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破滅確定の中ボスに転生しましたが、死にたくないので主人公よりも強くなってやります!  作者: りんご飴ツイン


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第十六話 最強になると誓ったから

 

「が、ぁ……ぶはっ!?」


 現在。

 ミーシェは十倍強化されたスカーレットの斬撃を回避しきれずに剣を両断され、胴体を深く斬り裂かれた。


 人間であれば致命傷。

 ただしミーシェは魔族の遺伝子が混ぜ込まれた魔人であるので何とかギリギリのところで生き残っていた。


 とはいっても重傷には違いない。

 対して女王にして聖女にして悪女は未だ健在である。


 このままでは死よりもなお悲惨な末路が待っている。例えば他者の人格を破壊して操り人形に変える拷問マニュアルの構築。


『FBF』内においてもスカーレットは先代の聖女を公には事故死扱いにしておきながら密かに捕え、拷問し、奴隷化して手元に置き、命令に応じて奇跡を出力する都合のいい手駒にすることで『聖女の奇跡』を保持していた。


 そう、スカーレット=フィブリテッド自身には聖女たる特別な才覚なんてないのだ。そんなものなくても選ばれし女性から搾取すればいい。そう考えて一人の女性の尊厳を徹底的に踏み躙っている。


 死ぬ程度ならまだ幸福。

 それ以上の末路さえも突きつけてくるのが悪女が悪女たる所以なのだ。


 だけど、そもそもミーシェは死ぬつもりもなければ負けるつもりもない。


(どんな敵にも負けずに誰も彼も救う最強になる)


 それはリル=スカイリリスの意思。

 ミーシェが何もかも手遅れだったせいで彼女は死んでしまったが、その意思だけはミーシェの中で生きている。


(リルはそう言った。そうなるはずだった! そんな未来を私が殺した!! だったらせめて私が最強(主人公)になってやる!!!!)


 リル=スカイリリスはもういない。

 だけどそれがどうした。


 ミーシェはまだ生きている。

 みっともなく、無様に、それでも生きているのだ。


 ならばできることはまだある。

 それがどれだけ意味のないことでも、死者の想いを反芻して自身を慰めているだけでも、そもそもリルが救いたかった誰も彼もがあの日にミーシェの目の前で殺されてしまっているから正確には死者の想いの反芻にすらなっていないにしても、だ。


 ミーシェは生きている。

 リルが命を捨ててでも生かしてくれた。


 勇者で主人公で、そして全てを救う最強。そんな理想を掲げて『FBF』で定められた悲劇だらけの未来を片っ端から覆してやれ。


 そこまでしても、どうあっても、ミーシェが望んだ幸せはとっくの昔に失われているとしても、結局は何も手に入らないとしても、生かされた以上は何かを成し遂げないとリルの死に意味がなくなってしまう。


(世界なんか救ってやる)


 どうせ二度目の人生、本来ならあり得ない奇跡の上で成り立っている命だ。


 みんなのためなら捨てて構わなかったはずの命なのだ。


(リルはすごいんだって、こんな私でも誰も彼も救えたならば私よりももっとずっとすごかったリルが生きていればこんなの楽勝だったって証明するために!!)


 こんなところで()()()()()()。みんなを救うためなら自分の命なんていくらでも捧げていたが、こうして生き残ってしまったのならば無駄に死ぬことはできない。


 世界なんか救ってやれ。

 それくらいしか、もう、生きる理由はない。



 ーーー☆ーーー



 スカーレット=フィブリテッドは油断なく斬り捨てた少女を見据えていた。


 魔力の斬撃を飛ばす、という特殊能力が付随しているだろう魔剣は両断した。いかに『遺産』でもすでに使い物にはならないだろう。


 オーバーヒートや体技ジェットスターの合わせ技という無茶には驚いた。ほとんど暴走を有効活用しているだけのオーバーヒート中に他の技を併用するなど自殺行為だ。一歩間違えば内側から弾け飛んでいても不思議ではないのだが、どちらにしてもあんな有様では二度目はない。またあんな真似をすれば今度こそ自壊するだけだし、そもそも今のスカーレットには通用しない。


 決戦兵器『赤ノ極地』。

 使用者に関するあらゆる項目、ステータスを十倍強化する兵器。


 心臓を貫かれても元々の自然治癒力を十倍強化し、その上で『気』による自然治癒力の強化も別に十倍強化することで塞ぐことができる。


 そもそも単純に十倍強化という時点で驚異的だというのに、各項目をそれぞれ十倍強化する相乗効果は計り知れない。


 人間よりも遥かに強靭で自然治癒力も高く、膨大な魔力とそれを効率的に扱う高度な魔法技術をもっており、そして何より自身の力を武具の形で抽出して魔法を超えた超常現象を引き起こすスキルという種族固有の能力をもつ魔族。


