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廉価版(れんかばん)乙女ゲームのヒロインなんて。

唐突だったらすみませんが、読んでくださったら嬉しいです。

「ミンスティア・タージ・ノクリス! 君のような慈悲のかけらもない女などこのイグニス王国の将来の国母としてふさわしくない! よって、君とは婚約破棄し、可憐で心優しい偉大な魔法の使い手である乙女マリアナ・トレンチを新たに婚約者としよう!」


 突如として王宮の夜会会場に大きな声が響き渡った。


 夜会に居る貴族たちが振り返ると、イグニス王国の王太子レオニエル・ド・イグニスその人が自分の婚約者ミンスティア・タージ・ノクリス侯爵令嬢を怒鳴りつけていた。


 王太子レオニエルの顔は鬼のように歪められ、その横にはマリアナ・トレンチ男爵令嬢が呆然とした様子で立っている。



 夜会会場での突然の婚約破棄の騒ぎの、そもそもの発端はマリアナ・トレンチ男爵令嬢が前世を思い出したことに始まった。



 ---


「今日からこの屋敷がお前の家、私たちがお前の家族だ」


 平民の家より遥かに大きすぎる男爵家の屋敷を背に、恰幅の良い男が平民マリアナに向かって言い放った。

 その瞬間、マリアナ……いや、今日からマリアナ・トレンチ男爵令嬢は思い出したのだ。

 自分が『乙女ゲーム~ジャストプライス2000』の世界に転生したことを。


(よりにもよってジャストプライス2000……)


 マリアナは玄関先で頭を抱えてうずくまりそうになる所を、持ち前の強かさで控えめに、


「よろしくお願いします……」


 と言って、トレンチ男爵家の屋敷へと入った。

 動揺を隠し、無難に男爵家の面々との挨拶、執事や侍女や使用人たちへの紹介を終える。


 そして、夕飯の前に、


「急な環境変化で疲れたでしょう」


 と男爵夫人が言ったことで、豪華な部屋の一室でしばらく一人になることが許された。


 マリアナはきっちり部屋に誰もいない事を確認してから、ベッドに思いっきり横になり手足をバタバタさせた。

 着せられている清楚なワンピースがめくれてパンツが見えそうになったが気にしない。


 そもそも、前世の死因も思い出したけれど、仕事で疲れて帰ってきて、下着姿で猫を抱えながら(茶トラのかわいい雄猫だった)お酒を飲んでたら意識がやばい感じで遠くなってきたのが最後だ。

 過労死で孤独死とはやばいな。

 多分、前世の死体は下着姿だ。


 それに比べたら全然気にしない。


(噂の異世界転生、もっと豪華な乙女ゲームの世界に転生したかった……)


 マリアナは正しく自分の転生した世界を理解していた。


 転生したゲームは問題大有りの物だった。


 乙女ゲーム、『乙女ゲーム~ジャストプライス2000』は比較的中堅のゲーム会社が頻繁に出していた、いわゆる廉価版ゲームで、安く様々なゲームを楽しみましょう的なシリーズの一作品だ。


