表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何の変哲もない侍女ですが、憧れの宮廷画家様から毎日観察されてしまっています。  作者: 小桜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/27

君を描きたい、これからも



 数ヶ月後――王宮の大広間では、マルガレーテ様が十六歳になる誕生日パーティーが開かれていた。

 

「マルガレーテ様。お誕生日おめでとうございます」

「あら、ありがとう二人とも」

  

 本日の主役であるマルガレーテ様は、いつもとは違い、少し大人びた赤いドレスを着こなされていた。ひとつ大人の階段を上ったマルガレーテ様にぴったりの装いだ。

 

 こういったパーティーの際、必ずマルガレーテ様のお供をされていたシェリル様の姿は見当たらない。彼女は謹慎処分後、急に王宮を去ってしまったとの事だった。風の噂では、領地で縁談を受けたらしい。

 マルガレーテ様曰く、シェリル様もシェリル様なりの恋をしていたのだという。私には、それ以上伺うことは出来なかった。

 

「マルガレーテ様、とてもお美しいです。バラのような赤がマルガレーテ様によくお似合いです」

「あなたも素敵よソニア。ドレス姿なんて初めて見たわ」

「あ、ありがとうございます」


 私も今日だけは地味な侍女服を着替え、落ち着いたイエローのドレスで着飾っていた。ローランド様のパートナーとして、このパーティーへ参加するためである。慣れていないため、褒められると少し気恥ずかしい。

 マルガレーテ様は私のドレス姿を眺めたあと、隣に立つローランド様をニマニマと見上げた。


「ローランドも、パーティーなんて絶対に参加しない人だったのに。よっぽどソニアのドレス姿が見たかったのね」

「そうですね。本日はパーティーより、そちらが楽しみで参りました」

「あら正直ね! 私とソニア、どちらが主役なんだか分からないわ」


 クスクスと満足気に笑いながら、今日の『主役』であるマルガレーテ様は忙しなく席を立った。どうやら直々に挨拶回りへ行かれるらしい。


「そうだわ、ローランド。素敵な誕生日プレゼントをどうもありがとう」

「いえ。喜んでいただけて何よりです」

「じゃあね、二人もパーティーを楽しんで」

 

 ひらひらと手を振るマルガレーテ様の後ろ姿を見送ると、私はローランド様をギロリと睨んだ。


「なぜ睨む?」

「――お誕生日の席で、なんてことを仰るのですか!」 

「なんのことだ」 

「先程のことです。パーティーより、だなんて……マルガレーテ様だから笑って許されたものの、あのように失礼なこと本来なら許されません」

「マルガレーテ様相手の場合は、ああ答えるのが正解だろう」


 ローランド様が暴論を平然と言ってのけるので、私は空いた口が塞がらない。

(マルガレーテ様相手の場合は――確かに、そうかもしれないけど……!)

 

 一ヶ月の謹慎後、私達はマルガレーテ様へ報告した。なんだかんだあったものの、無事に丸く収まった、つまり恋人同士になったことを。

 

 それを聞いたマルガレーテ様は、目の色を変えた。

 どちらから告白したのか、お互いのどこが好きなのか、婚約はしないのか、結婚式はいつなのか。怒涛の質問攻めは私達が怯んでしまうほどの勢いで、祝福してくれている……というよりは、本当に恋愛への興味がお有りなのだなと思わせられた。

 ことさら、恋愛というものを知ったローランド様に大変興奮されているようで、『ありのままを聞かせてちょうだい!』と日頃から口酸っぱく言いつけられている。正直とても恥ずかしい。

 

「マルガレーテ様がお望みでも、あまりに失礼では」

「しかし本心だからな。ここへはご褒美があるから来た。それだけだ」

「ご褒美?」

「君のドレス姿だ」

「な……何を……!」


 真っ赤になる私を見下ろし、ローランド様は嬉しそうに微笑んだ。彼は私のドレス姿を心から楽しみにしていてくれたらしい。蕩けた瞳がくすぐったい。

 頭からつま先までローランド様の視線が刺さるようで、恥ずかしさは最高潮に達した。


「ま、まだ、見ますか」

「見るのを我慢しろというほうが無理じゃないか」

「……たまには我慢なさってはいかがでしょう」

「せっかく君のドレス姿、見なければ勿体ない――そうだ、その姿を残さなければ。ソニア、お願いだ」

「えぇ……」


 ローランド様は名案だというように、私へ手を差し出した。行き先は分かっている。いつもの、ローランド様達のアトリエだ。

 お願いだと言われたら、ローランド様に弱い私は断れない。仕方なく彼の手を取ると、手を引かれるがままに私達は大広間を後にした。




 大広間のざわめきが遠のいて、薄明かりの廊下はとても静かだ。二人の靴音だけが廊下に響く。

 途中、ギャラリーを通りかかると、真新しい絵が飾られてあった。今日飾られたばかりのローランド様の絵である。

 

