004,読み合いは得意です、か……
「逃げなきゃいい――真正面から叩き潰す!」
踏み込む。
あえて相手の間合いへ。
ステップじゃない、回避じゃない、“前進”だ。
ウルフキングの眼光が鋭く光った瞬間、
こちらの“選択”を見誤ったとでも言うかのように、
奴の体勢が一瞬、揺らいだ。
《敵AI:状況読み違え発生 → 対応遅延フレーム発生中》
来た――スキが生まれた!
「迅雷拳ッ!!」
《→ ↓ ↘ + P》
拳が奴の顎を打ち上げる。
バシュンッ!!
空中に浮いたウルフキング。
「浮いたな……なら、繋げるぞ」
→ → + P(前ステ)
↓ + K(足払いフェイント)
↘ + P(追撃)
↗ + K(ジャンプ追撃)
《コンボ成功率:84% → スキル連携ボーナス発動》
《HYPEゲージ上昇中》
背後で、観戦AIギルドの歓声が走る。
《実況AI:「おおっと! 雷牙選手、ここで魂の空中拾いィィ!!」》
「まだだ、落とすな――」
《→ ↓ → + K》
「“雷脚穿破”!!」
一撃。
まるで雷が落ちたようなエフェクトが空中に走る。
ゴゴゴゴゴ……!!
ウルフキングの身体に亀裂が走る。
空中で硬直したまま、奴が呻く。
《敵HP:残り6%》
《リーサル可能圏内突入》
《ソウルバースト条件満たす》
雷牙は一瞬、静かに目を閉じた。
(あのときの……あの読み合いの感覚)
「思い出せ、“仕込み”のタイミングを……」
静かに、構える。
《↘ ↓ ↙ ← + P》
《↘ ↓ ↙ ← + K》
《→ + P》
《同時押し入力:L+R》
コンマ秒単位の正確な動作。
それは格ゲー全国大会の頂点で磨き上げた、“魂に刻んだ”流れ。
拳に、“気”が集まる。
《ソウルスキル《崩天覇断拳》発動条件達成》
《演出:演武モード移行中》
「これで……リーサルだッ!!」
拳が突き出された瞬間、視界が白く染まる。
空が割れたような演出。
大地が拳を中心に爆ぜるようなエフェクト。
直撃したウルフキングが、真上に打ち上げられ、
そして、雷光に貫かれながら地に叩きつけられた。
《ボスHP:0%》
《BATTLE CLEAR》
《プレイヤー“R・K”:初撃破ボーナス獲得》
静寂。
ウルフキングの巨体が、蒸気のように崩れていく。
残るのは、拳を前に出したまま、荒く息を吐く自分だけ。
「……通った、か」
手が震えていた。
汗もVRの外でびっしょりだった。
でも、この感覚こそが格ゲーだ。
“読み勝って”“通して”“倒す”。
魔法もスキルボタンもない。
だがそれでも、勝てる世界がここにはある。
《観戦AI実況:「これは……やばい、やばいぞ!! 開始30分の初心者プレイヤー、ソロでウルフキングを初撃破!!」》
《観戦AI解説:「しかもこの手数、格闘コマンド完全成功率94%……“入力の鬼”だ……!!」》
ログイン直後の俺に向けられる、観戦席からのスタンディングオベーション。
だが――雷牙はひとつ、静かに呟いた。
「……まだだ。まだ全然、動きが鈍い」
その瞳は、すでに次の“読み合い”を見ていた。