84話
「風呂か…」
【覗くのね!】
「いや、覗かないからな」
「覗かないのか?」
「え、それは、だって…」
「なんだ?僕も若いころに、お母さんであるベルの裸を見たくて、幾度となく覗きをやったもんだぞ」
「そうなんですね」
「だから、行くか!」
そう言ってハハハと豪快にタリスさんは笑う。
うん、大丈夫なのだろうか?
ただ、久しぶりにゆっくり入れるであろう、お風呂に心躍らせていただけというのに、自称神からの覗くのかという当たり前に言われることに対して、ツッコミをいれたところをどうやら王様であるタリスさんに聞かれたという状況から…
なんで、そんなに乗り気なんだよ。
「ほら、行くぞ」
「は、はい」
俺はそれでいいのかと頭を抱えながらも、ついていかないという選択肢もなくて、後ろをついていく。
確かに、覗きは男のロマンなどという人もいるだろう。
そんなことはないということだけは言っておく。
一歩後ろを歩いていると、タリスさんに肩を組まれる。
「えっと」
「いやー、さっきから後ろからついてくるからな。これから覗きする僕たちは戦友になるわけだろう」
「それはそうですね」
「だから、隣を歩いてもらわないと困るな」
「そうですか…」
「そうだ」
楽しそうに笑っているところ、本当に申し訳ないのだが、さすがに男二人で覗きなんて…
「絶対見つからないためのスポットを、僕は事前に作っておいた」
「行きましょう」
「よし!」
「はい!」
そう、見つからないことが確定事項というのであれば、話は別というものだ。
俺も覗きはしたい。
俺たち二人は、手を固く握ったのだった。
「どうして、こうなった?」
「仕方なかろう。こうでもしないと見つかってしまうのでな」
「そうですよね」
俺たち二人は今、屋根上に立っていた。
どうしてこうなってるんだと言いたいが…
まあ、お風呂には簡単にいえば、熱気や換気を行うために出窓などがついていることが多々あるが、それが屋根上とはな。
上から見るというのは、ばれる心配はないのか?
否…
これは俺たちが上に立つことで、月明かりで影になった俺たちの姿が上から見えてしまうことを考えないといけない。
俺は王に耳打ちをする。
「王よ、このままでは月明かりで影が見えてしまうのでは?」
「なに?僕はいつも見ているけど、何も言われないよ」
「それはもしかして王妃様の裸だからでは?」
「は!確かに、いまだにどこか悪い気がするのと、まずはベルから見つからなければ、他のやつにも見つかることはないと思い、まずはベルに見つからないようにと思ってしまっていた」
「はい、もしかすると、王妃様は気づいていたのかもしれません」
「なるほどな、それで僕のことを泳がせていたと…」
「そういうことになりますね」
「そうか…よく気が付いてくれた」
「いえ、このようなこと当たり前です」
「それでは、どうすれば見つからないと思う?」
「そうですね。こちらを使います」
「なるほど」
俺はそう言って、一つのものを取り出した。
それは、鏡だ。
これを使うことで安全に覗くことができるのだ。
というのもだ。
よく考えてほしい。
普通に覗くときに、なぜみんなはあんなにもどうどうと覗くのだろうか?
結果として、見つかれば、そこに向かってものを投げられたりして終わりなのだ。
でも、鏡は違う。
確かに自分で見る位置を気軽に変えられない部分はあるので、相手が映る位置に来てくれないとどうしようもないという点はあるだろう。
ただ、見つかったときのリスクを考えてほしい。
もし、見つかっても、俺たちが設置した証拠などはなくせば問題ないし、ものが飛んできたとしても鏡に当たるだけで俺たちには被害もない。
これは特殊部隊でも行われていることと、昔映画で見たことがある。
よし…
俺はゆっくりと窓から下が見える位置へと鏡をセットする。
王がグーサインを出したところで、俺たちは元の位置へと戻る。
後は、来るのを待つだけだ。
そう思っていたときだった。
何かが肩に触れる。
「すみません、王よ」
「うん?どうしたんだ?」
「あれ?」
「うん?」
最初は王が触った、もしくは当たったものだと思ったが、どうやらそうではなかったらしい。
俺は、ゆっくりと振り返るとそこには手が…
「ただしさん、お父さん。お話ししましょうか?」
「くう、見つかりました、逃げますよ、王よ」
「ダメだ。メイに見つかってしまえば、終わりだ」
「そんなことは、諦めちゃダメですよ」
「それは、だがしかし…」
「俺は諦めません」
「ただしくん、どうしてそこまで…」
「そう、覗きは男のロマンではなくて、生き様ですから!」
「ふ、そうだな!」
「「うおおおおおおお」」
「ふべ…」
「ぼひゅ…」
そうして、俺たちはメイド服を着たメイさんに簡単に投げ飛ばされると、紐で縛られて、その場を後にしたのだった。
もう少しだったのにとは、さすがに言えなかったが…
これも覗く上での宿命なのだと、納得することにしたのだった。