 その名の通り、そこそこの出来のゲームがたった2000円で買える。


 他にもそのゲーム会社はジャストプライスシリーズをもりもり出していた。

 ギャルゲーム、パズルゲーム、アクションゲーム等様々だ。

 他のゲームは安いなりにまあまあの出来だった。


 いや、むしろ予算の中で済ます努力と情熱が感じられて、多少ゲームに物足りなさを感じても納得できた。


 しかし、『乙女ゲーム~ジャストプライス2000』は例外だった。

 ゲームスタッフにも乙女ゲームのノウハウがない人が多かったに違いない、という出来だった。


 攻略対象はたった3人。

 完璧超人のイグニス家王子『レオニエル・ド・イグニス』。

 宰相の息子、騎士団長の息子。


 以上である。


 それぞれ特徴は、王子はステータスバランス型、宰相の息子は頭脳型、騎士団長の息子は筋肉型、といった所だ。


 ヒロインに恋愛的な障害を与えてくれるライバルは1人。

 ミンスティア・タージ・ノクリス侯爵令嬢だ。


 肝心のヒロインは、平民から引き取られて男爵令嬢になったマリアナ・トレンチ。

 主人公の名前が、プレイヤーの名前とかに変えられないのがまず残念だった。


 以上の少ないような気がする主要メンバーの面々が貴族学校『キラドキフェアリーズ』を舞台に恋模様を繰り広げる。


 でも、まあ良いところとしてはグラフィックにそこそこお金をかけていた所だ。

 有名どころの絵師に必要最小限の立ち絵とご褒美スチルを描かせていた。


 レオニエル王子の絵が綺麗だから、前世のマリアナはゲームを買ったようなものだった。

 もちろんヒロインもピンク色に結構近いピンクブロンドとピンクシルバーの目をした可愛い女の子で、つまりマリアナはかわいい。


 2000円でこの絵師さんのゲームを買えて良かった、と前世のマリアナが意気揚々とプレイしたら色々とおかしかった。


 まず、ヒロインであるマリアナは光魔法を使える。魔力が並みの貴族よりも強い。

 そしてそんな魔力が強く光魔法を使えるマリアナは、トレンチ男爵の遠縁の親戚(ほぼ平民みたいなもん)から引き取られる。

 多額の金と引き換えに。


 マリアナは小さい頃から光魔法を駆使して、魔物を倒せる。

 浄化とか可愛いものではない。

 光魔法によるレーザーの照射で魔物を蒸発させる(ある意味浄化か……?)。


 ゲームには、マリアナが時々、魔物の襲来や学校編入テストで、光魔法を披露する描写が出てくる。

 もっとヒロインらしく、『ふわぁああキラキラ』っとした魔法を使いたいものだが、有り余る魔力と制御力に任せて、


「よしっ! いっくよー!」


 ジュッ……!


 と対象物を完全に蒸発させてしまう。


 ちなみに記憶を取り戻す前に、もう学校入学テストは受けた後だった。

 引き取られる前に、慎重な(?)トレンチ男爵が学校に確実に入学できてから引き取りたいと、マリアナに入学テストを受けさせたのだ。

 魔力を試す的を蒸発させて、文句なしの入学決定だった。

 周りにいた教員たちは驚くもの、感心するもの、貴重な備品が壊れて怒るものと様々だった。


 ネットのSNSやレビューでは、「蒸発ヒロイン」「よしいくヒロイン」「ヒロイン・ジュッ……!」と呼ばれていた。


 多分、ゲームの製作陣が『ヒロインは光魔法を使える』という乙女ゲームのテンプレをよく考えないで作ったんだと思う、マリアナは頭を抱えた。


 マリアナは、あまりのヒロインに自分が転生してしまった事に気づいて、ベッドを端から端までごろごろ転がる。

 目が回るけれど、そういうのは気にしていられなかった。


 その内、マリアナはベッドを転がるのに疲れていつの間にか寝ていた。

 そんなマリアナを、男爵家の有能な使用人たちが、浄化魔法をかけて(この浄化魔法は汚れを綺麗にする意味での浄化魔法)綺麗にして、起こさないように着替えも済ませた。


 マリアナが次の日目覚めると、もう使用人が待機していて、問答無用で制服に着替えさせられて、夕ご飯を食べなかった分、朝ごはんをたっぷり食べさせられて、ゲームの舞台である貴族学校に送り出された。


 金で買われたマリアナなので、学園に行くのは嫌だとかそういった反論はできなかった。


 ---


「君か、光魔法に長けている子と言うのは」


 マリアナが学園の馬車寄せで降りると、早々に目の前に攻略対象たちが居て声をかけてくる。

 2000円しか予算がないのでシナリオが巻き気味なのか、王子レオニエル・ド・イグニスを筆頭に、宰相の息子、騎士団長の息子がマリアナの前に勢ぞろいしていた。


 攻略対象をマリアナは初めて見るが、特にその中でもレオニエル王子はグラフィックは良かっただけあって、金髪碧眼のキラキラの王子様だった。宰相息子は眼鏡、騎士団長は筋肉だ。


 そんなこんなでゲームではここでようやくゲームらしく、答えの選択肢がプレイヤーの前に表示されるところだ。


 1、えっ、だ、だれっ? 怖い!

 2、かっこいい人たちですね! 私、マリアナ・トレンチって言います!

 3、ええ、そうよ(光魔法を披露する。魔法学園の看板が蒸発する)

 』


(……どれも選びたくない選択肢だった)


 マリアナは一瞬遠い目をしたが、すぐに気を取り直す。


「トレンチ男爵家のマリアナ・トレンチと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


 よくお話のテンプレとしてありがちな、お話の強制力とやらもマリアナには適用されないようだった。

 普通にマリアナは自己紹介を終えて、普通に90度頭を下げる。

 マリアナはまだ貴族のマナーや教養をほとんど身につけられていない。


 学園で自由に受講できる『教養』『マナー』の講座をたっぷり受けないと、とマリアナは思った。


「かわいい子だね」


 マリアナの無難で殊勝な態度をお気に召したのか、レオニエル王子たちはそんなことを言って一様に頬を染める。


 予算がなくてシナリオ巻き過ぎでしょ、とマリアナは内心頭を抱えた。


 しかもこの後のシナリオ展開もマリアナにとっては、頭が痛かった。


「あーら、ごめんあそばせ~」


 と、そこに女の声がして、マリアナの方に花瓶が飛んでくる。

 マリアナは素直に花瓶にぶつかるわけにも行かず、


「よしっ! いっくよー!」


 と掛け声を出して(マリアナは掛け声を出さないと魔法を発動できない)、


 ジュッ……!