 そんな魔族のスキルを真似た『遺産』の中でも最高峰、遥か昔に魔族を滅ぼした四つの兵器の一つ。それが決戦兵器『赤ノ極地』である。


 魔族は人類を滅亡寸前まで追い込んだ、という圧倒的な劣勢を覆して逆に魔族を滅ぼした事実が決戦兵器の強大さの証明になっている。


 ゆえにスカーレット=フィブリテッドは強い。

 今の彼女は人類滅亡に王手をかけた魔族さえも滅ぼせる力を宿しているのだから。


 そこで、だ。

 その声は響いた。



「そこまでだ!!」


「お姉さまっ!」



 振り向き、そしてスカーレットは思わず笑ってしまった。


 ゴブリンロード。

 それにリトルゴブリンが数十人ほど洞窟から出てくるところだった。


 何を考えているのかと、憐れみさえ溢れてくる。


 少女はわざわざ洞窟の外に飛び出した。そんなのリトルゴブリンたちを戦闘に巻き込んで死なせないためだっただろうに。


 スカーレットには理解できない思考回路だが、少なくとも少女にとっては命懸けでも成し遂げたいことだった。


 それを、台無しにしている。

 わざわざスカーレットに刃向かった彼女を苦しめるために演出してくれている。


「そ、そそっ、そこまでだ! 吾らが同胞のために戦ってくれたミーシェをそれ以上いじめるというのならば吾が相手になってくれようぞ!!」


「あらあら」


 少なくともゴブリンロードは力の差は理解していた。その身体は怯えに震えていて、それでも大槌をスカーレットに向けている。


「部下の手前、強く出なければ『王』たりえない。それは理解できますけれど、確実に死ぬよりは『王』の座を捨てて無様に逃げたほうがよかったのではございませんか?」


「馬鹿か、貴様は」


 即答だった。

 ロードはわかっている。決して勝てないことくらい理解している。


 それでも、なお、即答したのだ。


「ミーシェは吾らのために命をかけて戦った。であれば吾らも命を賭けるのは当然であろうが!!」


 それだけの理由で命をかけられるだなんてやはりスカーレットには理解不能だった。


「今度はわたしの番。お姉さまを絶対に助けるんです!!」


 そんなリトルゴブリンの女の子の追従に他のリトルゴブリンも『まあしゃーねーっすね』『ロードさまのお願いでなくても私らのために頑張っているミーシェちゃんを見捨てられるかってんですよ!』『コテンパンにしてやるぜ!!』と騒ぎ立てる。


 炎に炙られて意識を失ったくらいだ。力の差を感じとることはできずともスカーレットか強いことくらいは理解しているはずだ。


 それでも、なのか。

 そこまで愚かなのか。


 やはりどれだけ人間と同じように言葉を吐き出そうとも魔獣は魔獣。その本質は醜悪な獣でしかない。


「あら」


 スカーレットは倒れている少女に目をやる。

 ミーシェ、と。そう呼ばれていた少女に。


「あらあら、まあまあ!! これはまさしくわらわのために世界が回っている証拠ですわあ!! ミーシェ、ふふっ、ミーシェえ!! 今から貴女のために向かってくる魔獣どもの悲鳴を聞かせて差し上げます! 貴女のような人種は殺すよりもこういう趣向のほうが辛いのでございましょうしねえ!!」


 そして。

 そして。

 そして。



 ーーー☆ーーー



 世界なんか救ってやれ?

 それくらいしか、もう、生きる理由はない?


 ふざけるな。

 こんな自分のために立ち上がってくれたロードたちを前にしてそんなふざけたことを考えられるわけがない。



 ーーー☆ーーー



 無造作にサーベルが振るわれる。

 十倍強化。射程さえも十倍に伸びていることを知らないロードたちは身構えながらもまさか斬撃が届くだなんて考えてすらいなかった。


 だからその一撃はミーシェのために立ち上がってくれたみんなを殺す、その一瞬前のことだった。



 ザッッッン!!!! と。

 スカーレットの右肩に朱色の軌跡が走り抜けた。



 右腕が、落ちる。

 サーベルを掴むその手が地面に転がり、肩口から鮮血が噴き出す。


「……、あらあら」


 前方。

 ゴブリンロードたちを守るように彼女は君臨していた。


 半ばから折れた朱色の剣。

 黒髪に眼帯の少女。


「オーバーヒートに体技ジェットスターの合わせ技。まさか二度目を成功させるだなんて予想外でしたわ」


「…………、」


「とはいえ、負荷は甚大」


 右腕を拾い、肩にぐりぐりと押しつける。

 それだけで強化された自然治癒力によって右腕はくっついていた。


 ぶしゅう……と全身がひび割れるように弾けているミーシェの傷と違って。


「対してわらわはこの程度は負傷にすらならないのでございます。ですのでこれは遅いか早いかの違いですわ。いずれ、必ず、そこの魔獣どもはわらわの手で殺されます。もちろんミーシェのためにとびっきり苦しめて殺すので是非とも奏でられる悲鳴を楽し──」


「みんな、私なんかのためにありがと」


 一言だった。

 スカーレットなんて、とっくに、眼中になかった。


「だけどちょっと危ないから下がってて。もう終わらせるから」


「あらあら、まあまあ!! 随分と強気でございますことで。わらわは女王にして聖女スカーレット=フィブリテッド。この世で最も特別なわらわに──」


「うるさい、紛い物」


「……あ?」


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「な、ぜ、そのことを……ッ!?」


 先代の聖女を公的には事故死ということにして奴隷化して聖女の力を出力するだけの人形に変えていることはスカーレットしか知らない。情報の流出なんてあり得ない。奇跡でも引き起こす本当に特別な人間でもない限りはスカーレットの正体を見抜くことはできなかったはずだ。


 つまり。

 だから。


 ミーシェはそれほどに『特別』だとでも?


「まあ女王なのは確かだけど、それも聖女の称号がなければ手に入れられなかったはず。そもそもルドガーさん曰く王国の真の『王』はウンディーネみたいだし、そっちの真の『王』も炎の精霊サラマンダーのはず。つまり女王なんてのは名ばかりのお飾りちゃんってわけ」


「ッ!?」


「図星みたいね。自分が特別だとそう思われたくて色々と小細工してるようだけど、お前の本質は何も変わらない」


 ミーシェは言う。

 侮蔑を込めて。


「ちっぽけな悪女がいくら着飾ったって特別になれるわけないのよ」


「愚民ごときが……ッッッ!!!!」


「その愚民にお前は倒される」


 折れた剣を突きつけて。

 眼帯の少女は宣言する。


「リルに比べたら特別でも何でもない私なんかに倒されるのよ!!」

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