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破滅確定の中ボスに転生しましたが、死にたくないので主人公よりも強くなってやります!  作者: りんご飴ツイン


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第二十四話 信じているから

 

 ミーシェに薙ぎ払われた悪魔は嗤う。

 この状況でもまだ嗤うことができた。


 確かに『赤ノ極地』を奪われたのは痛手だ。

 だが、悪魔の悪意はまだ全て出し切ったわけではない。


 毒と悪意、そして全ての紅い蛇が繋がり力を集約してどの蛇からでも全力を出力可能という特異性。


 それらはあくまで手札の一つであり、第一の騎士の『本領』ではない。


「出てこい、アポカリプス」


 ぎゅるり、と先ほどまでスカーレットの首筋に噛みついていた紅い蛇が変質する。


 紅から白に。

 その身を白く輝く光の弓矢へと変貌させる。


 そもそも悪魔はリルの死体を支配している。

 悪魔だから憑依とかそんな概念でも使っているのではないかと予測をつけているのならばそれは間違い。


 第一の騎士オリエンス=ファーストバイブルの『本領』は支配。世界を終焉に導く第一の災厄、黙示録の魔法──すなわち白く輝く光の弓矢。


 その光の矢は物理的な干渉はできない。ただしその矢の先に触れると『本領』が発揮される。


 支配。

 無機物だろうが生物だろうが魔法だろうが森羅万象あらゆる存在を己の支配下に置く魔法。それこそがオリエンス=ファーストバイブルが災厄たる最大の理由である。


 リルの死体は支配されていた。

 悪魔の魔法は死した肉さえも支配してその力を引き出し、成長させることができるほどに既存の法則をねじ上げる規格外だ。


 であれば、その矢はいかに『赤ノ極地』でステータスを十倍強化していようが少女ごと支配することなど造作もない。


 白い弓矢を構える。

 引き絞り、狙いを定める。


「ハハァッ!! これで終わ──」


「やっと()()()()()を使う気になったんだ」


「ハ、ハァ?」


 白い弓を限界まで引き絞っていた悪魔の顔が強張る。


 なぜバレている?

 今回の戦闘でも、過去の闘争でも、支配の魔法は一度も使っていない。過去の文献を漁っても『四つの災厄』の詳細についてはろくな情報が残っていないのはスカーレットと手を組んでいる時に確認している。


 支配の魔法はその存在すら現代人は知らない。

 だからミーシェが白い弓矢を見て支配の魔法だと見抜けるわけがない。


 なのに!!


「まあ、今更だけど」


「ッ!!」


 矢が放たれる。白き災厄の一撃は()()()()()ミーシェであれば反応すらできない超高速で放たれた。


「我が魂を喰らいて糧とせよ──魔刃鞘収」


 ただし今のミーシェはステータスが十倍強化されている。魔力を喰らって魔法を無効化する魔刃鞘収で白い矢を斬り捨てて無効化するだけの余裕があった。


「さっさと『本領』を発揮していれば勝負は一瞬でついてたかもしれないのに」


 悪魔の懐にミーシェが飛び込む。

『気』による身体能力の強化、その十倍。


「くだらない悪趣味がお前を殺すのよ」


「この、女がァッ!!」


 弓に矢をつがえる暇なんてなかった。

 だが、まだだ。支配、悪魔の『本領』は魔法であるので魔刃鞘収には通用しない。同じ理由で毒の魔法も無効化されるだろう。


 これが『四つの災厄』の一角、第一の騎士オリエンス=ファーストバイブル『だけ』であれば危なかったかもしれない。


 が、悪魔にはまだ手札が残っている。

 リル=スカイリリス。初めは復讐のために支配した死体ではあったが、その素養の高さから育てれば育てる分だけ脅威的な成長を遂げた肉の道具が。


「体技バーストクラッシュゥッ!!」


 徒手空拳、ただしそこに『気』という人間だけが持つ力が加われば破壊力は跳ね上がる。


 内部破壊。

『気』を複雑に作用させた特殊な打撃はどんな強固な守りも貫通して内部だけを破砕する。


 全ステータスが十倍強化された今のミーシェでも殺し切るだけの力はあった。


 ただし、



「オーバーヒートォオオオオオオッ!!!!」



 握りしめた拳をミーシェにぶつける猶予はなかった。


 朱色の斬撃、その乱舞。


 いつのまに魔刃鞘収を解除したのか、膨大な魔力が込められた剣の乱舞がまるで一つの壁のように悪魔に叩きつけられた。


 あまりの数に隙間なく凝縮して壁と見間違えるほどの斬撃の嵐。その全てが『赤ノ極地』によって十倍にまで強化されていた。


 流石の悪魔も全身を斬り刻まれた。

 これまでミーシェたちのどんな攻撃も通用しなかった悪魔が初めて痛みに呻いてたまらず後ろに下がったのだ。


「おおおおおおッ!!」


 だが、ミーシェは逃がさない。

 斬撃の嵐、その全ての軌跡から魔力の刃が飛び出す。


 飛ぶ斬撃。

 今度は魔力の刃が壁になって悪魔を襲う。


「グッ、ォオオ!?」


 両腕を交差して『気』で強化するが、それでも耐えられずに数メートルもノーバウンドで吹き飛ぶ。何度も地面を転がる。


「ハァ、ハハァッ! 確かに人間にしてはやるほうだなァ」


 それでも悪魔は嗤っていた。

 嗤うだけの余裕があった。


「だが、これが限界だァ」


 立ち上がる。

 全身は確かに斬り刻まれていたが、浅い。致命傷とは程遠い。


 そもそも傷つけられたのは外側、リルの死体のみ。


 悪魔はその奥に潜んでいるのだから、最低でも死体を木っ端微塵にしてはじめて悪魔にダメージを与える前段階にしかならないのだ。


 加えて、


「オーバーヒートだったかァ。暴走を無理矢理に強化に置き換えた自爆特攻。もちろん負荷は甚大だァ。まァそこまでしないと俺様と対等にやり合うこともできなかったんだろうが、『赤ノ極地』は別に万能じゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだよォ!!」


