86話
くう、まさかあんなに簡単にばれるとはな…
王が絶対にばれない場所だからということで、覗きスポットを紹介されたというのに、まさかのすぐに見つかって、しかも説教を受けるなんてな。
最終的にはアイラたちにも微妙な表情をされるし…
本当に、なんだかなあ…
いいけどね。
別に俺がヘンタイだということがばれていないのならそれでな。
バレてしまった場合には、その後が怖いからな。
まずはバレないためにも必要なことだな。
結局隣の女性用のお風呂からみんなのキャッキャウフフな声を聞くこともなく終わってしまったな。
これだったら、王のことなど無視して入るべきだったか?
出たときに、珍しくシバルの頬が赤みがかっていたしな。
くう…
いらないことをしたな。
そんなことを思って部屋の窓を開けて夜風に当たっていたときだった。
【あんたの部屋に何かが来たみたいよ】
「何かってなんだよ」
【そんなこと、あたしが知ることじゃないでしょ、人全員を把握しているわけじゃないんだから】
「それもそうだな」
【それでも、顔は隠したほうがいいんじゃない?】
「ふ、仕方ない。久しぶりにあのスタイルになるか…」
俺は、服に隠してあった黒い布を頭に被る。
アイラのものであり、最初に盗んだものでそれなりに時間がたっているということもあり、あまりヘンタイ度が自分の中で高まらない。
くそ、どういうことだ…
そのことに対して、俺は地面に足をついて愕然としてしまう。
そんなときだ、誰かが開けて窓から中に入ってきた。
俺は地面に足をついたまま、そいつを見る。
月明かりにお互いが照らされた。
相手は仮面をかぶり、その仮面の後ろから艶やかな黒髪が伸びており、さらには身長もすっと高い。
まるでモデルのような背恰好だなと思ってしまった。
服は、これを何かと言われれば難しいが、簡単に表すのなら改造メイド服のようだ。
メイド服といえば、メイさんを思いだすが、メイさんは黒髪ではないので、人違いだろう。
その改造メイドは部屋に入ってくると数歩後ずさりした。
さすがに地面に突っ伏しているパンツを被ったヘンタイがいるとは思わなかったのだろう。
ただ、気を取り直すとスカートの裾を持ちあげると挨拶される。
「ご機嫌麗しい、変な被りものをしている人よ」
「ふむ、こちらこそ、よろしく」
「なぜ、突っ伏しているのかは聞きませんが…」
「そうしていただけるとありがたいです」
「それで、正直に言いますと、挨拶に来たのですが…」
「誰に?」
「ここにいると聞いていたただしというかたにです」
「ふむ、そんなやついたのかな?」
「ふふふ、そんなことを言ってもわたしの目は誤魔化せませんが…本当に面白いスキルをお持ちで」
「それで、その仮面をつけたあんたは?」
「そうですね、挨拶に来たのですから、名乗らないのは違いますよね。わたしはラグナロクのエンドと言います」
「へえ、ラグナロクね…」
「ふふふ、わたしの仲間と幾人か出会ったみたいですね」
「ああ、成り行きでな」
「まあ、あれだけ最初に殴りあっておいででしたのに!」
「あれは仕方ない。仲間に手を出されそうになってたからな」
「それは、こちらとしても選択を誤ったということになりますね」
「そうだな」
「否定はしないのですね?」
「ヘンタイに二言はないからな」
「ふふふ、おかしな人ですね」
「そりゃ、どうも」
「楽しい話を聞かせていただいたお礼に、面白いお話を一つしておきますね」
「うん?」
「あの傲慢な勇者が、この街にそろそろやってくるそうですよ」
「え?あの勇者が?」
「はい、それだけは耳にいれておきますね」
「へえへえ、それだけか?」
「はい…と、言いたいところですが、その面白いスキルをわたしも今後も見てみたい。ということで、こちらを差し上げますね」
そう言って、エンドはスカートを持ち上げる。
なにい!
