義姉が姉たる理由
本を読んでいたら携帯の通知音が来て驚いた。
新進気鋭の若手女優神原咲が芸能界を引退すると、自分のSNSを通じて発表したとネットニュースが流れてきた。
なんで!?なんで引退しちゃうんだよ!!やっと夢を叶えたっていうのになんで辞めるんだよ!!
...............もしかして僕のせい?僕がこんなになったから?だから姉さんを苦しめるの?
慌てて姉さんが使っているSNSを覗けば一言だけ更新されていた。
『今行くからもう少しだけ待っててね』
それから1時間もすれば姉さんのアカウントは消えていた。
僕は冗談だと思いたかったけど、アカウントが消えたから冗談じゃないって分かってしまった。
それから僕が何度も姉さんにメールを送ったりしても一度も返信されなかった。
そんなことがあった2日後姉さんが引退を発表してから始めてテレビに出演した。
この番組が放送される少し前に姉さんからやっとメールが返信された。
『今日の21時にあるトーク番組を見て』
多分これを見れば答えがあるんだろうとは思う。けど見るのにも勇気がいる。
幸いにも僕がいるのは個室の病室だから、看護師さんにお願いして消灯後もテレビを見れるようにお願いした。
番組が始まった。なぜか見ている僕が緊張している。
僕が姉さんの人生を狂わせた。そう考えるとこの番組を見るとこができない。
でも姉さんのお願いだから頑張って最後まで見るようにする。
番組の冒頭で姉さんがゲストとして登場する。
いつもは綺麗な笑顔をしているけど、今日は少し引き攣った笑顔をしている。多分無理やり笑顔を作ってるんだろうな。
番組が進む中で、司会の人が姉さんの引退発表にについて聞いたらこう答えた。
「私には1人の可愛い弟がいます。母が再婚してできた血が繋がっていない義弟です。弟はいつも私に笑ってくれました。他人で急に義姉になった私にすぐに懐いてくれました。本当の姉であるように、です。そんな弟は私がお芝居の練習で上手くいかなくて落ち込んでいたら励ましてくれました。イライラしていた時には強く当たりもしてしまいましたが、それでも弟は私のことを応援してくれました。あの時弟がいなければきっと私は、途中で挫折してこの場にはいなかったと思います。それぐらい弟は私にとって大切な存在です。そんな弟がイジメが原因で自殺を図りました。幸運にも命は助かりましたが、今でも入院をしています。大切な弟が苦しんでいる。そんな時に側にいられないのが嫌なんです」
「女優としての自分か義姉としての自分。どちらを選ぶかと言われたら迷わず義姉としての自分を選びます。私の神原咲という名前は弟がつけてくれました。女優としてこの芸能界で満開に咲く花のように花開いてほしい、という願いを込めてくれました。そんな優しい弟なんです。だから私は夢であった女優を捨てても後悔なんてありません。むしろ今弟の側にいられない方が必ず後悔します。なぜなら私は神原咲である前に1人の義姉です。義姉が弟を思うのは当たり前です。だから今これを見ている弟に言います。もうすぐ行くから、絶対に行くから待っててね」
「..................そんな理由でしたか。ですが活動休止という手段がありますのになぜ引退なのですか?」
「こんなことをここで言っていいのか分かりませんが、それは事務所との関係です。私が弟のことを知ったのは最近のことです。ですが弟は2ヶ月以上入院しています。そして情報を私に教えてくれたのは私の友達でした。この意味が分かりますか?事務所がこのことを知らないはずがないです。ならばこの情報を私のところまでこなかったのは、事務所が意図的に情報を隠したのでしょう。たしかに仕方のないことです。私達は評判が命ですから。しかし家族として、1人の義姉としてはそんなことどうでもいいです。私に弟のことを教えなかった。これが芸能界なんだって思いました。こんな所にいて、愛する弟を見捨てることができるほど非常な人間ではありません。ですのでこんな芸能界から別れたくて引退という形をとりました」
涙が目に溜まって上手く画面を見れない。血は繋がっていなくても義姉は姉さん。それだけは変わらない。
自分の夢を捨てないで欲しいけど、姉さんの言葉に何も言えなかった。
僕が姉さんにしたことなんてない些細なこと。励ましたり、誕生日プレゼントをあげたりとか普通のことしかしていない。でもそれを前部覚えててくれてた。
嬉しいけど、僕のために引退するって考えたら罪悪感しかない..........。
それから番組の内容が頭に入ってこなかった。気づけば番組は終わって、気づけば朝になっていた。
僕はどんな顔をして姉さんに会えばいいんだろう?姉さんにはここに来て欲しくない。でも来て欲しい。会いたい。すごく会いたいけど、どうすればいいんだろう?
何度も何度も考えても分からない。思考の渦に飲まれていく。
すると、コンコンコンという音が病室に響く。
姉さんが来たかもしれない。
ダメだ。緊張してきた。
ゆっくりとドアが開く。
そこには最近までずっと画面越しに見ていた見慣れた顔があった。
神原美波が、僕の姉がそこにいた。