94話
「シバル?」
「今のを防ぐだと…」
「アイラ様、ここは任せてください」
「ほう、今のを防ぐとはな」
「ボクだって、やられっぱなしは嫌ですので」
「楽しい、楽しいぞ」
大剣を振るうオーガの攻撃をシバルは盾で受け流したりしながらも、確実に防ぐ。
防ぐことができても攻撃が…
勇者は倒れて看病をされている。
何も役に立たないんだから…
あんなのが勇者だということにいまだに疑問を覚えながらも、このまま攻撃をシバルがずっと防ぐのかがわからない。
シバルの顔はそれなりに高揚しているのがわかる。
楽しそうに剣を振るうオーガと顔を高揚させて、なんとか攻撃を防ぐシバル。
さすがに長くはもたないのかもしれない。
シバルのことは、私が一番わかっているけど、それでもいつまでもつのかわからない。
今は防いでくれているからこそ、ここで打開策を見つけないとね。
「やるな!」
「ええ、ええ!ボクはやりますとも!」
「だが、そんなことでは長く戦えないだろ?」
「ふふふ、そんなことはありません!」
「おお、パワーが上がっているのか」
「ふふふ、ボクはそんな言葉に屈しません。もっとうこう、いい感じの言葉でないと!」
「そ、そうなのか?」
「そうです。ボクはこうもっといい感じの言葉でないとやられることはありません」
「よくはわからないが、我の攻撃を完璧に防げるということだけはわかるな」
「ええ、こんなこと夜飯前です!」
シバルは意味のわからないことを言いながらも、完璧に攻撃を防いでいる。
本当に何が変わったのかはわからないけれど、さすがは私の騎士ということね。
それでも急に発動したはずのスキルで、それが長くもつものなのかもわからない。
だからといって、私も使えるものは防御系の魔法。
私の攻撃で使えるものは、金属の棍棒くらい。
防御の耐性が低い相手であれば、これでもなんとかなるのかもしれないけど、オーガには効く気がしないからね。
頼りになるのは、バーバルだけ…
そんなバーバルの方をみると、魔力が高まっているのを感じていた。
「行きます!火よ、その炎を火柱にして相手を燃やせ、ファイアータワー」
それは火柱を起こす魔法だった。
オーガの周りを火が取り囲む。
バーバルの行きますという声の後に、魔法が放たれていたため、シバルは完全に範囲外に出ているが、この魔法については範囲攻撃系の魔法なのだろう。
相手を拘束している。
「ほう、面白い魔法だが、この程度の熱さでは我は倒せないぞ?」
「本当にそうですか?」
「どういうことだ?」
不敵に笑うバーバル。
私たちも疑問だった。
確かに、火柱に近づくと熱い。
ここに閉じ込めると、出ることはできないとは思う。
でも。それだけだと思ってしまう。
それ以上にこの魔法に何かがあるというのだろうか?
バーバルの方を見ると、それは楽しそうに笑っている。
「バーバル?」
「楽しい、楽しいわよね。どうなのかしら気づくのかしら…」
「えっと、どういうこと?」
「うふふ、そろそろわかるわよ」
その言葉の通り、火柱の中で声が響く。
「これは、熱で酸素が奪われているのか!」
「気づきました?」
「これを狙っていたというのか?」
「そうですよ。火柱というのは確かに閉じ込める役割はありますよ。ですが、それだけではないのです。燃やせば燃やすほど、周りの酸素はなくなっていきますのでね」
「くははは、面白い。面白いぞ」
オーガはそれに対して、かなり他の失踪にしている。
自分が倒されそうになっているというのに、それが楽しいとでもいうのだろうか?
私が疑問に思っていると、中にいるオーガの雰囲気が変わっているのがわかる。
何をしようとしているの?
そう思っていると、中で声が聞こえる。
「大剣技、断頭斬り!」
その言葉とともに振られたオーガの大剣は火柱を切り裂いた。
そこからぬっと出てくるオーガは楽しそうだ。
「我を閉じ込めるなんてな」
「それで終わりだと思いますか?」
「なに?」
「火よ、周りの炎を取り込み、螺旋になりて敵を撃て、ファイアートルネード」
バーバルの言葉とともに、火柱はバーバルが取り込むかのように手に集まり…
螺旋の炎がオーガに向かって飛んでいく。
ファイアータワーを吸収したファイアトルネードという魔法は、かなりの威力と勢いだ。
私のホーリーバリアでも三枚くらいないと防げないかもしれない。
そんなファイアトルネードを見ても、相手のオーガは楽しそうに笑うばかりだ。
「なるほど、この魔法も体で受ければただではすまないだろう」
「だったら、どうするの?」
「こうする!」
その言葉とともに、オーガは大剣を頭上で回す。
何をしようとしているの?
訳が分からないまま、その状況を見ているときだった。
オーガが叫ぶ!
「行くぞ!大剣技、大嵐!」
その言葉とともに、頭上の大剣を体の前に持ってくる。
大嵐、そう呼ばれた剣技によってファイアトルネードは散らされていく。
「くう」
「いいぞ、いいぞ!」
お互いに完全に相殺される。
そうなりながらも、オーガは楽しそうに笑う。
バーバルのあの魔法を完全に防ぐなんて…
驚きながらも、オーガのあの強さに魔王直属の配下ということに納得する。
まあ、そんな悠長なことは言ってられないかな。
どうするのか、考えないといけないよね…
かといって、どうすればいいのかがわからない。
ただ、そんなときだった、さらなる厄介ごとが増えるとは思っていなかった。
「勇者様?」
そんな言葉が聞こえる。
勇者が起きたところで何かがかわるというわけではないと思っていなかったはずなのに、起きた勇者は何かが違っていた。
雰囲気が、これまでの調子にのっただけの面倒くさいやつではなくなっていた。
「いやあ、久しぶりに降りてくると最高ですねえ」
「勇者様…?」
「ああ、そういえば、今の体は召喚した勇者のものでしたねえ、まあいいでしょう」
その言葉とともに、勇者からありえないくらいの魔力の高まりを感じる。
えっと、思っているあいだに勇者の体から雷が出てくる。
「雷よ、我に宿って稲妻な如き速度を与えよ、ライトニング」
その言葉ともに、雷のバチバチという音とともに勇者の姿が消える。
速い、そう感じたときには戦っていたオーガが後ろに下がっていた。
「なんだと…」
驚くオーガに対して、勇者ではない何かは言う。
「へえ、今ので倒れないんですね」
「何をいってやがる。今の程度で倒れるわけないだろうが!」
「まあ、仕方ありませんか…それなら、これでどうです?」
全身に雷を纏っていると思った勇者は、さらに魔力を高めると魔法を唱える。
「雷よ、我の武器にその力を宿せ、サンダーウエポン」
その言葉によって、雷が武器に宿る。
なんていう魔力なの…
驚いていると、勇者ではない何かは笑う。
「いい、いいですねえ。まずは手始めに死になさい!」
その言葉とともに勇者は加速する。
見えない!
オーガはこのまま倒される、そう思っていたときだった。
振り下ろされた剣を弾くものがいた。
そこにいたのは、パンツを顔に被り、ブラジャーを頭に乗せ、女性ものの靴下か何かを手に装着した、上半身が裸のヘンタイなのだった。




