支度には時間がかかります
お茶会当日、アオイは朝から大変だった。侍女達によって、強制的にお風呂に入れられ、そこから入念にマッサージと花の良い香りのするオイルを塗り込また。ようやく終わったかと思えば、服選びにも時間がかかった。
コニーデ以外の侍女達には、「お茶会があるんだ」と言っただけで終わらせようとしたが、逆に詳しい日時を聞かれ素直に答えたら侍女達の目がランランと輝いていたのが昨日の話。そして、目があんなに輝いていたのは何故かと深く考えなかったアオイは後悔していた
(めちゃめちゃ、みんな張り切ってるよ。もう既に、疲れたよー。こんな事になるなら、言わなければ良かったな。いや、でも結局はばれてたか・・・・)
「さぁ、アオイ様。本日のお召し物が、決定いたしましたよ。本日は、これを着てもらいます!」
見せられたのは、ウエストラインはキュッと締まっていて、体の線を強調するような深紅のワンピースドレスだった。
「いやいや、これは派手過ぎじゃないですか!?」
「まさか! 肌の白いアオイ様には、この色が似合います! 絶対に綺麗で、美しいに決まってます!!」
鼻息荒く、説得にかかってくる侍女達に負け、アオイは渋々頷いた。
「ふふふ。お着替えですよ!」
今まで着ていた服を、容赦なく脱がした後、ワンピースドレスを着せられていくアオイだった。そして、このドレスに合う小物も付けられていった。アオイは、この世界に来た当初、こっちにもピアスと同じ物があることに驚いたと同時に、耳にピアスホールがあるので嬉しい気持ちになったのを覚えている。こちらでは、「レイヤー」と呼ばれている。紅い石で丸い形をしたレイヤーと同じく紅い石のついた首飾りを付けられた。こうして、どんどんアオイの全身は赤に包まれていくのであった。
「やはり、お似合いですわ。お化粧をするのが、さらに楽しみです」
もう、アオイは好きにさせていた。何を言っても無駄だと言うことに、今更ながらに気づいたからだ。もしかしたら、助けてくれるのでは? と期待していたレーゲン、ヴァルトにグレースは「女性が着替えたりするのだから」と言う言い訳の名の逃走をした。コニーデとシュネは、彼女たちと一緒に楽しんでいる。
(グレース達! 覚えてなさいよー!!)
髪を結い上げられ、化粧をいつもより濃く施され、結局全てが終わったのは約束の時間の一刻半前だった。身支度が、終わる頃にはグレース達も戻ってきており、さらにはアンジェ達も来ていた。戻ってきたグレース達を、睨むが視線を逸らされ明後日の方向を向かれた。
「さすが、アオイだ。とても、綺麗だ」
カインが近づいて来て、自然とアオイの手を取り恭しく口付けた。まだ、そういう行為になれていないアオイは、当然のごとく真っ赤になった。
(こっちの世界の人って、よくこんな事ができるよね。あれ? でも、確か中世のヨーロッパ辺りの映画を見た時もこんな感じの事していたよね。・・・・・うん。考えるのは止めとこう)
「ははっ。真っ赤になって、さらに可愛くなった。食べてしまいたいくらいだよ」
平気な顔でそう言うカインに、アオイはクラッと来た。
(どうしよう。もう、倒れそうだわ)
「まぁ、それは冗談としておいといて。あ、でも、アオイが食べて欲しいっていうんだったら遠慮なく食べるけど?」
「いやいや、冗談としておいといてください」
「そうか。残念だな。アオイ、ちゃんと飲んだか?」
「もちろん。約束の時刻の少し前に効きだして、効果時間は四刻。十分でしょ?」
「あぁ。けど、本当に気をつけてくれ」
アオイは、真剣な表情で頷く。
「もう、オレはアオイがいなかった生活には戻れない。絶対にだ。アオイという存在を知らなかった時、オレはどうやって生活していたかなんて思い出せない。アンジェは、アオイを失ったら正気じゃいられないって言ったけど、オレは生きていけない」
愛の告白とも取れる言葉に、アオイの心臓は爆発寸前だ。
