91話
「アイラ様、遅れました!」
「来てくれただけ嬉しいけど、ここまで人が多くなかったの?それに来るの早くない?」
「それは、ベル様がいらっしゃったからですね」
「そうそう、うちのスキルがあるからね」
「って、悠長に話している場合じゃないだろ!」
「大丈夫、うちが来たから!」
そう言葉にすると、ベルさんは目を閉じる。
どういうことだ?
というか、いろいろ状況がわからないんだが…
そう思っていたときだった、気づけばベルさんの姿が消え、そして剣を振り終わった恰好で、オーガの横に立っている。
ぶしゅっと音がして、オーガの腕に傷が入る。
「な、何が起こったんだ?」
「わからないわよ」
驚く俺とアイラとは違い、シバルたちはそれを落ち着いて見ていた。
何が起こっているのかわからないでいると、シバルが剣と盾を構える。
「すみません、説明は後です」
「そうね」
「確かにな」
俺たちは構えをとる。
それを見た、オーガたちもこちらを見て笑う。
「おいおい、やられてるじゃないか」
「ちょっと斬られただけだあ」
「だがな、あれはこの国の女王で、高速スキルというものの使い手という話しだ、やるなら二人でやれ」
「だそうだぞ」
「仕方ないなあ」
一体の明らかに大きな奴以外は戦うようだ。
一体は、先ほどから戦っていたからわかっているが、俺と同じようにナックルを使っている。
そしてもう一体は…
なるほどな。
あれは、強そうだ。
鉈と呼ばれる武器だ。
切れ味もしっかりとあるし、オーガが持っているものだからこそ、鉈はそれなりに大きい。
それに…
「モンスターでも、上位種が三体も群れるなんて…」
「はい、これは驚きですね」
「えっと、でもサキュバスは二人いましたわよ」
「あれは姉妹だっただろ?」
「えっと、なんでそのことをただしが知っているの?」
「えっと…」
ヤバい…
そういえば、ヘンタイスキルで戦っていることはまだ秘密だった。
どう言い訳をすれば…
でも、そんなときにシバルが言ってくれる。
「その話は、ボクがしましたよ」
「そうなの?」
「はい」
ナイスシバル!
そう思って、シバルの方を見ると、ウインクされた。
いや、いい笑顔だけどね。
そんなのんきなことを言っている場合じゃなくなった。
「来るわよ!」
ベルさんが大きな声で叫ぶと、シバルが前に出る。
「まずは、ボクが攻撃を受けます」
「任せるわね」
「はい!」
「ならば、攻撃を受けてみよ!」
「おいらはこっち!」
オーガの一体はベルさんに向かう。
リベンジの意味があるのだろうが、ナックルを持ったオーガはベルさんの方に向かっている。
俺たちは鉈を持ったオーガの相手だ。
オーガが振り下ろした鉈はシバルの盾によって防がれるが、シバルの体は宙に浮く。
「重い!」
「おおい、いい盾じゃないか!」
「アイラ様!」
「任せなさい、我の前に絶対に通さない聖なる壁を作りたまえ、ホーリーバリア」
その魔法で、アイラがいつものようにバリアを張る。
今回は、相手が一体のため、全体ではなく一体に対してのバリアなので、強い。
ただ、鉈でバリアはガキンと音はなったが、完全に防ぐことはできず斬られる。
「ちょ、ちょっと、そんな簡単に斬らないでよ!」
「いいバリアだが、おらの攻撃を防ぐには弱いな」
「わたくしも!火よ、相手を焼き尽くす炎となせ、ファイアー」
その言葉で、バーバルが炎魔法を飛ばす。
「ほう、いい炎魔法だが!」
「効いてない?」
「みたいねえ、でもこれならどう?火よ、相手を焼き尽くす炎となせ、ファイアー、火よ、相手を焼き尽くす炎となせ、ファイアー、火よ、相手を焼き尽くす炎となせ、ファイアー」
「三発!だと」
「ふふふ、燃えなさい!」
「この数は、こうだ!三日月斬り!」
「「「え!」」」
「すげえな」
一撃のもとに、三つの炎は消えてしまう。
その光景に感心する俺とは別に三人は驚いている。
どういうことだと思っていると、それについては鉈を持ったオーガが教えてくれる。
「なんだ?おらの剣技にビックリしているのか?」
「当たり前でしょ、どうしてモンスターが剣技なんて…」
「なんだ、使ったらまずいのか?」
「ちょっと、ただし…わからないんだから黙ってなさい」
「ええ…」
せっかく話に便乗しようと思っただけなのに、アイラに怒られる。
それを見たオーガは楽しそうに笑う。
「ガハハハッ、サキュバスと戦ったというから、わかるのではないか?」
「そういうことね…」
サキュバスのことというのは、上位種がやっていたこと、そう使えそうなものは使うというやつだ。
ということは、もしかしなくても剣技を覚えたということなのだろう。
でも、どうやって…
剣技を教えてくれる師匠でもいたというのだろうか?
でも、相手オーガだ、人が教えたとはなかなか考えにくい。
疑問に俺が思っていたのを見抜いたのだろう、オーガは鉈を肩に担ぐという。
「まあ、戦ったやつのものを見て覚えたんだ」
「どういうことなのよ」
「ふむ、察しが悪いな。そっちの騎士の女はわかるだろう?」
「敵のことで、あまりわかりたくはないのですが、騎士であるもの、戦いながら相手の剣技を盗んだということですね」
「そうだ!」
「あまりにもいい剣技だったからなあ、おらが使わせてもらってるってわけだな」
「なんてやつなのよ」
「やれるか…」
「わからないけど、やるしかないじゃない…」
「確かにな」
俺たちは後ろを見る。
そこではいまだに、街を守るための騎士や冒険者が戦っているのを見る。
俺たちよりも強い冒険者がいるかもしれないが、戦いを挑んでいるのは俺たちなのだ、ここでオーガを抑えないといけないのはわかっていた。
「やるしかないというのか」
「そうよ」
「いくぞ!」
「来ます!」
オーガがこちらに向かって攻撃を繰り出してくる。
「剣技、三日月斬り!」
「くううう…」
「大丈夫、シバル!」
「はい、ですが…」
「両手で受けてこれって…」
「ふむ、やはり剣技を使うと相手が壊れるな」
「すみません…」
「シバルが謝ることじゃないわ。我の周りを聖なる光にて癒しを与え給え、ホーリーヒール」
「回復か、させると思うのか!」
「それを俺が防がないとでも?」
ギンという音がなり、なんとか鉈を弾くが、俺は弾き飛ばされる。
やべえ、ヘンタイスキルが切れてきている。
「ふむ、防いだのは褒めてやるが、弱いな…」
「ただし!」
「大丈夫だ!」
といっても、このままじゃさらにジリ貧だ。
どうすると思っていたときだった。
雷がふってきた。
そして、男が一人と周りには女性が六人いる。
あれは…
「ほらほら、勇者パーティーが来たぞ!」
そう口にしながら、男がやってきた。
それはよく見たことがある男だ。
俺たちが大嫌いな、あのヤバい勇者だった。




