いた雷都。その彼の見える位置で、今度はその二人の喧嘩らしき争いが始まった。
なんてすごい戦い方をする人たちなんだ、と雷都はもう本当に感動した。
そうやって感動している時に、指定の時間だと告げる連絡が入った。
一瞬、かなしい気分にはなったが。
「了解」
土好としてのコピーしていた姿形を解除して、白髪の兵士としての雷都の姿となる。
感動は終わり。
彼乃 雷都は影から身を出した。なるほど、このタイミングならあの二人が任務を邪魔することもあるまい、と雷都は冷静に考えた。先ほどの感動は完全に心より封じ込めて、ようやく任務を果たせるのだと、自分が何を行うべき存在で、何の為に今まで行動してきたのだ、と再確認しつつ、今までは監視対象であった深湖 菜霧を、殺害の対象として切り替える。
そして、あの女性自体は簡単に殺せる、と身のこなしなどで理解した雷都は、これは任務とは関係のないことであったはずだが、任務がもう確実に遂行できるとわかったからだろう、
拍手を送ろうと思った。
ぱち、ぱち、と数回。もう二人の決着がついて静まり返っていた多目的ホールに鳴らして、サタンを殺した彼らに尊敬の念を示しておこう、と。
(いや、油断はするな)
だがやはり目標を殺して任務を達成してから、拍手はしよう、と雷都は決めた。
狙いを定める。首を掻き切る小刀を手に持つ。
そして、走り出して、
(任務、完了だ!)
心内で叫びながら小刀での一閃、菜霧の首元へと鋭く線を走らせて、血を。
噴き出させるはずだったが、血が吹き出たのは……
彼乃 雷都のほうであった。
「かはっ」
血を吐く。真っ二つに両断されてしまった上半身が、下半身からずれ落ちる。
ぐちゃりと生々しい音を発しながら、白髪の兵士は、地面に崩れ落ちて内蔵と血を撒き散らしながら、死んだ。
ぎりぎりだった。
本当にぎりぎりだった。
結果として、『最後の手段』は成功した。
記憶は取り戻された。
三人とも命がある。
運命の主の思ったとおりの結末にもなった。
秩序側も混沌側の思惑も、失敗に終わった。
兵士は死に、悪魔も死んだ。
「あいつらの駒はすべて駆逐された」
ぎりぎりだった。
間違いなく。
だが、ぎりぎりでも思い出せたから、勝利をつかめた。
集中が途切れていた。
迷いがあったために、雪也と陽一は喧嘩をしながらも、どこか散漫的だった。
それが功を制した。足音に、雪也も陽一も気が付いた。
そして陽一はわざと斬られて、雪也は疾風のように地上を渾身の力で蹴り飛ばして、
百回分の怨念と共に、銀色の刃物を振るって彼を殺した。
百回殺された分、一回に百回分を込めて振った刃は、まったく知らないはずの本当は知っているらしい同級生だとは教えられていたが、実感がまったくないために迷いはなかった。
だが、実感があっても、迷いなく殺していただろう。
真っ二つになった死体は、パチパチと点滅して消えた。
多目的ホールには、これで三人だけが残った。
もう繰り返す必要はなかった。
銀色の刃物と、金色の槍には、文字が彫られていた。単純な数文字ではあったが、何かを示唆するような意味は持っていた。その二つにナイフで刻まれた文字は、逆行した上でも消えることなく、記憶を失くしている雪也と陽一に、暗示かと思わせながらその姿を現す。
これが、毎回の繰返しの時よりも、二人の脳味噌をムズムズさせる効果を見せた。
そのムズムズは、彼ら二人の集中力を奪い、散漫で迷いのある気分にさせた。
何かがあるような気がする。一体なんなんだ、と意味深な彫られた文字のせいで、おおまかな筋書きの変更は発生しないながらも、二人の集中力にわずかな違いを発生させる。
そのわずかが、彼乃 雷都の、菜霧へと近づこうとする足音を、二人に気が付かせた。
足音の方へ二人が顔を向けて、白髪の男を一度見れば、ムズムズとしていた脳味噌は晴れ晴れとなりて、忘れていた記憶全てを取り戻させる。
これによって百回以上繰り返されてきた菜霧の死という結末は、菜霧の生へと転じた。
運命の主はこの結末に満足して、機嫌良く声をあげる。
「よくやってくれたから、褒美を与えるぞ。私はあまり関与できはしないが、そのステージを取り計らう程度のことは、主の見えざる手によって可能だからだ」
主は今回で成功させるつもりだったからこそ、駒への褒美を用意していたという。
多目的ホールのステージの、幕が上がった。
声や、音とともに。
4猿としての、初演奏が始まった。