 と飛んできた花瓶を蒸発させた。


 ミンスティア・タージ・ノクリス侯爵令嬢だ。

 ミンスティア・タージ・ノクリス侯爵令嬢が、マリアナに花瓶を投げてきていた。

 明らかに投げたフォームのままで固まっている。

 銀髪に赤い目で釣り目の見るからにきつい美貌で、ゲームのグラフィックと印象はそうそう変わらなかった。


「ふんっ……」


 と鼻を鳴らして、ミンスティア・タージ・ノクリス侯爵令嬢は場から去っていった。

 マリアナと王子たちはその様子を呆然として見送る。

 もちろん、馬車寄せに野次馬のように集まっていた者たちも、今の騒動を見て呆然としていた。


 ---


 それからのマリアナは、大変な日々を過ごした。


 何せ金で買われた男爵家の養子だ。

 男爵家の人たちは必要最低限には優しいが、しょせんは魔力が高い子供を養子にしたに過ぎない。


 そもそもイグニス王国は血統と魔力重視の選民思想が強くて、日本に生きていたマリアナからすれば最低の国だった。


 隣の獣人国の方がまだましで、魔力があるものもないものも人間も獣人も協力し合って生きているそうだ。



 ……廉価版のゲームの為か、シナリオが巻き気味で惚れっぽい王子たち、物理的に邪魔してくる悪役令嬢。

 そして、威力が強すぎる自分の魔力……マリアナはとにかく日々を無難に過ごそうと頑張った。

 頑張るのだが、悪役令嬢は、


「あーら!」


 といって花瓶を投げてくるし、(もちろん、マリアナは当たったら怪我するので全部光魔法で蒸発させている)(本当にこの乙女ゲームは悪役令嬢の事は花瓶投げるだけのキャラにしている)、


「かわいいね」


 と何とかの一つ覚えのように王子は絡んでくる。

 マリアナは王族に失礼にならないように、かつ、できる限り避けようとしているが、攻略対象は3人もいてなかなか全員を避け続けるのは無理だった。


 周りに人が多い時にもこの王子と侯爵令嬢とのやり取りは発生しているのに、誰も止めない。


 異常だった。



 もちろん、恐る恐る、トレンチ男爵にマリアナは報告したが、


「馬鹿馬鹿しい」


 と言われただけだった。


---


 しかし、ここで諦めないのがマリアナだった。

 ヒロインらしく、困難を打開する事にしたのである。


 ゲームの記憶と今までのパターンをマップ化して、悪役令嬢と王子たちを徹底的に避ける事にした。

 授業以外は移動し続けて、移動しながら潜伏先で勉強する。


 マリアナは掃除用具のロッカーの中に隠れながら、光魔法で光を灯して隣の獣人国の外国語を覚えたこともあった。

 ちなみに非現実的な環境や危機感を感じながら勉強したのが良かったのか、隣国獣人国アルーダの外国語は発音も獣人の担当教諭に褒められて、学年一位の成績を収めた。

 正直、そんな良い成績を収めて、


「あなたちょっと生意気なのよ」


 と、とうとう捕まらないマリアナに業を煮やしたらしいミンスティア・タージ・ノクリス侯爵令嬢に、授業中にはっきり言われた。


 ここまでくると、ノクリス侯爵令嬢の意地悪ゲームイベントの一つかもしれないが、もうマリアナはどうでも良かった。


 ここ最近、逃げ続けて首尾しゅびよくあの何かの一つ覚え三人組とも顔を合わせてないし、だから花瓶も食らいそうになっていない。


 後は、せっかく勉強する機会に恵まれたのだから、勉強を精いっぱいやるべきだ、とマリアナは思った。


(大体、何なのよこいつら。学生の本分は勉強でしょうが。乙女ゲームだからそうなんだけどなんで恋愛に力割いてるのよ)


