宇宙人に逢わせてくれた先生
小学三年生に進級して間もないある春の日、新しく担任になった男の先生が突然言った。
「今日は勉強をしないで、散歩に行きます!」
興奮しざわざわする子供達を引き連れて、先生は学校から歩いて十五分程の、裏山のような場所へ向かう。到着すると、
「今からよもぎを摘んでください」
と言われ、沢山の葉っぱの中から、先生が見せてくれた葉っぱと同じものを懸命に探し摘み取る。
沢山集まったよもぎを手に学校に帰ると、
「今からよもぎ餅を作ります!」
と言われ、ええ~っ!! と更に大興奮の子供達。
摘んだばかりのよもぎが緑色のお餅になって、そこにあんこを包んでいく。買ったお餅みたいに柔らかくないし、あんこがはみ出て不細工だけど、買ったものとは全然違う鮮烈な香りに驚いた。
他のクラスが勉強している中で、自分達だけこんなに楽しくて美味しいことをしているなんて……と、少しドキドキもしていた。
何月かは忘れたけれど、とある新学期の朝の教室。
持ち帰った道具箱をしまおうと空っぽの机を覗くと、何やら手紙のような物が入っている。どうやらそれは自分だけでなく、クラス全員の机に入っているらしい。何だろうと開いてみると、なんと宇宙人からの手紙だった。
内容は確かこんな感じだったと思う。
『この学校の校庭のどこかに隕石の欠片をバラまいた。我々の暗号を解き、全ての隕石を集めよ』
宇宙人からの手紙に隕石に暗号。これで子供達が興奮しない訳がない。先生の「探しにいくぞ~」の言葉と共に、わあっと校庭へ駆け出して行く。
どんな暗号だったかも、一人一人違う暗号だったのかも全く覚えていないが、私と数人の友達が辿り着いたのは、体育館の脇の茂みだった。低木の枝に白い何かが見え、手を突っ込むと……小さな紙に包まれた何かが、沢山沢山、出てくる出てくる。
ええっ、これが隕石? と首を傾げながら紙を開ければ、中から色とりどりの可愛い金平糖が現れた。
宇宙人の隕石を見つけられたこと、それがお菓子だったことに、大喜びの子供達。たとえ姿は見えなくても、先生は私達を宇宙人に逢わせてくれた。
三学期のある日、「今日は羊が来るぞ~!」と言われ、ざわつく教室。先生にも大分慣れてきたこの頃、「来る訳ないじゃん!」と言う子供はほとんどおらず、みんな楽しい何かに期待していたように思う。
教室にやって来たのは、本物の羊……と同じ大きさの作り物の羊。だけどそこに付いているのは、ベトベトして薄汚れた本物の羊の毛だった。これで毛糸を作り、家庭科で作る手織りのポシェットに使うのだと言う。どうやって毛糸にしたのかはよく覚えていないが、多分糸車で紡いだ気がする。
出来上がったカラフルなポシェットの中、くすんだ地味な一部分は、自分達で苦労して作った本物の毛糸だった。
先生は沢山の『特別』な体験をさせてくれた。
社会で戦時中の暮らしを学ぶ際には、牛乳瓶で精米させたり(瓶づき精米)、麦こがしというあまり美味しくないお菓子を作って食べてみたり。鉛筆も鉛筆けずりではなく、ナイフで削れるようになった。
夏休みにはトム・ソーヤ島みたいな場所に連れて行ってくれたり、ドッキリおもちゃを手作りして、これでお家の人を驚かせなさいという指令が出たこともある。
(母は叫んで投げ捨てた後、大爆笑していた)
真剣に遊び、真剣に学んだときめきは、大人になってもずっと胸に残っている。
先生のお人柄故なのか、時代だったのか。
他のクラスの友達からはよく、「◯◯先生のクラスがよかったな」「羨ましいな」と言われたが、親からのクレームはなかったように思う。
『学校の授業』ではない『特別な体験』の為の準備や材料費は、全て先生が個人で負担してくださっていたのだろう。
先日ネットでお名前を調べてみたら、とある学校で授業をされている、白髪頭の元気なお姿を見ることが出来てとても嬉しかった。
こんなに『特別』な先生と過ごせた二年間は、私の人生の幸福なのだと思う。
ありがとうございました。




