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アカネは人殺しなのか

「…運命が歪んでいる」

「え、どゆことですか」 

「そのままの意味だ」

全ての死亡人を見送り、二人はチャミスルを飲みながらポテトリングをつまんでいる。大学生か、とツッコミたくなる。


「異世界の方だ、今ケレスト王国で戦争が起きている。私がかつて転生させた二人が国内で敵対しているそうだ」

「あんたのミス?バカじゃん」

「彼らは双子だった。二人で私の絶対空間に入ってきて、満足に生き切れなかったから転生させてくれと言われた」

どうでもよさそうに、アカネはポテトリングを人差し指に刺しまくる。

「そいつらは喧嘩しない運命がある生命に転生させた」

指がピクッと止まり、アカネは話す。

「そんな運命あるんだ、言ってよ」

「アカネは割と、いい運命に転生させてるからね」

「それは伝えない理由になってない」

「私は昔、思っていたよ。いい運命に転生させるということはそこでいい人生を歩む、生まれるはずだった命を殺すことになると」

「…たしかに」


アカネの顔は、どんどんと青ざめてゆく。


確かに、そこで生まれるはずだった新しい命を塗り替えて既存の人間を転送しているわけだから、実質人殺しではないか。しかも、それは相当タチが悪い。何故なら、物心がつく前、赤ん坊になる前に死ぬということだからだ。


「この仕事、続けてていいのかな」

「…では、行ってみるか?」

「は?」

「お前が気に病む気持ちは痛いほど分かるが、お前が転送させたヤツはみんな、お前に感謝しているに違いない、行って確認したらどうだ」

「そんなん、できるの?」

「できる。お前を今から転送する。サラン王国のヘル•マークトルだ」

「あ、私が最初に送った人だ!」

「今は27歳。会いに行ってこい」


アカネの体が金色に点滅する。これは、いつも神様が飛ばしている時のエフェクトと違う。アカネは眼を瞑り、異世界へ飛んだ。




/




ヘル•マークトルは元々タレント兼高校生。「付き合っている人がいる」という学校の噂が校外に漏れて、ストーカーに殺された。付き合っている、という情報はただの出鱈目だ。


そして今、貴族の息子としてマークトル家の当主を任されている剣士である。


「おぉ、ここが異世界か」


ヨーロッパに旅行に来た気分だ。なんていうか、360度見渡しても壮大な景色が見える。

視界の遠く、図鑑で何度も見たサラン王国の町が見える。


「ダメだ、お前みたいな奴は通せない。せめて許可証を持っていないと」

「えぇ〜!せっかく来たのに何もできないじゃん!」


何だこの門番。私を変な奴みたいに言いやがって。私は特別なのに〜!


「待て、あの紋章は…」

「うわっ!し、失礼しました!お通りください、神の子よ!」

「ん?」


いつもの服に、ペガサスの紋章が付いている。これは、一部の国や昔の世界で崇められていた神の子の一族であるという証明だ。


「あいつ、優しいところあるじゃん」


そもそも、どうやってヘルに会おうか。少し話すだけでいいんだけど、当主となると話は別だよな。だって貴族のトップな訳だし、簡単に二人で話せる空間は作れないだろう。


「あ、少しお聞きしたいんですけど」

「何でしょう!」

「マークトル家の当主、ヘル•マークトルはどんな人ですか?」

「はい!ヘル•マークトル様は聡明で、剣士としての才能にも恵まれていて、我が国誇りの戦士です!民衆からの支持も厚く、国軍指揮官候補でもあります!」

「ご丁寧にどうも」


ありゃ、これは会うの厳しそうだなぁ。


「これから、彼の演説が始まります!大勢の民が彼の演説を聞きにくるでしょう!」

「お、それはどこで?」

「大通りを抜けて、噴水の先にある高台か演説を始めるとのことです!」

「理解った」


ヘル•マークトルの人気は絶大だった。前の国軍指揮官候補の時はだいぶアウェーな雰囲気で、声を出す人など一人もいなかった。


「ヘル様〜!」

「来たぞ、ヘル•マークトルの時代だぁ〜!」


Jin Doggや韓国アイドルのライブかと思うほど、声量、熱量が爆発的だった。


「皆様、本日はお集まり頂きありがとうございます」

彼の一挙手一投足に、全員が白熱していた。いやはや、これは会って話さずとも、転生成功だな…。


演説中、ヘル•マークトルは一瞬フリーズした。それは、私と目が合った瞬間だった。


「今の…?」

もしかしたら気付いたのかも、なんて思ったが冷静に考えてこの人混みの中30年も前に変な空間で見た人物なんて覚えていないだろう。


…帰るか。


演説が終わり、帰る人々に乗じて町を抜けようとする。


「少し待っていただきたい」

「はい?」

振り向くと、全身ローブに包まれて馬に乗った剣士がこちらを見ている。

「あなた、もしかして私を転生させた者ではないか?」

「え、もしかしてあんた」

「ヘル•マークトル。松野晴翔だ。お久しぶり」

「おぉー!覚えてたの!」


松野晴…いや、ヘル•マークトルはフッと笑い、言う。


「一秒も忘れたことはない。あなたは命の恩人なのだから。私がこうして満足のいく人生を貰えたことに、心から感謝の意を伝えたい」

「…いいって、別に。私も楽しくてやってるだけだから。人の命を弄んで」

「…それはどういうことですか?」


薄暗い個室の居酒屋に入り、話をした。


「なるほど、確かに私が入らなければ、私以外の人間がこの体で生きていた。つまり、間接的に人殺しをしていることに罪悪感がある、と」

「そう」

「単純に言うと…あなたは気にするべきじゃない」

「なんで」


お酒に手をつけず、ヘルは話す。


「私が殺したからだ。あなたはナイフを作った人、私はナイフを使った人。実行犯も意思決定をしたのも私だ。私は消し去った生命に感謝して、その人の分もこの体で世界を生き抜いていく。それが最大の罪滅ぼしだから」


「ありがと」

「いいえ、これからも頑張ってください」

「うん」


酔いの勢いもあってか、アカネは泣いた。ツーと頬を伝う綺麗な涙ではなく、普通の号泣だった。泣いている間に、バーに転送された。


















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