 マリアナの胸は怒りで一杯になっていた。


 ---

 ----

 -----


 そして、冒頭の夜会の当日に時間は戻る。


 その日、珍しく機嫌が良いトレンチ男爵にマリアナは貴族の義務だとして王宮の夜会に連れていかれる事になっていた。


 男爵家の面々で朝から準備をして王宮に向かう。


 マリアナは清楚な青のドレスを着せられた。

 ドレスの色が若干、あのレオニエル王子の瞳の色に似ている気がして気持ち悪かったが、ここで何かを言って水を差しても仕方ないので、マリアナは黙っていることにする。


 馬車で夜会に向かうと、無難に他の貴族たちと挨拶をした後、


「やあ、今日も可愛いね」


 目の前にレオニエル王子が居た。

 助けを求めるようにマリアナが男爵家の面々に視線をやると、ニコニコ顔で王子の方に押し出される。


「ミンスティア・タージ・ノクリス! 君のような慈悲のかけらもない女などこのイグニス王国の将来の国母としてふさわしくない! よって、君とは婚約破棄し、可憐で心優しい偉大な魔法の使い手である乙女マリアナ・トレンチを新たに婚約者としよう!」


 レオニエル王子の怒鳴り声が鳴り響く。

 マリアナは、められたと思った。


 マリアナは、呆然としたが次の瞬間、


(こんな所はもう捨てて逃げてしまおう)


 と思った。

 幸い、マリアナは主人公だからなのか、徹頭徹尾てっとうてつび行動の自由はきくようであった。


「ばーか! くそくらえ!」


 マリアナはそう叫んで、ゲームから逃げ出すことにした。


(もう女とか売られたとか勉強とか生活とか何も気にしない。

 前世でも、安定した生活とか金とかそんな事を気にしていて、猫を残して過労で孤独死してしまった。

 私が死んだあと、猫はどうなったのだろう。

 ここではないどこかに行かなくては)


 マリアナは今世でたった今ようやく10代の子供のような事をしていた。

 マリアナが茶番から逃げ出すための力は十分に持っていた。


 華奢な青い靴を脱ぐと、レオニエル王子の綺麗な顔に投げつける。

 そうして、乙女ゲームの世界に背を向けた。


 光魔法の魔力で、外に走り始める。

 光は何よりも速い。その光の力を適度に自分に適用した。


 時々、道の石か何かを踏んで怪我しそうになる足は、傷が入る寸前から治癒しながら走り、光魔法の強力な治癒魔法の力でコーティングして走った。


 身体の疲れも光魔法で回復しながら走った。


 行く手は光り輝く光の道を作りながら走った。


 あてどもなく走ったマリアナはだけれども、本能的に行き先を知っていたのかもしれない。


 イグニス王国を、何もかもを振り切りながら出たところで、


真理亜まりあ!!」


 と前世の名前を呼ばれた。

 聞いたことはないけれど、懐かしい声だった。


 振り向くと、そこには猫耳を生やした男が立っていた。


「太郎!」


 その耳と尻尾は前世の猫の柄と寸分たがわぬ茶トラ柄だった。

 マリアナ、いや真理亜はその猫耳を生やした男の胸に飛び込んで、前世の猫の懐かしい匂いに包まれて気を失った。


 ---

 ----

 -----


 猫の太郎は、獣人国アルーダで自分が違う世界に転生していることに気づいた。


 きっかけは、トラ獣人の母親がベッドに寝たきりになった事だった。


 トラ獣人の母はとにかく体が丈夫だったが、だんだんと腎臓を悪くしていた。

 長い闘病の末に人間の国から買ったポーションもうまく効き目が出ないで、とうとうベッドから起き上がることができなくなってしまったのだ。


 その倒れ伏した母の姿を見ていると太郎は、こことは違う世界で何もできないで死なせてしまった存在を思い出した。


 前世のその世界では、獣は人間よりもはるかに弱い存在であり、太郎自身も真理亜という人間に飼われて安穏としたそれでいて退屈な毎日を過ごしていた。

 それは心地よい退屈であり、ただの獣だった太郎はそんな難しいことは考えることはできなくて、餌を食べて、仕事から帰ってくる飼い主を待ち、時にはゲームをする飼い主の横でぼんやりしていた。


 飼い主は自分にも可愛い笑顔を向けてくれるけれど、ゲームをするときも笑っている。


「あーあ、こんな仕事漬けの毎日なんかなくなって、ゲームの世界で暮らしたいなぁ。イケメンに囲まれてほどよい刺激もあって、魔法で無双して楽しく暮らしたーい。ね、太郎?」


