98話
「ほら、どう?」
「いや、その…」
「ちょっと、感想ぐらいは言ってよね」
「綺麗だなって」
「何それ?さっき言ってたような興奮するとかじゃないの?」
「ばっか、俺はそこまでヘンタイじゃないって」
「ええーーー」
少女にそんな失礼なことを言われて、俺は少しムッとする。
だって、そのときはこの少女のことが好きだったはずだった。
だからこそ、好きな女性の下着を見ても、興奮よりも綺麗と思ってしまったのだ。
それが、それなりにスケスケな下着だとしても…
さすがにエロガキだとしてもだ。
そうこうしていると、そんな純粋無垢な俺に対して、少し不満だったのだろう少女が、何かを考えるとすでにそれなりに近かった俺の頭と下着の距離を頭を下着に引き寄せることで、ゼロにしたのだった。
「どう?」
「いや…なんだ!」
「どうしたの?」
「いや…」
驚いてすぐに離れた少女は、本当に俺のことを心配していたが、俺はこのときにあることになっていた。
そう、体の中でそれまであるはずもないと思っていた気を感じていたのだ。
それに驚いていた俺に対して、少女は言う。
「ふふ、ヘンタイだね」
そんなことはないと言いたかったと思うが、確かに体の中でしっかりと気を感じていたのだから…
体に秘められた能力というのはいつ覚醒するのかはわからない。
それが例えヘンタイな行為の場合だとしても…
こうしてヘンタイ行為によって気を目覚めさせた俺は、確かいろいろな修行をしていく。
で…
結局は気をよりよく使うためにも必要なことはヘンタイ的なことをすることということがこのときわかったんだった。
「そうだ、気は生命エネルギーだったのか…」
「何を言ってるのよ?」
俺が急にボソッというのを聞いて、アイラはかなり引いているが思い出したのだから仕方ない。
気を使うのも感じるのも、結局は強い生命エネルギーを使っているだけなんだから…
だから、ヘンタイを感じるときは性欲が高まり、性欲が高まるということは、そう生命が輝いているときなんだ。
何を言っているのかわからないだろう。
大丈夫だ、俺も理屈をよく理解はしてない。
言えることは一つだ。
俺は性欲が高まることによって、気をさらに感じてそれを使うことで、ある技を使うことができる。
何度もしごきを受けながらも、それでも幾度となくやらされる。
それが武術を覚えるということで、仕方ないことだとわかっていても、ヘンタイのせいで気に目覚めたことをそのとき後悔していた。
でも、今は違う。
ヘンタイになり、気を使えるようになって、そして敵を倒すことができる。
ふ、それがこの上ない喜びということか!
「行くぞ、構えろよ!」
「何を言っているんですか?そんなところからは届きませんよ。それに、何か攻撃をしたとしても、僕の雷で全てないものにできますのでね」
「やってみないとわからないだろう?」
「だったら、その攻撃に僕のこれをぶつけてみてはどうですか?」
「勇者様!」
「うるさいですね!」
『きゃあ!』
勇者神は、その言葉とともに、近くまでなんとか来ていた女性たちを雷で感電させる。
それによって、女性たちは地面に倒れる。
「勇者様…」
力なく、そんな言葉を言うが、それ以上近づくことはかなわない。
その光景に俺は怒りを覚える。
ただ、そんな怒った様子の俺を見て、勇者神は楽しそうだ。
「どうしたんですか?そんなに怒った顔をして…」
「うるせえ、仲間を大切にしないやつは嫌いなんだよ」
「だから、仲間じゃないと言っているでしょ?本当に、何度もうるさいですね」
「そう思うのなら、俺を倒してみやがれ!」
「もちろんそのつもりですよ!」
俺は拳を引き絞る。
体にある気はヘンタイスキルが発動しているからか、かなりのものを感じる。
エロスを感じると、生命エネルギーが増えるということは知っていたけど、こういうことだったってことか…
俺は力を解放するかのように叫ぶ。
「行くぞ!カイセイ流、五の拳、スターキャノン!」
その言葉とともに走る。
速度はヘンタイスキルが発動しているから、速い。
といっても、強化するくらいの速度なので、敵である勇者神からすれば、その程度かと思われるかもしれないが…
それでも引き絞った拳は前にやるとその勢いのまま地面を飛ぶ。
そう、これは俺が一発の弾となって、飛んでいく技だ。
それを見て、勇者神も声を張り上げる。
「なんですか、その意味のわからない技は…そんなもの僕のこの魔法の前では無意味ですよ。雷よ、相手を稲妻にのみこみ灰塵とせよ、サンダーボルト」
勇者神が放ったのは、高速に撃ちだされた、まさしく雷の矢みたいなものだった。
そして、俺の技と衝突する。
撃ちだされた形をとっている俺の勢いも、稲妻によってとめられる。
脚をついてしまい、頭の前にやった両手で稲妻を押さえつけている状態だった。
「ふは!自信満々なわりには、すぐに破れてしまいそうな技しか使えませんか!」
そんな言葉が聞こえる。
確かにそうだ。
今の状態では負けてしまうだろう。
でも、ここで負けてしまうということは、あいつはこのまま魔王に挑みにいくということなのだろうし、先ほどのオーガを殺しにいくのかもしれない。
そうなってしまい、もし魔王が倒されることになれば、あの勇者の中に入っているやつがどんなことを頼むのかがわからない。
だから、あのくそ雑魚であり頼りにならない勇者になんとか正気を取り戻してもらわないといけない。
じゃないと、困るやつがいるしな。
たぶん、今もこの状況を見ているであろう自称神のことを思いだしていた。
最初にパンツを与えられるという意味のわからないところからスタートして、ここまで頑張ってきたんだから、やるしかない。
俺は拳を後ろに下げ始める。
「諦めましたか!それでいいのです!」
それに対して、勇者神は楽しそうに言う。
ただ、俺が思っていることは違う。
そう、見ていたのだ。
勇者パーティーにいた女性たちを…
電撃で痺れてしまって、悶えながらも動く彼女たちのことを!
