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破滅確定の中ボスに転生しましたが、死にたくないので主人公よりも強くなってやります!  作者: りんご飴ツイン


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第二十五話 悪魔を欺く一手

 

「なァ、にを、したァ……?」


 山岳地帯の近くに広がる森の中にルドガー=ザーバットはいた。紅い蛇の群れに確かに足止めされていた。


 王都までもうすぐなれど、召喚に必要な王都の特定の場所にまでは辿り着いていない。


「俺たちの勝ち筋は三つのうち二つだった」


 ルドガーは言う。

 決して無傷ではない。決戦兵器『青ノ極地』を用いてもこの瞬間まで生き残るのは容易ではなかった。もしかしたら悪魔の悪趣味のおかげかもしれないが。


 約束の四分。

 少なくともそれを過ぎた時のルドガーの反応を楽しみにしていた節があったからこそ。


「一つ、お前がウンディーネ様について何も知らない。それなら目の前で召喚云々を話していたとしてもろくに警戒せずにすんなり召喚が成功、あるいは妨害されるにしても俺をどうこうするだけなら二つ目が適応される」


「あァ!?」


「二つ、お前がウンディーネ様について知っている。何せスカーレットと手を組んでいたらしいからな。そこから精霊に関する情報が漏れていた可能性はある。唯一俺がウンディーネ様を召喚できることも含めてな。だから俺を殺してでも召喚を阻止する、という展開は考えられた」


「だったらァ!」


「だから、お前がスカーレットから精霊に関する情報を得ていたのならば召喚を成功させるにはいくつかの条件があることも知っていたはずだ」


 ルドガーはその顔に似合う獰猛な笑みを浮かべて、


「莫大な魔力量に高度な魔法技術、精霊からの許可がないと召喚魔法は会得できない。そのうち魔力量と魔法技術は俺以外の大将でさえも基準に満たないほどに厳しいものだった。だから王国においてウンディーネ様を召喚できるのは俺だけ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「な、ァ!?」


 確かにスカーレットの指示でサラマンダー聖国の諜報部隊は王国を調べ、ルドガーだけが召喚魔法を会得していると報告をあげている。


 聖国でも屈指の諜報部隊の調査結果であること、ルドガーに匹敵する魔法使いは王国の軍部にいないのは他の大将の実力からして間違いない、などの要因が重なってそう信じていたのだろうが、


「ウンディーネ様は最大の防衛戦力だぞ。確実に機能するよう召喚魔法の使い手を隠匿くらいするに決まっているだろ」


「それはおかしいだろォ! 大将クラスでさえもルドガー以外は基準未満なのは確実なんだァ、つまり召喚魔法を習得する人材からして王国にはルドガー以外にはいなかったはずだァ!!」


「本当に? 王国といっても調べたのは軍部とか秘匿された部隊とかじゃないのか? 何せ最高機密にして最大の防衛戦力だ。そんな精霊の召喚権は国家が管理するはずだってな」


 それが盲点だった。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。俺の個人的なメイドと国との繋がりを極力断ち切って辿れないようにしてな。俺自体、今日『までは』メイドとしてしか扱っていなかった。だからいくら軍部だの国家所属の秘匿されたナンチャラだのを調べても召喚魔法を使えるほどの人材は見つけられなかった。そうして敵対勢力は調査の末に俺しかウンディーネ様は召喚できない、と結論づける。なまじ賢い奴ほどまさか大将に匹敵する実力者にメイドだけをさせているだなんて考えもしないからな」


 ちなみにアリナもルドガーの副官でありながら国とか軍部とか関係なくメイドをやっているが、彼女の場合は完全に趣味なので関係ない。


「……人材の無駄遣いだァ。ルドガークラスの戦力をメイドとして秘匿する!? 一度本気で戦闘を行えば露見する以上、その戦力は軍事作戦にはほとんど使えないということだろうがァ!! そこまでして召喚魔法を使える人材を隠匿してもデメリットのほうが大きいはずだぞ!?」


「だけど、おかげでお前を騙せた」


「……ッ!?」


『──この召喚魔法、一国に一人か二人くらいしか使用者がいないとびっきりなんだぞ』とはいつぞやミーシェに対してルドガーが言ったことだったか。


 ルドガー=ザーバット。

 ウンディーネを除けば王国最強、というのも今や本当かどうか不確かな男はパチンと指を鳴らして、


「三つ、お前が俺以外にも召喚魔法が使える人材がいると知っている。だから二人とも殺しておこう、というのが唯一の負け筋だった。それ以外なら俺しか警戒しないからこそ滅多なことでは召喚を阻止されない構図が出来上がっていた。お前が言うところの人材の無駄遣いでお前の対応に穴ができたおかげでな」


「いや、違う、おかしい、筋が通らない。ルドガー以外に召喚魔法の使い手がいた、それを受け入れてもこの状況はおかしい! どうしてこのタイミングでウンディーネを召喚したァ? 最高機密をメイドの独断と偏見で勝手に召喚を決行したとでもォ? こちらの状況を完全に把握もせずゥ、なんか騒がしいからと大将クラスの命令もなしにィ!? そこまで緩い仕組みであるはずがない!! そんなご都合主義がまかり通るわけがないだろうがァ!!」


