サメに喰われてしまったプロサーファー
アカネという人物がいる。この間、自分の行いが人殺しであると感じて落ち込んでいたが、今はすっかり元気を取り戻している。
ポッカレモンを翠の原液に混ぜ込んで、新たなる味を研究している。
「それは美味いのか?」
「今から判断するんだよ」
ゴクリと飲み込むと、アカネの喉に清涼感と満足感が押し寄せる。まさに爽快。アカネは脳のドーパミンが弾ける音を聴いた。これはいける。こんなにシンプルな材料のみで、こんなに繊細な味が引き出せることに、今はただ、感謝を。
「長い。お前が楽しんでいる間に、死亡人が来てるぞ」
「余韻に浸る時間くらいちょうだいよ」
「ここは…どこなんですか…」
少年だった。凛々しい顔つきに、漠然とした将来性を感じる。
「えーっと、海外で最年少プロサーファーとして活躍していた天崎楼くん。あなたは練習中、シャークショックによって右足を噛みちぎられて出血死しました」
「…なるほど」
少し間を置いて、彼は言う。
「痛みから気絶してしまい、自分がどのように亡くなったのかという記憶が飛んでしまったようです。シャークショックはサーファーにとって警戒すべき事象。師匠に合わす顔がありません」
少年は大人びていた。冷静さ。そして死んだ自分よりも、残った知人に対する謝罪。そして。
「もう会えないから、顔は合わさなくて良いんだよ」
「…」
カウンターの奥に、空気の読めない酔っぱらい。
「今はそんな雰囲気じゃないだろう。君。この酔っぱらいの前の席に座ってくれないか」
「分かりました」
「私は異世界ホルンの創造神。地球からこちらの世界、または逆方向へと転生させる任があるのだ」
「なるほど…私はつまり、あなたの手で転生させていただけるのですね?」
「そのとーり!」
「うるさいぞ」
神様は隣のボンクラに向けてため息をつく。
「君は何になりたい?君は何をしたい?」
「私は…」
少年の目は、微動だにしなかった。迷いのない言葉が空間を伝う。
「私は、人生すべてを捧げてもいいと思える”何か”と出会いたい。内容は何でもいい。ただ、胸の奥が燃える感情を味わいたい。それだけです」
「承った。それでこそ、人間だ」
「かっけー!」
若干14歳の少年の生き様に、感服する者。そして横には、冷笑するカスもいる。
神様はおもむろに、胸ポケットから小さなメモ帳を取り出した。その表紙には『神図鑑』と書かれていた。
「でも、君は間違ってる!人生なんてどうでもいいから、適当に生きて適当に時間を過ごせば良いんだよ!なんでかって!?よくぞ聞いてくれた!そんな時間にこそ、楽しみがあるからだ…」
「もう送ったよ」
「あれ?」
少年は、土地神となった。そして、その地の土は肥えて小さな文明が生まれ、時代が越され、様々な命が生まれていく。




