008.新武器実践編
フィールド:第四層ダンジョン《死者の谷/ネクロバレー》前。
そこはレベリング中級者たちが数人パーティで攻略する、ゾンビ系モンスターの湧く危険地帯。
雷牙は、ソロだった。
「……あれ、君ひとり? この先ゾンビナイト2体湧きエリアだけど?」
通りすがりの後衛メイジに話しかけられる。
雷牙は少しだけ肩をすくめた。
「まあね。ちょっと拳の調子を試したくて」
「拳で? ……あー、なるほど、縛りプレイ系の人か……がんばってー」
――違う。
縛りじゃない。俺にとって拳は選択じゃなく“武器そのもの”だ。
◇ ◇ ◇
《SYSTEM:ゾンビナイト(Lv.21)×2が出現しました》
黒鉄の甲冑を纏った死者が、鈍い剣を引きずりながら現れる。
HPはそれぞれ約8,000。
格闘職・レベル5の雷牙にとっては、どう考えても分不相応な相手だ。
だが雷牙は、拳を鳴らしただけだった。
「……よし。なら、実験開始といくか」
まずは回り込む。ゾンビナイトの動作は遅いが、攻撃範囲が広く、無駄にリーチもある。
――ただし、“読み合い”の相手としては単純すぎる。
《ガード》
→《フェイント》
→《下段パンチ》
→《上段ジャンプキャンセル》
「距離を詰めて――今!」
【入力成功:前中・下強・連キャン派生】
《スキル連携:三連掌破》
拳がゾンビの胸元を三度叩き込む。金属音と骨の軋みが同時に鳴り、ノックバック。
「……ここで牙を、噛ませる!」
雷牙の足が一歩踏み込み、空間を裂くような拳を打ち込む。
「――咆・牙・撃!」
【ソウルスキル発動】
ボフンッ!!!
まるで小型爆発のような衝撃波がゾンビナイトの胸板を貫いた。
鉄鎧ごと吹き飛ばされ、後方のもう1体に激突、双方よろめく。
《追加効果:ノックバック成功/スタン付与》
「なるほど。動きを止めて“読み勝ち”の余白をつくる……使えるな、この拳」
再接近。
相手は混乱して動きが遅れた。
“読む”。
右が剣を振る――が、その予備動作は視線ですでに掴んでいる。
雷牙はすれ違いざま、懐に滑り込むと、肘打ち一閃。
《ヒットボーナス:カウンター成立》
→《キャンセル派生:双牙撃》
左右の手甲が交互に火を噴くように打ち込まれ、最後の一撃――
「――フィニッシュ、いくぜ」
【リーサル判定:確定】
《EX派生:空間読解+咆牙の牙》
一瞬、拳が“遅れて見える”。
発動したのはソウルスキル《空間読解》
拳の軌道を追う幻影が、敵の“逃げ道”を塞ぎ――
「オラァッ!!」
拳が叩き込まれた瞬間、ゾンビナイトの体が――爆ぜた。
スローモーションのように分解された鎧と骨片が、咆哮の衝撃に混ざって吹き飛んでいく。
《SYSTEM:ゾンビナイト(Lv.21)を撃破しました》
《撃破評価:HYPE 82/精密連携・距離管理 S評価》
《観戦AI「Sage」コメント:これは拳の錬金術師。全ての間合いが黄金になる》
雷牙はゆっくりと拳をおろした。
呼吸も乱れていない。だが、心拍は高鳴っていた。
「――ああ、これだ。これが、拳で闘うってことだ」
拳に宿った咆哮は、ただの力じゃない。
“読み”と“距離”と“タイミング”を極めた者にしか叩き込めない、意志の塊だった。
その咆哮は、きっとこの世界を変える。
そう確信できるほどの、完璧な初陣だった。
〈プレイヤー掲示板:エグファ板 第4層エリアスレ〉
スレッドタイトル:【速報】ゾンビナイトを素手でバラした奴がいる件【草原の怪拳】
1:名無しの導師
……ゾンビナイト2体、ソロで素手撃破した格闘家いたんだけど誰だよマジで。
観戦AIのHYPE爆上がりしてたんだが。
2:杖しか持てない魔術師さん
1
まーた格闘家に幻想抱く新参の伝説作りか。
はいはい、咆哮拳(笑)
3:†カタナの民†
違う。今回はガチだった。
観戦AI「Sage」が“HYPE 82/黄金の間合い”とか言っててマジで震えた。
しかもラストの一撃、空間ごとえぐってたぞ。どういう仕組みだよあれ。
4:ごはんだいすき@見学民
なんか咆哮みたいなの出してたの見えたんだけど、あれソウルスキル?
拳って範囲攻撃できんの?ずるない???
5:ガチ支援厨
あれ《咆牙撃》って武器スキルじゃね?
公式に名前載ってた気がする。「牙をまとった拳」ってやつ。
にしてもゾンビナイト2体とか、普通レベ10パーティで行くとこじゃん……
6:名無しの旅人
【考察】
・攻撃パターンの先読み→幻影で位置ズラし→正面からぶち抜く
・拳の硬直がない
・観戦AIが「間合い制圧タイプ」とか言ってた
……まさか、格闘家って“読み合いでソロ向け”だった?
7:氷弓のソフィア
ちょっと待って、その拳使ってたやつって「雷牙」とか名乗ってなかった?
第一層の《ウルフキング》ソロ討伐した奴と同一人物っぽいんだけど。
8:アサシンギルド所属
7
マジ?
ならガチの変態(褒め言葉)じゃん。
あの時も観戦AIがバグるレベルでHYPEしてたし……
9:炎槍のヒロト
俺、あの人のリプレイ録画してたわ。
まじで拳が“読み”で全部押し切ってる。
武器の強さとかじゃない、あれ“手”が強い。
10:運営見てるか?
この格闘家職、弱職とかいう風潮マジで見直した方がいいと思う。
【拳の伝説】ここに始まる――って感じ。
11:名無しの導師
あーあ。
また拳に目覚めるアホ新規が増えるぞコレ……w
12:観戦AIの中の人(仮)
観戦AI「Sage」より記録引用:
《拳に咆哮を宿す者よ。あなたは“空間すら読み合いに巻き込んだ”》
《HYPE評価:特級》
《称号:「空鳴の読破者」》——自動申請中
……AIすら興奮してた件について。
まとめ
第四層《死者の谷》のゾンビナイト2体を、格闘家が“ソロで撃破”
武器は「獣王の牙」から作った《咆牙撃》
初動から終盤までほぼ読み合いと距離管理だけで押し切り
観戦AIもコメントするほどの異常プレイ精度
正体は《雷牙》――第一層の伝説の拳プレイヤーと同一人物の可能性大