(落ち着け、私。カインの言葉に、深い意味なんて無いんだから。考えすぎるな、私。最近、みんなが思わせぶりの台詞ばっかり言うから勘違いしそうになる)
ここまで、考えれてもやはりアオイは鈍かった。あわよくば、アオイに自分の事を意識してもらおうとしている人達ばかりだというのに。それに気づかないのだ。
手を握られ、甘い雰囲気を醸し出していると、その雰囲気を消すかのようにカインの手を振り払われ引き離された。引き離したのは、コニーデだった。コニーデは、そのままアオイとカインの間に入り込み、ギロッと睨みつけた。
「そろそろ、時間になりますので移動をお願いします。場所は・・・・・そうですね。寝室などは、いかがでしょうか? あそこなら、誰かが入っているなんて考えにくいので盗み聞きには、うってつけの場所ですよね。あぁ、もちろん、皆様をアオイ様の寝室に入れるのは、他に隠れる場所がないので仕方がないからですし、何もなさらないと信じているからです。ですので、間違ってもアオイ様の寝室で、よからぬ事を考えて欲情にかられたりしないようお願いいたします」
皇族や自分より身分が高い者に、言うべきではない台詞をサラッと言い、コニーデはアンジェ達を寝室に追いやった。
追いやられる途中、
「カインに、先を越されてしまったが、本当に綺麗だ、アオイ。お前には、赤が良く映えているな」
とアンジェが褒め、
「き、綺麗すぎて何も言えね-!!」
と意外と純真なヒューズが顔を真っ赤に染め、
「アオイは、何を着てもよく似合うね。素敵すぎて、ずっと見てたくなっちゃう」
とセシルが誰もが「かわいい」と言うような笑顔で褒めていた。
「オレは、姫さんの影の中にいるとするか」
「そんなことが、できるの?」
「あぁ、闇の回廊を姫さんの影に繋げばできるぜ。影の中でも、状況は見えるし、話も聞ける。だから、何が起こっても姫さんを必ず守れる」
グレースは、そう言って闇の回廊を通り消えた。
「聞こえるか? 姫さん」
「わぁ! グレースの声が聞こえる」
「当たり前だ。姫さんの影に、入ってるからな。これで、何かあっても、すぐに対処できる」
「ありがとう、グレース」
アオイは、影に向かって礼を言った。第三者から、見ればアオイが独り言を言ってるかのように思えるが、今アオイの周りにいる者はグレースがアオイの影に入ったことを理解したのでそうとは思わない。
「我らは、この部屋の隅で気配を消して待機しております。どうか、くれぐれも無茶だけはなさいませぬようお願い申し上げます、我が君」
レーゲンは、心配そうな顔をしながらアオイに念を押す。
「大丈夫。無茶なんて、しないよ。だから、何があっても私が合図するまでは出てこないでね?」
「承知している。我が君が、倒れても駆け寄らない努力をしよう」
ヴァルト達が、気配を消して隅に移動した後、
「アオイ様、シシリア・フォレス様、ハミール・グラッチェ様、カラリア・デルク様が到着いたしました」
という声がかかった。
「通してあげて。向こうが、お茶を出してくれるらしいからみんなはいなくても大丈夫だから」
アオイがそう言うと、侍女は「かしこまりました」と一礼して出て行った。
最後に、コニーデが「本当に、気をつけなさいよ」という言葉を残して出て行った。
代わりに厚い化粧と強烈な香水、そして露出が多すぎる服を着た女達が入って来た。
(うっ。・・・・・臭い。何、あの化粧。いや、むしろ仮面みたいになってるじゃん。てか、あんなに露出してたら風邪ひくんじゃないの? 私だったら、断固拒否! しかも、色が原色系で似合ってなさ過ぎるでしょ)
顔をしかめそうになったが、なんとか笑顔を貼り付けられた。
更新、間に合って良かったです。
実は、去年の11月25日に私は『黒の冥王』を初投稿しました。
ということで、一年記念日です!
いつも、話がグダグダですみません。
読んでくださっている方々、ありがとうございます!
あまり、話が進んでいない気もしなくはないんですが・・・・・。
はい。進ませてみせます! 完結に向けてレッツゴーです。