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黒の冥王  作者: 紅梅
29/49

信用して欲しい

 翌日、コニーデに夜の話をして「よかったじゃない」と喜ばれた。

 そして、グレースに闇の回廊を「簡単だし、他の属性は光で結構な腕前の奴にしか使えないしな」と言われて習っているのだが上手く進んでいない。

 なぜなら、


「なぁ、姫さん。どうやったら風呂場に行くんだ? しかも、湯の中に!!」

「ご、ごめんなさい!!」


 そう、アオイは自分が行きたいところになかなか行くことができないのである。湯の中に落ちたアオイとグレースはずぶ濡れになってしまった。グレースはアオイと共に湯から上がり魔法を使い、自分の服とアオイの服を乾かしため息をつく。

 何も闇の回廊を使って変なところに出るのは、これが初めてのことではないのだ。木の枝の上に出たりとか、皇宮の屋根に出て危うく足を滑らせて落ちるところだったりとか様々なところへアオイは、移動していたのだ。それも全部、アオイの行きたいところとはほど遠いところだが。


「はぁ。力の制御は、完璧なのにな。オレが言った“迷子になりそう”ってあながち嘘じゃなさそうだな。姫さんって、方向音痴だろ?」

「そんなことないよ?」

「じゃぁさ、出かける時とかどうだったわけ??」

「えー?出かける時?? 大抵は、ナツメと一緒だったな。あ、お母さんとかお父さんとも一緒の時もある」

「そいつらがいない時は??」

「んーっと、友達と出かけたりするときは友達がわざわざ迎えに来てくれたりとか自分達がすぐ分かるところとかで待ち合わせしてたよ?」

「そりゃ気づかないわけだ」

 ボソッとグレースは呟いた。


「なんか、言った?? 聞こえなかった」

「いや、なんでもないぜ」

 アオイは、全く自分が方向音痴だということに現在進行形で気づいていない。

 なぜなら、ナツメや両親、友達などがフォローしているからだ。普段、しっかりしているアオイにギャップを感じて「可愛い!!!」と全員が思いながらアオイを迷子にさせないようにしていたのであった。

「よし、次は自分の部屋を思い浮かべてみろ」

「はい!!」

 闇の回廊を出し、アオイは自分の部屋を思い浮かべた。そして、闇の回廊の中に入り歩いて行くと自分の部屋に行くことができた。



「やった!!! グレース、成功したよ!!!!!」

 思わず、アオイはグレースに抱きついた。いきなりの行動だったが、グレースはしっかりとアオイを抱き留めた。

「よかったな、姫さん。十一回目で、ようやく成功だな」

「何? それは、嫌みですか!?」

「まさか」

 と心外そうに言うグレース。そんなグレースを、疑いの眼差しでアオイは見ている。

「いやいやいや、本当に嫌みなんて言ってないぜ」

「ふーん」

 納得してなさそうな声で、アオイは相槌を打つ。



「あら、アオイ? 移動は、成功できたのかしら??」

 洗濯などに行っていたため、アオイの傍から離れていたコニーデが戻ってきた。

「そうなんだよ!! 成功したんだ!!」

「あぁ。十一回目にしてな」

「うるさい! 十一回目は余計だよ」

 グレースの言葉に、アオイは項垂れた。

「まぁ! グレース様? アオイをいじめないでいただけますか??」

「だってなぁ、姫さんをからかうと面白いし」

「面白がらないでください。可哀想にわたしの(・・・・・)アオイ」

「はぁ? 面白がっても大丈夫だ。なんて言ったってオレの(・・・・)姫さんだからな」

(また、始まったよ・・・・・・・・)

「アオイは、グレース様のではありません!! わたしのです!!」

「何だと? 姫さんは、コニーデのじゃないぜ。オレのだ!!」

「良いですか!! アオイと出会ったのは、わたしの方が早いんです。貴方よりもアオイの事を知ってるんですよ!!」

「はっ。オレと姫さんの間に、出会った時間なんて関係ねぇーな。なんたって、この世界で一番相性が良いんだからな!」 

 毎回、グレースとコニーデはアオイの事で言い争いをしていた。互いにアオイのことになると何か、譲れないものがあるようだ。

「それが何か?? 同性ではないと知ることのできない事だって世の中にはあるんですよ??」

「逆に、異性じゃないとできないことだってあるんだぜ?」

「そう簡単に、アオイがあなたに許すわけないじゃないですか!! それに比べてわたしは、アオイの全てを見てるんですよ?」

「わかんないぜ。それは、入浴の手伝いとかしてるからだろ」

 言い争いは、止まることを知らないようにどんどん白熱していく。そして、どんどん話がそれていく。けれども、内容はアオイについてでどこまで言い争いをしてもその論点は変わることがない。