 ピンクの薔薇に囲まれた愛らしい少女。

 マルガレーテ様の肖像画だ。


「――良い場所に飾っていただけましたね」

「ああ、御本人も喜んで下さっていて安心した」

「もちろんです。マルガレーテ様も、出来上がりをずっと楽しみにされていたのですよ」


 ローランド様は、また少しずつ人物画を描き始めた。

 本当に、少しずつではあるのだが。やはり意識に根深いものはあるものの、人を描くことへの抵抗感は随分薄れたのではないだろうか……と彼の側で感じている。

 私以外にも、ペドロ様やマルガレーテ様など、協力者を積極的に描くようになったのだ。時々、モデルとなった彼らのことを異常なまでに心配しながら。

 

 そして先日、ようやく完成させたのが、マルガレーテ様の肖像画だった。

 ローランド様が国王より依頼された『人物画』は、マルガレーテ様の肖像画として無事献上された。するとこれがまた娘を溺愛する王に大絶賛され、マルガレーテ様への誕生日プレゼントとしてお披露目されたのである。

  

「良かったです……本当に、良かったです」

「やっと、肩の荷が下りた」

「そうですね。これで私も、観察される毎日に終わりを迎えられるでしょうか」

「そう思うか?」


 そう思うか、と聞かれて、私は今までの記憶を手繰り寄せながら思案した。

 異常なまでに心配性なローランド様。私のドレス姿を見るやいなや、我慢出来ずにアトリエへと手を引く愛すべき人。

 この生活が、終りを迎えるはずがない。


「……思いませんね」

「ソニアが嫌なら、見ないよう我慢する努力はするが、約束はできない」

「嫌なわけありません、ただ……」


 私にはひとつだけ、文句を言いたいことがある。


「恥ずかしい姿を描くのは、やめて下さい」

「なんだそれは」

「ローランド様が『君らしい』と仰る私の姿です。もっと真面目な私を……」

「それも約束はできないな」


 ローランド様はとても良い笑顔で、私の訴えを却下した。

 しかし、依然として食べる姿や慌てる姿などを描かれている私は、恥ずかしくてたまらなかった。彼のスケッチには、『ありのまま』と言われる私の恥ずかしい姿が溜まっていく一方なのである。喜ばしいことではあるが、誰かに見られてはたまらない。


「あれは恥ずかしくなど無い。すべて君らしい」

「私は恥ずかしいんですよ。もし誰かに見られたりしたら――」

「誰にも見せない。俺だけのものだから」

「わっ……!」


 そう言って、ローランド様は突然私を抱き上げた。

 くるくると回ってみたり、髪に顔を埋めたりと、彼にしては珍しくはしゃいでいる。パーティーの空気に触れたからだろうか、それとも人物画の依頼から開放されたせいだろうか。

 

「俺は、これからも君を描きたい」


 そのまま軽く口付けされると、たちまち甘いものが胸に広がる。私達は合図のように視線を絡ませ――もう一度、ゆっくりと優しい口付けを交わした。


「覚悟しろと、言っただろう?」

「……はい、その通りです」

「そばにいてくれ。これからも」


 ローランド様によって繰り返される口付けに溺れながら、私はアトリエへ思いを馳せた。

 

 大量のデッサン。私の姿は、日に日に積み重なってゆく。

描かれることは恥ずかしいけれど、本当はとっくに嫌じゃない。きっと、これからも何枚と――

 

「……では、綺麗に描いてくださいね」

「当然だ」


 これからも私の痴態は切り取られる。

 最愛なるローランド様の手によって。

最後まで読んで下さり、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ハッピーエンドありがとうございます! ローランド様の不思議な観察から始まって、デート回や対先輩のフォローなどで距離が縮まり、彼が過去を乗り越えて一緒になるまでキュンキュンな物語でした! こ…
[良い点] 完結おめでとうございます&お疲れさまでした!! 最後までとっても面白かったです! のんびり里帰りしてるソニアをローランドが追い越しちゃったのにちょっと笑ってしまいましたが、心配するローラ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