92話
「勇者だと?」
急な横やりにオーガはビックリしながらも、先ほどの雷については、少し体が焦げたくらいでダメージはあまりないようだ。
ただ、勇者の登場について驚きを隠せないようではあった。
というか、俺たちも驚きだ。
なんで勇者が急に出てきたんだ?
確かに昨日の夜に改造メイドさんから勇者が近くに来ていることは聞いていたが、このタイミングで絡んでくるとは思わなかった。
というのもだ…
あの勇者って、最低のことをすることで俺の中ではかなり有名だったのにこんなに正面きってくるとはな。
それに狙うのもちゃんと敵を狙うなんて、すごいな。
【今、絶対勇者に対して酷いことを考えていたでしょ】
「(おい、心を読むなよ)」
【仕方ないでしょ…でも、確かに驚きよね】
「(そうだろう)」
【ええ、本当にね。失礼なことを考えてしまうくらいには、今までのことをただしを介して見ていると大丈夫なのかと思ってしまうわね】
「(本当にな。さすがに驚きすぎて警戒してしまうな)」
【それで、ここからどうするの?】
「(嫌な予感はするはやるしかないだろ)」
【それもそうね、頑張りなさい】
「(ああ)」
俺は嫌な予感を感じながらも、四人で固まる。
勇者と関わったことがないバーバルも大胆不敵に現れた勇者たちに驚きを隠せないようだ。
とりあえず、勇者たちが気を引いている間に俺たちは回復だな。
「大丈夫か」
「ええ、もう少しね」
「すみません」
「いや、いいタイミングで勇者たちが来てくれたからなんとかなったな」
「本当にね、嫌な予感しかしないけどね」
「アイラもそう思うか?」
「だって、あんな屑みたいな男よ」
「そうだけどな、今回は一応敵に向かって攻撃してくれてるし、さすがに言い過ぎでは?」
「いいじゃないって、よし、回復完了ね」
「ありがとうございます、アイラ様」
「いいのよ、いつも守ってもらってるしね」
「そうだな」
「ちょっと、ただしがそういうことを言わないでよ」
「へいへい」
「それで、わたくしたちはどうするんですか?」
「そうだな、まずは様子見だな」
俺たちは、一度下がることにする。
というのもだ、勇者が来たということで多少オーガは抑えられる可能性はあるが、ゴブリンたちの勢いが増しているからだ。
ベルさんの方に加勢するということも考えたが、ここまでチラッと見た感じでは俺たちは何もできない感じだ。
それほどに戦闘のスピードが速い。
俺がヘンタイスキルを使っていればついていけるかもしれないが、今のスキルが完全に切れた状況では難しい。
だからやるべきことをやるしかないということかな。
未だに全部を倒せていないゴブリンたちを倒すことにする。
「まずはゴブリンだな」
「そうね、ウィザードから倒す?」
「そうだな」
すぐに何をやりたいのかがわかったのか、アイラはそう聞いてくれる。
そして、シバルも立ち上がる。
治ってすぐだけれど、頑張ってもらうことになりそうだ。
「治ってすぐだけどいける?」
「はい、任せてください」
「まずは、わたくしが魔法を!」
「任せた」
バーバルの魔力が高まるのを感じながら、俺たちはまずウィザードに向かう。
すでに何体かは倒されているが、それでも従えていたやつがいることから数はまだ多い。
「ギャギャ」
そんな声とともに、炎が飛んでくる。
どうやって支持を出しているのかはわからないが、それでも動き出したらすぐにこちらに気づくとは…
これは面倒くさそうだ。
ただ、真正面からくる炎についてはこちらにはアイラがいる。
「任せなさい、我の前に絶対に通さない聖なる壁を作りたまえ、ホーリーバリア」
バリアに当たると、炎は霧散する。
まず、初撃は防いだ。
後は近づければ…
「って、邪魔しにくるよな」
「仕方ありませんよ、ただし」
「でも、やるしかないよな」
「ええ」
ゴブリンウィザードの前には、ゴブリンソルジャーが立ちふさがる。
それも三体。
俺たち前線のシバルと二人では枚数は足りない。
でも、前までとは違い後ろにはバーバルがいる。
「火よ、相手を焼き尽くす炎となせ、ファイアー」
ゴブリンウィザードよりも確実に威力が高い炎魔法に、感心しながらもそれは確実に一体のソルジャーに向かって飛んでいく。
ただ、威力が高いだけの炎では避けられてしまう。
「避けるなんて、ダメじゃない」
「バーバル?」
「なに、アイラ?」
「ちょっと性格変わってない?」
「そんなことないわよ、ほらどんどんいくわね、火よ、相手を焼き尽くす炎となせ、ファイアー、火よ、相手を焼き尽くす炎となせ、ファイアー、火よ、相手を焼き尽くす炎となせ、ファイアー」
性格が変わり始めたバーバルから放たれるのは、三つの炎。
さ、さすがに背中がぞわっとするな、あそこまでのドSだと…
ただ、隣のシバルは少し息が荒い。
絶対、バーバルのドSにあてられて、ドMスキルが発動してるよね。
「ギャギャ!」
三つの炎に囲まれた一体はさすがに逃げ道を絶たれて燃えてしまう。
さすがにあれだけの数の炎を前にしては逃げるところもない。
味方が隣で燃える。
そんな場面を見てしまい、取り乱している残りの二体に関しては、俺は一体を殴り飛ばし、もう一体はシバルが剣術によって斬りつける。
「聖騎士剣術、一の型、返し斬り」
スキルが発動しているからか、シバルの剣筋は前見たときよりも速い。
ただ、俺はというと…
やっぱり、倒せないよな。
武器の強さはあるが、それでもスキルがほとんど切れてしまっているせいだろう。
吹っ飛びはするが、一撃では倒せないからこそ詰める。
二撃、三撃!
なんだろうか、前回からヘンタイスキルを使う機会が減っている気がする。
それでも数撃繰り返すことで、なんとか倒せる。
「はあはあ…」
「大丈夫ですか?」
「ああ、さすがに疲れたな」
「まだまだ、ゴブリンはいますよ」
「わかってるから、嫌なんだ」
俺たちは再度ゴブリンウィザードに突っ込んで行く。
このままいけば倒せる。
そう思っていたが、背中に悪寒がする。
俺はすぐに反応すると、手でクロスしてその悪寒に向かって防御の姿勢をとる。
だが、それは完全に愚行だった。
「いい反応だがな」
「ぐう…」
俺はピンボールのように弾き飛んだ。
やべえ、忘れてた。
そう思いながらも、意識はなくなっていく。