 その争いの原因となっているアオイは、「もう好きにして」とでも言うかのように紅茶を飲んでいた。止めようとは、既に思っていない。止めても無駄なことが分かっているので、それなら気の済むまで言い争いでもなんでもしていろ。という考えだ。



 そんな中、トントンと扉を叩く音が聞こえたのと同時に、

「オレだが、入っても良いか??」

 と言うアンジェの声も聞こえた。



「アンジェ?? どうぞ?」

 アオイが、許可をするとすぐにアンジェは部屋に入ってきた。

「どうかした?」

「いや。仕事が一段落付いたから、アオイとお茶でもしたいと思ったのだが迷惑だったか??」

「んー? そんなことないよ。コニ、お茶の用意お願いね」

「わかりました」

 瞬時に感情を切り替えたコニーデは、アオイたちに一礼をしてお茶の準備のため部屋から出て行った。

「座らないの??」

「いや、座らせてもらう」

 そう言ってアンジェは、アオイの隣に座った。

(え? 何で、私の隣!? 机を挟んだ向こう側の席でも良くない!?)

 アオイは、気づいていない。なぜ、アンジェが自分の隣に座ったのかを。


「殿下、姫さんと二人で座らず向こう側に座ったらどうですか??」

 グレースは、気づいていたので敢えて邪魔をする。


「いや。ここが良いんだ。気にするな。それから、アオイがいないと意味がないから席を移動するとか言うなよ?」

「アンジェがそう言うなら、別に良いよ」

「ありがとう」

 コニーデが、お茶とお菓子を出して部屋から下がる時、グレースは引きずられていった。なぜなら、「殿下達の逢瀬を、邪魔してはいけません」と言うことらしいのだ。グレースは、最後の最後まで抵抗したが他の侍女達も来て「何か、あったらすぐにオレの名前を呼べ」と言い残して連れて行かれた。



「で、アンジェは本当に私に何か用があるから来たわけじゃないの??」

「あぁ。本当に仕事が一段落したから来たんだ。それろも、用がなければ来てはいけないのか?」

「いや、そういうことはないけど。初めてのことだから、何か理由があるのかなー?って思っただけだよ」

「そうか。そうだな。一つだけ理由があった」

「え??」

 いきなりアンジェは、横に倒れ頭をアオイの膝の上に載せた。属に言う、膝枕というやつだ。

「しばらくこのままでいさせてくれ。良いだろ?? これが理由でも」

「いやいやいや。これは、恥ずかしいよ!?」

「気にするな。それに、理由があるのかと聞いたのはアオイだ。なら、聞いてもらうほかないだろ」

「・・・・・はーい」

 下からアオイを見上げるアンジェは、なんとなく色っぽくてアオイは顔を下に向けられない。

(誰かに膝枕って、あんまりしたことないから恥ずかしい)

 チラッとアンジェの方を見てみれば、アオイが下を向かないせいか目を閉じていた。アオイの視界に、アンジェのさらさらとした金色の髪が入って来た。そのさらさらした髪に触りたい衝動に駆られた。

(なに、この髪!! 触ってみたいわ。いいかな?? いいよね)

 自己決定をして、アオイはアンジェの髪に手を伸ばした。梳いてみると、想像以上にさらさらしていて気持ちよかった。


「アオイ? 何やってるんだ??」

 自分に起こっている異変に、気づいたアンジェはアオイに問いかける。

「ん-? ただ、髪を梳いてるだけだよ」

「・・・・・・・そうか」

「うん。アンジェの髪って、気持ちいい触り心地だね」

 ふにゃりとアオイが笑うとアンジェは、少し顔を赤くして「ありがとう」とお礼を言った。

 アオイの笑顔は、アンジェ達に対して警戒をしているとか、信用していないとは思えないような表情だ。しかし、瞳の奥には確かに警戒をしていて信用していないというようなものがあった。

