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黒の冥王  作者: 紅梅
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求めていた再会

 食堂で昼食を食べ、部屋に戻ってきたアオイが、長いすに座りながらうとうとしていた時だった。

 女神の声が、頭の中に響いたのは。

 眠りかけていた思考は、瞬時に覚醒しアオイは走り出した。

 今まで、うとうとしているアオイを可愛いと思いながら変態のようにじっくりニヤニヤしながら見ていたグレース達はアオイが走り去っていったことにしばらくは気づかなかった。今日の可愛いアオイの姿を頭の中に、焼き付けておくことに夢中になっていたからだ。特に、あの二人が。

 アオイがいないことにようやく気づき、慌ててグレース達はアオイを探しに走り出した。

 そんな人間の事情を知らないアオイは、とにかく全速力で走った。

(うわー。こんなに一生懸命、走ってるのっていつ以来だ? うん。わかんないって事は、すっごく昔って事かー。まぁ、マラソン大会とかテキトーに走ってたし)



 辿り着いたのは、神殿だった。

 肩で息をしながら、儀式などでよく使われるという部屋の扉を、開けた。

 そこで見たのは、少なからずここ最近のアオイが求めていた人だった。一番最初に見えたのは、後ろ姿だけだけどアオイが見間違えることはない。

(あぁ、あの後ろ姿は棗だ。でも、もし万が一棗じゃなかったら?)

 そんな風にも思ったが、アオイは期待を込めて、



「棗?」



 と呼んだ。その声に、ピクリと反応し勢いよく振り返ったのは、やはり棗本人。

「あ、おい? 本当に葵? 夢じゃないよな?」

「棗!!」

 アオイは、棗の問いかけには答えず、ただその胸に飛び込んだ。尻餅をつきながらも棗はアオイをしっかりと抱き留めている。

「触れるってことは、本当だな。良かった。会えて良かった」

「ユリエルが『アオイが会いたい人に、神殿に行けば会えるわ』って言われたから、猛ダッシュでここに来たの。来てくれたのが、棗で良かった。会いたかったよ、棗」

 じんわりと涙で視界が滲んできた。それでも、アオイは泣くのを我慢する。そんなアオイを見て棗は、アオイの頭をぐっと自分の肩の辺りに引き寄せ、

「泣きたいなら、泣けばいい。我慢なんて、オレの前でする必要はないんだ」

 と言いながら、もう片方の手でアオイの背中を優しく撫でる。



「本当は、怖かった。誰も、知らない世界が怖かった。家族も友達も誰もいなくて、寂しかったのっ!」

 アオイは、自分の目から涙があふれ出てくるのを感じ、棗はアオイの頭を寄せた方の左肩が湿ってくるのを感じた。それでも、それを気にした風もなく、ただ背中を撫でるだけだった。

 普段は何があっても泣かないのに、棗を目の前にすると簡単に涙が出てくる。それが、なぜなのかアオイには不思議で仕方なかった。

 しかし、唐突に理解した。


(あぁ、棗が私の全てを受け止めてくれるからだ。私がいくら強がっても、それを平気で崩してくるからだ)


 そう思うと、心に明かりが灯ったように暖かくなる、この感情の名をアオイは知らない。それだけではない。アオイは、グレースやアンジェ達と過ごしている中で、ドキッとしたり、急に心臓の鼓動が速くなったりする意味も、そんな中から溢れだしてくる感情の名さえも知らない。


「そうか。でも、今からはオレがいる。もうお前に、寂しい思いをさせないよ」

「ありがとう、棗」

「うん? 気にするな。ところで、オレに会いたがってたって本当か?」

「え?」

 アオイが顔を上げると、棗と目が合う。まだ、アオイは涙を流しているが、棗はそれを優しく拭った。

「女神? だっけ?? そいつが、言ってた。」

「だって、今まで毎日会ってたのに、急に会えなくなったから。寂しいじゃん」

「・・・・その言葉を、聞いただけで地球から存在を抹消されてまで、お前のところに来た甲斐があったってもんだな」


(・・・・・・・は? まっしょう? 何それ。まっしょう。・・・・抹消!?)


「はぁ!? 抹消!? 何で、こっちに来ちゃってるの! 棗に、拒否権はあったでしょ? 地球に未練あるでしょ!?」

「何でって、お前に会いたかったから。確かにオレには拒否権はあったけど、そんなのは存在してないのと同じだ。地球になんか、未練は全くないよ。良いか? 葵。よく聞け」

「うー、はい」

「オレは、お前がいないだけで世界は色褪せて見える。この意味が分かるか?」

 優しく問う棗だが、アオイはただ首をかしげるだけだった。そんなアオイに棗は、ただ苦笑するだけだった。

「あのな? オレは、お前が好きすぎる。だから、お前がいないだけで世界は色褪せて見えるんだ」

「そうなの??」

「あぁ。この際だから全部言うけど、オレはお前がいないと生きていけない。お前がいない現実に耐えれるほど、オレは強くないんだ。失うと考えるだけで、狂えるほどオレはお前に執着してる」

 ずっと心の中に溜め込んでいたものを吐き出すように、棗はアオイに自分の気持ちを吐き出していった。

「だから、傍にいさせてくれ。オレは、お前の存在を思い出した。もう、忘れたくないし、失いたくもない。頼む、オレの前から姿を消さないで」

 アオイは今まで、こんなにも棗が弱々しく何かを言うところを見たことがなかった。だから、すさまじく衝撃を受けた。

「棗が、そんなこと考えてるなんて全然知らなかった。私は、棗が離れていくまで離れるつもりないから」

「それなら、安心しろ。オレが、お前から離れるなんて絶対にあり得ないから」

 笑いながら、互いを強く抱きしめる。



 その時、大きな音と共に扉が吹っ飛んできた。



 なぜ、扉が飛んできたのか分からず扉が元々あったところを見てみると、アオイが部屋からいなくなったのに気づいて皇宮中を探しまくっていたコニーデ達と、クリスから何者かが召還されたかも知れないという知らせを受けて急いでやってきたアンジェ達がいた。


長くなりそうな予感が、とてもとてもしたので分割です。


初めてアオイちゃんが泣きました。

次は、誰の腕の中で泣かせましょうか。

この人が良い!! と言う人がいましたら教えてくださいませ♪

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