「命令なら俺がした」


「は、ァ!?」


「忘れたのか? お前がここで俺に攻撃した時のことを」


「……、あァ?」


「水の飛沫」


 ──数メートルの紅い津波のような蛇の群れ。

 ──その全てが全力の一撃を放つ出力口。


 ──壁のように並べられた銃口から一斉に弾丸を放つように、魔力の紅光がルドガーを襲った。


 ──咄嗟に水の魔法を飛沫のように放ったのは全ての攻撃を受けようとしたのか。焦りからか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「あれ、お前の攻撃を凌ぐためだけだとでも思ったか? 焦って水の飛沫がお前を超えるように飛んでいったとでも? そんなわけあるか。あれは外れたわけじゃない。俺の屋敷の壁をぶち抜いてその破壊痕でメイドに指示を刻むためだったんだ」


 屋敷には召喚魔法を習得できるほどの実力者たるメイドがいる。一応は人があまり近づかない場所を狙ったが、万が一の場合はメイドが対処できるだろうと信頼しての一手だった。


 とはいってもこの距離から指示を正確に刻めるかは五分五分だったので、本当ならもう少し距離を縮めるかルドガー自身が屋敷に戻って召喚を決行するのが確実ではあったが、状況が状況だっただけに賭けに出るしかなかった。


 信じろ、とルドガーが言った以上、必ず成功させるにしても。


「それよりいいのか? 時間を無駄にして。我が国の真の『王』は召喚された。それまで嬢ちゃんたちが頑張ってくれたおかげでお前は『赤ノ極地』を装備できていない。だったら後は当たり前の力の差が勝敗を決するわけだが、こんな無駄話で時間を無駄にしてそんなに殺してほしいのか?」


「……ッッッ!?」


 返事は聞こえなかった。

 その前に『それ』は着弾したからだ。



 遠投でもするように王都から猛烈な速度で放たれた水の砲弾が無数の紅い蛇のど真ん中に着弾。


 弾け、飛び散った無数の飛沫が全ての紅い蛇を貫き、あれだけ驚異的だった悪魔を吹き飛ばしたのだ。



「うおっと!!」


 咄嗟に『青ノ極地』で水の盾を展開、飛沫に対して受け止めるのではなく斜めに構えて受け流していなければルドガーも普通に死んでいた。


 最強。

 ただし大雑把なので頼り過ぎると手痛いしっぺ返しを食らいかねない。


 とはいえウンディーネが基本的に最強、とりあえず盤面に出せば勝てるのも事実。


 紅い蛇の群れ、その一匹一匹が『全力』を出力可能なのであれば今の一撃で『こちらの』群れが全滅した時点で力関係は示された。


 あとはリルの死体を操る『向こうの』悪魔へとウンディーネが攻撃して戦闘終了だ。



 ーーー☆ーーー



 それは影が薄いメイドだった。

 そうなるよう自己を徹底的に調整した秘匿戦力だった。


 全ては王国の未来のために。

 ルドガーが狙われて万が一殺されたとしても、だからこそ召喚を封じたと油断した敵を殺すための最後の砦。


 そう、ルドガーを殺すほどの敵を撃破するための戦力なれば、その実力は最低でもルドガーに匹敵するほどでなければならない。


「…………、」


 メイドは自己主張はしない。

 中庭全体に無意識的に人が遠ざかる魔法やウンディーネの『攻撃』の始点が中庭だと視認できないよう干渉する魔法などを展開することで水の精霊ウンディーネを盤面に出しながらもその存在を徹底的に隠匿する。


 無属性魔法。その中でも脳に直接干渉する特異で高難度な魔法を生まれながらに手を動かすように当たり前に使うことができた、歴史上でも数人しか確認されていない精神操作系の魔法使い。


 ある意味においてウンディーネよりも厄介な秘匿戦力は思案する。


『ウンディーネをしょうかんせよ』、とはあのルドガーが屋敷の壁を傷つけてそんな指示を刻まなければならないほどの怪物が迫っているからだろう。


 ただし、もう一つ。

『しゅいろのひかりがあればそちらにこうげきを』、というのがよくわからなかった。


 一応は中庭に召喚したウンディーネに伝えはしたが、『しゅいろのひかり』なんて見えやしない。


 ウンディーネ自身、『まあまずはあっちを殺そっか』と『敵』を精霊のずば抜けた感覚で察知、攻撃を仕掛けていた。


「うーむ。合図がないし、このまま普通に殺していいのかにゃー? まあわっちとしてはあのクソ野郎の腰巾着が死ぬなら何でもいいんだけど」


「ウンディーネ様?」


「あっと、やっぱりだめみたい。最強になる、なんて理由でわっちに喧嘩を売るほどの無鉄砲さは健在みたいだにゃー」


 その時、魔法使いとしてだけではなく『気』の使い手としてもルドガーに匹敵するメイドは、だからこそ強化した瞳にそれを捉えた。



 山岳地帯の中腹にキラリと光る『朱色』を。   



 朱色の光。

 攻撃の目印が。


「命は有限だってのに無茶してさあー。人間ってのはよくわからないよう。……勇者気取りの大馬鹿ちゃんにそっくりでムカつくけど、まあ付き合ってあげよっか」


 瞬間、山岳地帯を貫く勢いで斜めに飛ぶ間欠泉のようにその一撃は放たれた。


 ウンディーネの全力。

 悪魔をも殺す必殺が。

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