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黒の冥王  作者: 紅梅
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色を失った世界

 オレは、最近自分でも分からない感情に悩まされている。

 寂しくて哀しいと思うのは何でだ??

 何かが足りないと思うのはなぜだろう。



「棗?? もう一回しないの??」

「そんな気になれない。それにオレは、一回だけって言っただろ」

 裸のまま抱きついてくる女を冷たく振り払って、オレはシャワーをさっさと浴びてホテルを出た。

 家に帰るまでの道中、オレの頭の中の半分以上を占めているのは、自分の中にある意味が分からない感情のことだ。


 学校にいても家にいても、家族といても友達といても女といても心にぽっかりと穴が開いているようで寂しい。

 最近、同じ夢を見るようになった。

 暗闇の中、誰か分からない奴の背中を見て追いかけようとしても自分の足がまったく動かない。そして、オレは手を伸ばしながら叫ぶんだ。「オレを、置いていくな!!!」って。だけど、そいつは一度も振り返ることはなくまっすぐどこかへ歩いて行っちまうんだ。そのことに対して、胸が張り裂けそうなくらい哀しい!!!!

 だからか、オレはいつも目が覚めると泣いてる。


 分からない。まったく分からない。オレは、どうしたんだ??

 なぜ、だれといても満たされない?

 なぜ、だれといても寂しい?

 なぜ、だれのことも








 愛せない??




 オレは、女といても女を抱いていても愛せない。それよりも先に、好きになることができない。抱くって言っても、ただの性処理に近いものがある。どんなに、周りが可愛いと言ってもオレ自身は可愛いと全く思えない。



 まるで、自分が誰もが可愛いという女と誰かと比べている(・・・・・・・・・)ように。



 は?

 “誰かと比べてる(・・・・・・・・)”だと?

 オレが、誰と比べるって言うんだ。誰のことも愛せないのに。

 けど、頭の中で“絶対あいつ(・・・)の方が可愛い”って毎回思ってる。これは、紛れもない事実だ。

 でもさ、その“あいつ(・・・)”って誰なんだよ。分からない。そんなことを考えるくらいだから、オレは絶対にそいつを知っている。でも、分からないのは何でだ??

 もしかして、オレは思い出せない(・・・・・・)だけなのか??

 だったらオレは、誰を忘れているっていうんだ!!!!!


 あー!!!

 思い出せない!!

 思い出そうとするたびに、誰かがってか何かが邪魔するように頭にもやがかかった感じになる。掴めたと思っても、するりと逃げるようにすぐに消えちまう。だけど、思い出そうとする中に今まで誰にも抱けなかった感情があふれ出てくる。

 それは、




 “愛しい”




 って気持ちだ。

 あぁ、オレはあいつ(・・・)をこの世の誰よりも愛してた。

 いや、今も愛してるんだ。だから、オレは絶対に思い出さなきゃいけない。

 愛しい奴の記憶がないなんて、絶対に嫌だ。無理だ。泣きそうになる。

 いつまで経ってもあいつ(・・・)は、泣き虫だからオレが傍にいて抱きしめてやらなきゃダメなんだ。それに、オレはあいつ(・・・)が他の男の腕の中で泣いてるなんて考えたくもない。もしかしたら、今この瞬間にも泣くのを我慢しているかも知れないと思うと嫌になる。自分の弱い部分を、強がりで全て隠そうとしていたから。我慢なんてしてほしくないんだ。溜め込んで結局は、溜め込みすぎで爆発して泣くんだ。そんな、泣き方をしてほしくはない。素直に、オレのことを頼って欲しい。

 なぁ、そうだろ?




 (・・・)




 あぁ、そうだ。葵だ。オレが、愛してるのは葵だ。思い出した途端、葵と過ごした愛しい日々の記憶がどんどん色鮮やかに甦ってきた。

 葵、お前がオレの傍からいなくなってオレの世界は色褪せた。白黒の世界にしかならない。

 お前はこのことが、おかしいと思うか? オレは、おかしいと思わない。分かってたことだから。お前が、オレの前から姿を消したらオレ自身がどうなるかなんてな。

 今、どこにいるんだ? やはり、オレは葵がいないこの現実に耐えられそうもない。

 昔から、オレの願いはただ一つだ。葵が、オレの傍にずっといること。いや、オレが葵の傍にずっといられることだ。

 オレの人生は、とうの昔に葵にあげた。オレは、自分の人生を懸けて葵を愛すって決めたから。



 だから、

 会いたい。会いたい会いたい会いたい!!

 この気持ちが、狂気に変わる前に葵に会いたい。

 会って、愛してると告げたい。葵の身も心も、全てをオレのものにしたい。

 葵の傍に行けるなら、神にだって縋れる。

 誰か、頼む!!

 葵の傍にいさせてくれ。オレには、葵が必要なんだ。オレが生きていける理由は、葵なんだ。葵が、いないならオレが生きている意味なんて無い。

 オレが、葵に執着しているのは分かってる。依存してるのも分かってる。だけど、求めずにはいられないんだ。


 ――そんなにも、アオイの事を想っているのなら彼女のところに連れて行ってあげましょう――


(誰だ!?)


 突如、オレの頭の中に響いた声。この声の主は、葵がどこにいるか知っているらしい。


 ――わたしの名は、ユリエル。今、彼女がいる世界で女神をしている者。そして、この世界での、彼女の存在を消した物でもあるわ。この世界での彼女の存在を、完全に消したはずだったのにも関わらず貴方は思い出した。それは、魂に刻まれし記憶。だから、貴方にはあちらの世界に行く権利がある。

 さぁ、どうする?

 行く? 

 それとも行かない??――


(もちろん、行くに決まってる。葵がいるなら、オレはそこがどこでも行く)


 ――この世界に、二度と戻れないとしても? それで、貴方の家族は悲しまないのかしら?――


(葵への気持ちを、なめないでもらいたいな。葵がいないなら、この世界に用はないし未練もない。家族は、二人の本当の子供が生まれるらしいから良いだろ)

 それでもオレは、父さんと母さんには感謝してる。あの二人が再婚をしなかったら、きっとオレは葵に出会えなかったから。だけど、父さん達と葵を天秤にかけても重さは断然葵だから。


 ―――そう。それじゃぁ、貴方を連れて行きましょう。忘れないで。アオイも、貴方に会いたがっていたことを。その気持ちを、狂気に変えないで。もう二度と、わたしは失いたくない。だから、今のままでアオイを愛してあげて――


 ユリエルの言葉の意味が、オレには理解できなかった。

 だけど、


(アイツが、オレのことを見ていてくれる限りこの気持ちは狂気にはならない)

 オレが、そう言った瞬間オレの体は光に包まれた。

やっと、出てきた棗くんでしたー。

プラス

ユリエルの意味深な発言でした-。

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