012,初PVP
仮設ステージに集う、PvPギルド〈PBD〉のメンバーと観客プレイヤーたち。
ざわめきが止む。そこに立つは、今話題の“拳聖”とPvP常勝ギルドの副長。
実況AIが告げた。
《模擬戦開始──R・K vs PBD・セイル》
一瞬の静寂。
──そして、刹那に火花が散る。
「はッ!」
セイルが放つのは、超高速の“魔力踏破”。
その瞬間、剣が真横から振り抜かれる。
「見えた」
雷牙は半歩、ほんの半歩だけバックステップ。
切っ先が紙一重で空を裂き、その刹那、
──↘↘+P
「喰らえッ!」
雷牙の拳がカウンターで胸元を撃ち抜く!
観客席が沸く。が──セイルは崩れない。
ダメージは最小限。すぐさまバックスピンで距離を取りながら詠唱。
「《カースレイヤー・マイン》!」
爆ぜる地面。トラップ魔法が足元を襲う。
「……やるな」
雷牙の足元を縛るマイン結界。逃げ場はない──
だが、拳聖の武器は“身体”そのもの。
「なら、抜けるだけだ」
──→↓↘+K!(小ジャンプ)
反応で咄嗟に抜けるステップジャンプ、直後、空中でキャンセル入力。
「《飛燕崩脚》!」
雷牙の足が魔法結界を割るように蹴り下ろす。
セイルは剣で受け止めるも、思わず後退。
「……なるほど。“コマンド”で逃げるか。やっぱり噂通り面白いな、君」
セイルの目が鋭く細まる。次の瞬間、剣に炎が灯る。
「こっちも、本気でいくぞ? 《業焔剣・弐式》」
「上等だ」
拳と剣が交差する。
スキルではなく、選択と読みがぶつかり合う。
ガード、スウェー、差し返し。
“格闘ゲーマー”としてのR・Kと、“PvPの鬼”セイルが一進一退の攻防を繰り広げる。
──そして、五分後。観戦AIが判定を告げた。
《模擬戦 終了:引き分け》
《ダメージ比率:R・K 48%|セイル 52%》
微差。だが、間違いなく“互角”。
セイルが武器を下ろし、ふっと笑った。
「君、うちに来ないか? 本気でPvPを極めるなら、〈PBD〉は最前線だ」
雷牙は、一瞬黙って──そして、首を横に振った。
「悪い。俺は“格闘家”で、“俺のやり方”で登りたい」
「……そっか。だが、その拳が前線まで届くか、楽しみにしてるよ、“R・K”」
二人は静かに握手を交わす。
《熱狂する観客AI》《賞賛のギルドメンバー》《拡散される動画ログ》
──その日、拳聖の名はPvP界隈でも確かに刻まれた。
「え、今の見た!? セイルさんの《業焔剣》を“読み勝ち”で差し返してる格闘家、誰!?」
「マジで人力入力じゃん……え? これほんとに手動!?」
「“あれ”が噂の《拳聖》職か……マジで生きてたのか伝説のネタジョブ……」
──拡散の起点となったのは、PvP観戦界隈で名の知られた実況者《Wizrock》の一言だった。
彼の配信チャンネル【WizCh】のライブアーカイブが、急激に再生数を伸ばす。
【ライブアーカイブ】
《セイル vs R・K》解説付きプレイバック|拳と剣の“読み合い戦”【EXODUS FANTASM】
「はいここ!このバクステからの↘↘P!これがね、普通のMMOなら絶対無理なの。だって入力できないから!」
「この人、ほんとに“格ゲー脳”でこの世界やってるよ……いやマジで尊敬しかない」
「ていうかPBDのセイルさんがちょっと“楽しそう”なのもレアだよな」
さらに有志が即座に“切り抜き”動画を投稿。
タイトルはこうだった。
【神試合】格闘家 vs トップギルド副長伝説の拳聖のリアルコマンド戦闘【EXODUS FANTASM】
コメント欄も熱狂。
コメントログ(観戦板:スレッド #99123 “PvP全般”)
[名無しの観戦者]
は? セイルにあそこまでやる新人格闘家とか存在するの?
[ギルド《斬空連合》の戦術官]
《拳聖》って“理論上最強、実用不可能”って言われてたやつじゃん。やべぇな……
[PvP勢の切り抜き職人]
全編コンボルート確認済み。6連キャンセル3択崩し見えてた。あれは格ゲーでしか見たことない動きだわ。
[実況AI型チャンネル《VoiceView》]
今回のR・K氏の試合データを元に、《入力精度ランキング》を更新します。現時点で全サーバー中トップです。
そして、公式フォーラムにまで波及。
《PBD副長・セイル》コメント
「良いパンチだった。また戦えるなら、もっと面白いものが見られそうだ」
──その日から、格闘職《拳聖》は「ロマン枠」ではなく、「現実に勝ちを取れる職業」として、PvP界で語られ始めた。
#拳聖が現れた
#人力コンボ職やばすぎ
#R・Kのリプレイを見ろ
そんなタグと共に、“異物”がPvPシーンに一石を投じた瞬間だった。