 飼い主真理亜の言葉に猫の太郎はニャーと答えるだけだった。

 でも、そう答えると真理亜は楽しそうに笑うのだった。


 ……そんな幸せな日々が続くのだと思っていた。


 ある日、ちょっと刺激臭のする飲み物を飲んでいた飼い主真理亜は、太郎の前で動かなくなった。

 誰かに真理亜を助けてもらわなければ、と思うものの太郎は何もできない。

 太郎が騒いでも誰か他の人間は来てくれないし、マンションと呼ばれる部屋の中から太郎は抜け出すこともできなかった。


 時間が過ぎていくとともに、太郎の前で真理亜は冷たくなっていく。

 太郎の小さな頭にも、もうここに真理亜はいないのだという事が分かった。

 そして、太郎は真理亜をおいかけようと思った。


 それには……と、太郎は真理亜の前に零れている刺激臭のする液体を見詰めた。

 この液体を飲んで真理亜は動かなくなった。


 太郎は思った、


(よく分からないけれど、大好きな真理亜はもちろん頑張っていたから好きなゲームの世界で暮らすだろう。自分は、せめて次は真理亜を抱きしめられるように助けられるように、力強い腕をもった人間として生まれ変わりたい)


 と。


 そして、今世で異世界に転生している事に気づいた太郎は、はるか遠い向こうから懐かしい真理亜の匂いがかすかにすることに気づいた。

 太郎は、病気の母親を他の家族や使用人に任せて、真理亜の匂いがする方に駆けだしていた。


真理亜まりあ!!」


 国の外れまで来たところで、神々しくほのかに光ながらこちらに走ってくる真理亜を見つけた。

 真理亜の外見は地味な色彩だった前世からだいぶ変わっていたけれど、すぐに分かった。


 太郎の外見も前世とだいぶ変わっていたが、真理亜は気づいてくれたようだった。


「太郎!」


 太郎の腕に飛び込んだところで、真理亜は気を失った。

 見ると、その足は裸足で着ていたであろうドレスも木か何かに引っ掛けたのかボロボロだった。


 太郎は慌てて自分の着ていた上着を真理亜にかけて、お姫様抱っこをした。

 真理亜の振り切ってきた国境の獣人国アルーダの警備兵が追ってきて、太郎は真理亜の身元を保証した。


「まあ、タロウ・タナカ様が保証するなら……」


 と獣人国アルーダ屈指の商家の息子である太郎の言葉に警備兵はあっさり引き下がる。

 太郎の家は代々ネコ科で、香辛料や香水など匂いに関するものを中心に手広く商売をしている。

 大商人の息子が身元を保証するなら、という事なのだろう。


 太郎は聞き分けのいい警備兵に金貨を渡してその場を後にする。


(真理亜は好きなゲームの世界で楽しく暮らすのかと思っていた。

 ……でも、このボロボロ具合。良い目になんてあっていないことは一目瞭然いちもくりょうぜんだ。

 今度こそ大好きな真理亜を助ける)


 太郎は、真理亜を甘やかして贅沢させて真綿にくるむように大事に大事にしよう、と一方的に決めていた。

 真理亜はだいぶ髪も目も色彩は変わっていたけれど、匂いも雰囲気も太郎の好きな真理亜のままだった。


 その後、マリアナこと真理亜が目を覚ますと、一方的に怒涛のような太郎の溺愛に溺れて毎日を過ごすことになった。

 隣国がどうとか王子がどうとかの情報はもう真理亜の耳には全く入ってこない。

 毎日が太郎の溺愛に頭から足の爪の先まで溺れて暮らす日々だ。


 そして、真理亜は真理亜で何かお返しにできることはないかと考えた結果、太郎のお母さんの腎臓の病気をそのヒロインの光魔法の治癒魔法で治すことに成功したし、ネコ科の獣人に効く腎臓病対策特化のポーションを作成したりして、大きく獣人国に貢献していく事となったのだった。


 そして、真理亜と太郎は当然のように結婚し、かわいい子猫獣人がたくさん生まれて幸せに暮らすのだった。

読んで下さってありがとうございました。

もし良かったら評価やいいねやブクマをよろしくお願いします。

また、私の他の小説も読んでいただけたら嬉しいです。

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↓代表作です。良かったら読んでくださると嬉しいです。

「大好きだった花売りのNPCを利用する事にした」

― 新着の感想 ―
[一言] PS2かな...
[良い点] あのシリーズガンスリンガーガールの人が参加してたり、後のドリームクラブや地球防衛軍シリーズに繋がったりとそこそこのクオリティ出してましたね。 スナイパーのやつは、うん…… あと猫ちゃんと再…
2024/01/21 08:03 退会済み
管理
[一言] こ、仔猫'sのお姿をみてみたひ(ばたん
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