 つまり『赤ノ極地』があろうとも強化された耐久力の分だけ出力可能な力も増えているのだから結果的にオーバーヒートの負荷は普段と変わらずミーシェを蝕む。



 ぶっっっしゃあっっっ!!!! と。

 まるで肉の内側に爆薬を仕込んで起爆したようにミーシェの全身が破裂した。



 オーバーヒート、その連続使用による負荷。

 無理矢理に力を引き出した代償がミーシェを殺していく。


「残念だったな、女ァッ!! いくら『赤ノ極地』があってもお前さんが弱っちいのならば十倍強化しようが俺様には遠く及ばない!! 自滅か嬲り殺しかァ、どちらにしてもお前さんの末路は死なんだよォッ!!」


「……私だけだったら、そうなってたかも」


 全身が真っ赤に染まったミーシェは、しかしまだ絶望していなかった。


「だけど私たちには切り札がある」


「あァ、水の精霊ウンディーネだろォ。あのクソッタレの強さはよォく知っている」


「っ」


 僅かにミーシェの眉が動く。

 怪訝そうに悪魔を見やる。


「だったら」


「俺様はスカーレットに協力するフリをして利用していた。この世界の情報を取得するためにもなァ。何せ各国が保有する精霊は厄介だ。今この段階じゃ敵には回したくない」


「…………、」


「だからァ、スカーレットが諜報部門に調べさせていた精霊を召喚可能な人間の情報を俺様も聞き出している。そいつらを殺害するのが最優先事項だったってわけだァ。もちろんこうしてスカーレットに付き合ってこんなところにやってきたのも唯一ウンディーネを召喚可能なルドガー=ザーバットを処理するためだなァ」


 そう、ミーシェへの復讐はあくまで偶然出会ったからこその突発的なもの。本来の目的はウンディーネを召喚できる人間を処理してかの精霊の活動を封殺するというものだった。


 だから、


「そう、唯一だァ。王国でウンディーネを召喚可能な魔法技術や魔力量、何よりウンディーネから許可を授かっているのはルドガーのみ。まァ他の大将でも召喚魔法のために必要な技術や魔力量が足りないくらい人間は脆弱だからだろうがァ、ハハァッ、わかるかァ!? ルドガーだァ。あの男が王都まで辿り着くことができなければウンディーネはこの世界に召喚されないんだァ!!」


「…………、」


 悪魔は嗤う。

 嗤うことができる。


「ウンディーネ召喚まで残り何秒ゥ? 関係ないんだよォッ!! ルドガーが召喚を成功させるのだけが希望だったんだろうがァ、肝心要のルドガーは俺様が食い止めている!! 王都に辿り着いてすらいないからその希望は絶対に輝くことはないんだァ!! ハハァッ!!」


「五」


 悪魔の嘲笑をぶったぎって、ミーシェは手を広げる。


「あァ?」


「四」


 五本から四本に。


「ハハァッ、そうだよなァ。ルドガーは召喚魔法を使えない。切り札たるウンディーネは召喚されない。そんなの受け入れられないよなァ!? 何かの間違いだと、嘘に決まっているとォ! 奇跡が起これと縋るしかないよなァ!!」


「三」


 四本から三本に。


「惨めだな、女ァ」


「二」


 三本から二本に。


「奇跡は起きない。いくら縋ってもその先には絶望しかない! ハハァッ、俺様の悪意に狂いはないからなァ!!」


「一」


 二本から一本に。



「ルドガーさんは信じろと言った。だからお前の悪意になんか負けない」



 そして、全ての指が曲げられ、約束の四分が経過した。



 ーーー☆ーーー



 ドッッッゴン!!!! と、世界が揺さぶられた。


 水の精霊ウンディーネがこの世界にやってきたのだと、そう証明するように。



 ーーー☆ーーー



 ミーシェの『知識』にはウンディーネに関するものはそう多くなかった。何せ裏ボス、ストーリーの中でも匂わせてはあっても明確に出番があったわけではない。


 それくらい使い勝手が悪かった戦力だったというわけだ。


 だけどルドガーは言った。


『ならよし。その言葉、信じてやる。四分頑張ってくれ。四分で絶対にウンディーネ様を呼び出してやるから!!』


『あっ。今更で悪いけど、そう易々とルドガーさんを素通りさせてくれるとは思えない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それでも大丈夫? もしも難しいならスカーレットを連れてみんなで──』


『馬鹿が。俺を信じろ。俺が嬢ちゃんを信じたようにな』


『……、うん』


 ミーシェはルドガーを信じた。

『知識』とかそんなものよりも何よりも、言葉と剣を交えた一人の男の強さをミーシェは知っているからこそ。


 ああして断言した以上、彼は実際に悪魔が立ち塞がっても己の言葉を貫けると確信していたはずだ。


 だから水の精霊ウンディーネは約束の時間に召喚された。


 ルドガー=ザーバットの強さを示すように。

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