 そっとアオイの頬に、アンジェは手を伸ばした。

「分かってるんだ」

 と頬に触れながら言う。

「何が??」

「アオイが、俺達のことを警戒してること。信用してないこと」

 驚いたようにアオイは、目を丸くさせた。

(知られてたんだ。なんか、意外かも。あ、でもそんなことないか。毎日、いろんな人達と接しながら仕事してるんだし。分かっちゃうか)



「それは、自分達のせいだからしょうがないと思うし、まだ出会って間もないから信用しろって言っても無理なのも分かってる。けどな? 俺達よりも後に、出会ったのになんでグレース達は信用するんだ? とも思う。

 だからちゃんと、アオイの瞳に俺を映して欲しい。俺のこと、俺らのことを信用して欲しい。線を引かないでくれ」

「アンジェ・・・・」

 切なげな瞳で、アンジェはじっとアオイを見つめる。見つめられているアオイは、なぜか目がそらせないと思っていた。

「嫌なんだ。アオイにだけは、拒絶されたくないんだ」

「信用したいと思ってる。だから、もう少しだけ待ってて」

「ありがとう」

 アオイのこの言葉に、アンジェがホッとしたことが分かった。


「それとアオイは、一目惚れを信じないと言ったが、俺は信じてる」

「うん? 良いと思うよ。考え方は、人それぞれだし」

 遠回しに「俺はアオイに一目惚れをしたんだ」と言っているが、話がいきなり違うものになって思考が追いつかないアオイは気づかない。いや、通常時でも気づいていなかっただろうが。



「やっぱりそうなるか。遠回しがダメとなると、直球か? いや、だがそれでも気づかなさそうだし。態度がダメなら行動か?」

 ぶつぶつ言いながら「そうか、行動か」と思いついたように言う。アオイは、そんな様子を不思議そうに見ていた。

 頬に触れていたアンジェの手が、アオイの後頭部に回り手に力を込められた。必然的に、アオイは下に・・・・・・つまり、アンジェの顔に近づいていく。

(え? は? ちょ、何ですか!? このシチュエーションは!!)

 あともう少しで唇が重なるというところで、




「アーンージェー!! 仕事が、一段落したからってアオイのとこに行ってるんじゃねーよ!!」

 と言う声と、



「でーんーかー!! 俺の姫さんに、何しようとしてるんですかー!!」

 と言う声と共に扉が蹴破られて、カインとグレースが入って来た。

 そのおかげで、後頭部に回されていた手は離れ、アンジェはアオイの膝から頭を起こした。



「っち。良いところを邪魔するな!!」

「うるさいな。仕事が、まだあるんだよ!! それに、邪魔するなって言われても邪魔するからな。お前だけだと不公平だろ?」

「不公平ではないな。仕事に戻るぞ、カイン。さっきの言葉、期待してるぞ」

 そう言ってアンジェは、カインと共にアオイの部屋から出て行った。歩きながらカインが、「さっきの言葉って、何だよ」と尋ねているのが聞こえた。


「姫さん、大丈夫か!?」

 グレースは、心配そうにアオイを見ている。

「大丈夫だよ。それに、見てたんでしょ?」

「侍女達が、ずっと話しかけてきてて最後の方しか見れなかった」

 カインが部屋に乗り込んできたのは偶然だが、グレースが乗り込んできたのはアンジェがアオイに口付けようとしているのを見たからであった。思いの外、侍女達がグレースに話しかけていたので、闇でアオイたちの様子を見ることができなかったが、ようやく一息ついたところで闇を使うことができたのだ。しかも、見た時があれだったのでグレースは、アオイがアンジェに何かされていないかと心配らしい。

「“信用してほしい”って言われた以外、何もなかったよ」

「そんなこと言われたのか。それで? 姫さんは、殿下達を信用するのか??」

「したいって思ってる」

「そっか」

 密かにグレースが、信用なんかしなくても良いのにとちょっとだけ思った事はアオイには内緒だ。


はい、ということで未遂に終わりました。

R15を付けているからには、そういうシーンの一つや二つや三つは欲しいですよね。

なのに、未遂です。

アンジェのヘタレー!!

もしくは、

カインとグレースのバカー!!

と叫んでやってください。

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