雨と無知
クリニックの外へ出ると空は暗く、足早に行きかう人々は茫然としている私を邪魔にする。
ついさっきまでは……
「先週の検査結果を聞いて、薬を処方されて、薬局に寄っても、5限目の無機化学実験に間に合うから!! もうこれ以上酷い事は無いから!!」
って思っていたのに!!!
先週、「もう!他人に自分のを晒すのは慣れた筈!! それより“パパ”達にカンジダを罹ってるのがバレてしまったり、うつしてしまっては大変!!」と勇気を振り絞って“門をくぐった”婦人科で、強く勧められ受けてしまったHIV検査が陽性だった……
然るべき医療機関への紹介状を持たされ、表に出された時、どうにかこうにか積み上げて来た私の人生は音を立てて崩れていった。
美しいものが好きだけれど、美しくも無くセンスも無い私は、せめて化粧品会社の研究職になりたくて、今の大学へ進学した。
「特別給費奨学金」で授業料だけは賄えたけど、私にとって、トップの成績を維持しながら日々の暮らしを立てるのは普通にバイトするだけでは追いつかず、バイト先で一緒になったコから誘われて“パパ活コーディネーター”のお世話になった。
『私でもこんなに稼げるんだ!!』
今までは全く無価値に思えていた自分の“オンナ”の総てが……こんなにも重宝されるなんて!!
その高揚感が悦楽と相まって最高のマリアージュとなり、私は“空き時間”をみんなパパ活に当てて激しく求め、程なく親の倍以上の額を稼ぎ出していた。
『私は価値のある人間!! そして研究者となり新たな価値を生み出すと言う未来も見えて来た!!』
こう思える幸福感に満たされたのも束の間……
私の人生は一気に暗転した。
この空模様の様に……
気が付けば霧雨にすっかり濡らされている様に、悦楽に身を潜めて私の事を犯した忌むべき物が、この身を蝕んでゆく……
ああ!!
私は夜叉?それともゾンビ?
これからの一生
HIVに抗する為の月額6万とその裏に潜む蔑みを背負わされたのだから
稼がなければならない!!!
そいつらが無知な私に行った様に
私も意趣返しをする。
私は我に返り、夢中で駆け出した。
まずは“無機化学実験”の必修単位を優秀な成績で取る為に!!
その後で、“パパ活コーディネーター”へ“パパ”を増やす相談をしよう!
おしまい