熊に喰われた農家
このバーは基本的に静かである。たま〜に暇した神様の友達がやってきて飲み会を開き、すぐに消える。話し声が響く時は基本的に、うるさい死亡人か泥酔した神様かのどちらか。
「最近はチー鱈よりもさきいか派なんだよね」
「飲む酒によるだろ」
「そうでもない」
「なんだなんだ…?」
神様とつまみトークを繰り広げていると、お客さんがやってきた。
「いらっさーい」
「君は誰だ…ここはどこだ?」
「あなたは32歳農家で、人里に出没した熊に喰われて死亡した。その日中にハンターが派遣されて向かい事態は収束」
「死んだのか、あいつに喰われて…」
ハブ酒を注ぐ。見た目は標本のようでグロテスクだが、酒としてはかなり思い出に残る、良い味をしている。
「若いのに可哀想に。日本は農家不足だってのに、国が農家に対しても、狩人に対してもリスペクトの欠ける政策しか打たないからこういう事件が起こるんだよ」
「はあ…わわ、私死んだんですか」
「今からあなたは転生します。もう一回遊べるドン、っていうことです」
目を回らせながら、ハブ酒をゴクリと飲み込む。酒が弱いのか、アカネが自分用に酒を注いでいる間にはすでに酔っていた。
床の収納を開いて、そこから開拓者図鑑を取り出す。
冒険者(1)
冒険者(2)
冒険者(3)
冒険者(4)
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「冒険者多いって!」
農家は絶望した顔とキョトンとした顔が混ざったような表情をする。
「いや、こっちの話」
ページをズダッとめくり、ようやく見つけた。
「狩られる側から、狩る側へ。君は魔物ハンターになりましょう。名前はコン•ランド•アルクロード。父は一流の狩人だから大分アドだよ。頑張って!」
「が、がんばります!」
一次産業の人は好きだ。適応しようとする気概があるし、何より前向きだ。
狩人の卵コンが転送された直後。
「こ、ここはどこだ!?」
「いらっしゃいませ、ってはい!?」
銃の痕跡がある、血を流した熊が流れ着いてきた。
めちゃめちゃ喋っていた。まるで呪術廻戦のパンダのように。
「食に飢えてて、人の多い場所に向かったらこのザマだ!」
「君は農家を減らした罪で、地獄行きね」
食器棚の下のタンスを引いて、魔物図鑑を取り出す。
その熊を、最初のページにあるスライムとして転生させて、危険地帯に放り込んだ。
月日が経ち、熊の被害が増えてきたことをアカネは知らない。