なら、どうだろうか?
一瞬押し戻された手は戻っていく。
「何!力が増したというのか!」
「だとしたら、どうだというんだ?」
「でも、まだ僕のほうが…」
「きゃ!」
強いと言いかけたのだろう。
だけれど、それと合わさるようにして聞こえたのは、シバルのかわいらしい悲鳴だった。
一瞬チラ見からの、俺はすぐにそれに目を奪われてしまう。
シバルは、あのときの紐を装備いつの間にか装備していたのだろうが、ボタンの押しすぎなのかはわからないが、紐がかなりしまっているのか、体のラインが目に悪すぎることになっている。
まあ、それに気づいたのは、今この場には俺しかいない。
だって、当たり前だ。
普通であれば集中するのは戦闘だ。
でも、俺が集中するのは違う。
そう、ヘンタイなことに全集中するんだ。
そんなふうにして、戦闘中だというのに、目を完全に逸らした俺に対して、勇者神は怒る。
「僕と戦うときによそ見ばかり!このまま押し切って…なに?!」
「気づいたか!」
「さっきもよりも、さらに力が増しているだと…」
「気づいたところで遅い。俺のヘンタイは限界突破しているからな」
「何をバカなことを…」
「行くぞ!うおおおおお」
「なにいいいいいい」
俺は一歩、二歩と歩くとそのまま走り出す。
雷の矢はそんな俺の拳で弾いていく。
そして俺は勇者神を殴り倒した。
「かはっ!」
強く体を打った勇者神は、それでも必死に立ち上がろうとしていたけれど、そううまくいくものではないだろう。
よし、後は俺がかっこよく決めて…
そう思っていた。
ただ、すぐに横から衝撃が…
「あれ、一緒に飛んでる?」
攻撃の相手を見ると、アイラが両手でラリアットしているところだった。
あ、ケッペキスキルで強化したからか、なるほどね。
でも、元聖女がラリアットって…
俺はそんなことを考えながらも、勇者神と同じように飛んでいくのだった。
かなりの勢いで飛んでいった俺は、なんとか着地をする。
勇者神はさすがに勢いが強かったのか、なんとか受け身はとるが木に当たる形で止まる。
「ぐは…」
「よし、もういいな」
俺は勇者神に近づきながらも、握っていた拳をおろした。
それに対して、勇者神も体に力が入らないながらも答える。
「ええ、もうさすがに戦う力は僕には残っていませんから」
「それじゃ、最後に何か言いたいことはないのか?」
「それじゃあ、僕が死ぬみたいじゃないですか?」
「違うのか?」
「違いますよ、僕はまた上に戻るだけです」
「上ねえ…」
「そうですね、あなたがもっと強くなることができれば、その答えを知ることができると思いますよ」
「なんだよ、意味深な言い方だな」
「仕方ありませんよ。これでも、いろいろと教えてもらっていなかったことを言ったはずですがね」
「そうだな」
確かに、いろいろなことを今回の戦いで知ったことは知った。
といってもだ、別に知ったところでどうでもいいことでもあったような気がするのは俺だけだろうか?
だって、やることは変わらないしな。
むしろ、最初に知っていたとしても、すぐに魔王を倒そうなんて考える奴のほうが稀だと思うけどな。
そんなことを思っていると、勇者神はそんな俺の表情でどんなことを考えているのかをなんとなく察したのだろう、楽しそうに笑う。
「くく…なるほどね、異世界に飛ばされたからといって、自分勝手なことをしない人間はやはり違うということですね」
「別にそういうわけじゃねえよ。こうみえても俺はいっつも自分勝手にやってるだけだ」
「ふ、そういうことにしておきましょう。では、最後に一つだけ」
「なんだ?」
「この僕が召喚した勇者ですが、どうやらあなたを殺した張本人ですよ」
「どういうことだ?」
「それについても、いずれわかることになるかと…本当に楽しいですね」
「おい!」
「…」
俺は必死に勇者を揺さぶったが、何か返事が返ってくることはなかった。
最後の言葉にかなりの引っかかりを覚えながらも、俺は勇者を地面に寝かせた。
異世界に転生した本当の意味がなんだったのかということを考えながら…




