待望の元バーテンダー
アカネには、待っている人がいる。バーテンダーだ。未だかつてアカネは死んだバーテンダーを見ていない。バーテンダーになれば死なないのではないか?などと意味不明な考えまで浮かんでいる。
「ここは…?」
「え〜と、いらっしゃい。とりあえずまあ席に…」
目玉が飛び出てしまうほど驚いた。
え!?
この人、バーテンダー!?
えっとなになに…深夜に入ってきた客に、アイスピックで何度も腹を刺される。病院に搬送中、死亡。元々体が良くなかったが所以だろう。女性関係にだらしなく不倫していた人妻の夫が殺人犯。
「とりあえず!早くこっちきて!」
「は、はい」
おどおどとした態度をとる男に、構うことなく聞く。
「氷を包丁で削ってさ、こう綺麗な球体にする方法、教えて!」
「はあ、えと、私はまだ見習いなのですが」
「できないの!?この女たらし!お前なんてドブネズミにしてやる…」
「氷を球体にすることはできます」
「サイコー!王族?それとも世にも珍しい龍族でもいいよ!」
裏から神様が覗いている。「私情を挟むなよ」と言いそうな顔をして。しかし、そんなことはアカネには関係がない。
「それより、ここは?」
「そんなことは後で!」
立方体の氷と木の板を置く。
アイスピック、包丁を差し出す。
「ひっ」
アイスピックにトラウマがあるようだ。
「不倫したのが悪いんだろ。さっさとやり方!」
「あ、はい」
やり方その一。
立方体の角を削り取るように、アイスピックで氷を叩く。横からずらすようにもう一度。それを繰り返して全体を丸めてゆく。アイスピックが指に刺さりそうになるが、そこは慣れ。ゆっくりしすぎると氷が形を変形させてやりづらくなるから注意。
「おぉ〜」
「私は丸氷を作る時に包丁は使いませんね」
「そうなんだ」
少しゴツゴツとしているが、完全に球体になった。
やり方そのニ。
丸型の型を二つ用意して、挟むように水を入れて冷凍。以上。
「絶対こっちのほうが楽だな…」
「ですね。千円ほどで購入できる丸氷専用の型なども売ってますので是非」
番外編。
包丁で氷の表面を薄く綺麗に切り落として角も剃るように切る。全体の角を切っていけば、ダイヤモンドカットと呼ばれる氷の完成。
「ざっとこんなもんです。これは経験すればできるようになるので、頑張ってください」
「なるほど。ありがとう!じゃあ君は死んでるから転生してもらいます」
「え!?」
「え〜と、多分君、冒険者になったら絶妙に浮きそうだし、鍛治士とかいいんじゃない?器用だし」
「ん!?」
ダイヤモンド氷をひょいとグラスにいれて、ハイボール瓶を開ける。ついでのように天井の紐を引っ張って埋め込み式の棚を下ろす。手に取ったのはキンキンに冷えたハイボールと職人図鑑。
「え〜とね、鍛治士の息子として転生してもらいます。名前はロッキー•ユーラン。父の家業を継いで、頑張ってくれたまえ」
「え、ちょっ」
発言の余儀なく、神様は彼を飛ばした。
「あやつがモテるとは思えんな」
「今は草食系男子の方が萌えるらしいよ、知らんけど」
「本当に知らなそうだな」
「ほっとけ!」
氷を唇に当てて、喉にハイボールを流し込む。至福の一口。




