プロローグ
恋愛小説とか書いたことなかったので、試しに書いてみようかと思い立ちました。恋愛したことないのでリアリティとか筆力とかその他もろもろ足りてないと思いますので、生暖かい目で見ていただけると嬉しいです。
開け放たれた窓から、穏やかな春の日差しと、温かくなった穏やかな風が入り込んでいる。
「はい、手を見せてくださいね」
「うん…」
小さな男の子だ。友達と走り回って遊んでいたとき、勢いあまって転んでしまったらしい。痛いだろうに、なかないように歯を食いしばっている様子が健気だ。
「あら、血が出ちゃってるわね。痛いですか?」
「い、痛くないよ」
「こら、お医者様に嘘をついたらだめなのよ」
母親に窘められ、男の子は素直に「…いたい」と言った。頭を撫でてあげる。
「多分大丈夫だとは思いますが、念のため消毒しておきますね」
棚から消毒液の入ったビンを取り出し、綿を濡らしてピンで掴み、男の子の傷を拭く。
「ちょっと染みるけど、我慢してくださいね」
「うん…」
そう言った男の子は、傷が痛むのを我慢して顔をしかめていたが、最後まで泣かなかった。
「良く泣かなかったですね。強い子ですね」
男の子は小さくはにかんだ。母親に頭を撫でられている。
「ほら、先生にお礼は?」
「うん、ランせんせい、ありがとう」
「どういたしまして」
母親と連れ立って出て行く男の子を手を振って見送り、ランは立ち上がった。窓際から外を見ると、冬から抜け出した木立が、段々と緑に色づき始め、春の訪れを告げている。うららかな風景に一つ息を吐き、「次の方」と声を出した。
扉を開けて入ってきた茶色い髪の男性の患者に笑顔を向けつつ、穏やかな時間の中でランは五年前のことを思い出していた。
もう五年たつ。
早いなと思いつつ、長かったとも感じていた。
「初診の方ですね」
「…ああ、左腕を切ってしまって」
「ちょっと見せていただけますか」
腕を取ってみると、雑に巻いた包帯の下から血がにじんでいた。
「大丈夫かと思ったんだが、夜中にやんでしまってな…」
「ちょっと悪いかもしれないですね。でも大丈夫ですよ。私は医術を使えますから」
包帯を取ると、傷口は結構深く、しかも少々時間がたっていたため、縫合だけでは時間が掛かると思われた。どの呪文を詠唱しようか考えていると、患者の男性が口をつぐんでいるのに気付いた。
「ああ、お代なら気にしないでください。ちゃんとお支払いできる金額だと思いますから」
「…そうか」
ここでは時間がゆっくり流れる。傷の手当をしながら、ランは過去を思い出す。
ああ、あの日も確か、今日のような穏やかな日だった。あのときのランは、今とは立場も何もかも違って、出会った彼は傷だらけ。でも、思えばあの日が、今のランが歩んできた道へ、最初の一歩を踏み出した日だったのかもしれない。
ふと、足を向けて覗いた先での、奇妙な出会い。
長かったな。
そんなことを思いながら、目の前の男に笑顔を向ける。