何をしようというのだ。
俺は暗くてよく見えないスカートの中を懸命に見ようとしながらもその動きに注目する。
すぐに、それは俺の目の前に差し出される。
「こ、これは…」
「ええ、最近この王都で出回ってるガーターストッキングですね」
「これを、俺にくれるというのか!」
「ダメかしら?」
「そんな敵に塩をふるようなことをしていいのか?」
「ふふふ、大丈夫よ。それに手は正直ね」
「く…俺の手が、ストッキングを掴めと叫んでいる!」
「それはそれは、喜んでいただけたようで何よりです」
「ああ、温かい、温かい…これが神の恵みか!」
「ふふふ、喜んでくれたようでよかった。それでは失礼しますね」
そうエンドは言うと、すっと入って行ったドアから出ていく。
ただ、それを見ていた一人から痛烈な言葉がくる。
【何を急に変なものをもらっているのよ】
「仕方ないだろ、俺には必要なものなんだ!」
【だったら、前みたいに盗んだらいいでしょ】
「そうかもしれないが、これには人肌のぬくもりがあるんだ。こんないいものを俺は拒否できない…」
【ものすごくかっこつけて言ってるところ悪いけど、ただ可愛い子の肌に触れていたものをもらいたいとしか解釈できないわ】
「仕方ないだろ、俺だってな…本当は敵からものをもらうなんてことはされたくなかった、でもな、でもな…」
【何よ…】
「俺には拒むことができない、そうヘンタイスキルがあるから!」
【そうやって、全てをスキルのせいにしようとして、自分がヘンタイであることを否定したいってこと?】
「そうじゃない。そうじゃないんだ…俺はヘンタイではない」
【だったらなんなのよ…】
「夢見る童貞だ…」
【何、その余計にキモイ称号は…】
「なんだと、何が悪い。俺が知っている女性の裸は全てモザイクがかかっているものばかり、その下は神秘に包まれている。そこを想像し、そして触れていたであろう柔肌を感じることで強くなる…夢見る童貞戦士だ」
【だから、気持ち悪いのよ!急に変なことを言うんじゃないわよ】
「く…俺のこの気持ちがわからないとは…」
【わかりたくもないわよ。わかってほしいなら、あのケッペキスキルの子にそれで突っ込んでいきなさいよ】
「何がだ?」
【何がだ、じゃないわよ。何を手に装着しているのよ】
「これか、これは筋力増強ギブスだ!」
【ただの、さっきもらったガーターストッキングじゃない。そんな名前のアイテムだったことは一ミリもなかったはずよ】
「だがしかし、俺がこのアイテムを身に着けるとそうなるってことだな」
【何を恰好つけてるのよ】
「ふ、俺には今、力があふれているからな」
【最初はもう少し自重というものをしていたはずだけど!】
「スキルがこれなのだから、仕方あるまい」
【だからって、もういいわよ】
「ふ…とうとう神も、俺の夢見る童貞戦士、筋力増強アームの良さがわかったのか…」
【さっきと名前変わってるわよ】
「なん、だと…」
【だから、その恰好をいい加減やめなさいよ】
「仕方ないか」
俺は気づけば身に着けていた、全てのアイテムをストッキングの中へと入れた。
おお、ストッキングはカバンにもなるのか!
新しい発見だな。
【今、またおかしなことを考えなかった?】
「そんなことはない、ヘンタイ眼でも見抜けなかった秘密に気づいただけだ」
【それがおかしいことに気づきなさいよ】
「まあまあ、いいじゃないか」
【それはあたしが言うことだから】
「そうか…」
【なんで、残念そうなのよ】
「なんとなくな」
【それよりもさっきの話】
「なんだ?」
【勇者が来ているって話よ】
「なんだ?そんなことか…」
【そんなことって、いいけど。その勇者と戦うの?】
「戦うんじゃないのか、あっちが突っかかってくるだろうしな」
【そうなの?】
「そうだろ」
【だったら、ボコボコにしてよね】
「いいのか、あいつって勇者じゃないのか?」
【だって、あの勇者ってイラっとするしね】
「確かにな」
【そうでしょ、だから気にしてないわ!それにあたしが召喚したわけじゃないからね…】
「うん?何か言ったか?」
【別にー】
何か言われたが、頭に響いてきた声は、どことなく途切れていて聞き取れなかった。
まあ、そんな重要なことはないだろう。
俺はそう思いながらも、いそいそと眠りについたのだった。




