77話
「では、改めて、王たちの自己紹介を…」
「僕がこの国の国王であるタリス・リベルタスです」
「そして、うちが女王のベル・リベルタスよ」
「あとはメイド服を着ているのが…」
「先ほども自己紹介しました、メイ・リベルタスになりますね」
「それでは、レメのお友達の方々もお名前をお伺いしてもよろしいかな?」
「はい、それでは俺から。俺の名前はただしと言います」
「私はアイラです」
「ボクはシバルと申します」
「わたくしは、バーバルと言います」
「なるほど、ただしにアイラ、シバルにバーバルと申すのだな」
そういう国王は、先ほどまでとは違い威厳に満ちていた。
さっきまではとは別人だと思ってしまうくらいには…
それに先ほどまで、気を失っていた少し小太りの男も現在は目を覚ましていた。
小太りの男は、この国の宰相ということらしい。
必死に汗を拭きながらも、せかせかと動いているので、なんだろう大変そうだ。
あの少し太っているのも、ストレスのせいなのかもしれないと思ってしまうほどだ。
そうして、自己紹介が終わった俺たちは、円を組むように王の間中央に座っていた。
どうしてこういう状況になったのかというのは、簡単にいえばレメがどのような冒険をしてきたのかを教えてほしいということだったからだ。
だからといって、王や王女が玉座と呼ばれる場所ではなくて、地面に座っていることが違和感しかないが…
というかお姉さんも加わるのね…
「それで、どういうことが起こったの?」
「そうですね。俺たちがレメたちと出会ったのは、アクアという町で…」
そんな感じで、俺たちは話をした。
アクアという町で起きたこと…
そして、最後にピエロと名乗る、男と出会ったこと、その人をレメが兄と呼んでいたということをだ。
それを聞いて、国王たち三人は神妙な面持ちになってしまう。
「そうか、あいつがな…」
「こうなるということは、わかっていましたけれどね」
「それでも、関わってしまったこの人たちにはちゃんと教えないといけないんじゃないの?」
「そうだな(ですね)」
王と王女が顔を見合わせると、手を上にやる。
そこに慌てて宰相が書類をもって現れた。
い、今の合図で必要な書類をもってこないといけないとは…
これは俺が働いていた職場よりもあきらかにブラックだな。
そんな、関係のないことを考えながらも、いつものように読むことができない書類を手に取る。
これは、本格的に文字を読めないといけない状況になってきそうだな。
最近だって、捕まることもあったんだし…
あたらめて、そんなことを決意しながらも、書類には何が書かれているのかは、理解したアイラが声をあげる。
「あんなことをしておいて、レジスタンスですって?」
「そう、書かれていますね」
「うーん、わたくしにはよくわかりませんね」
「そりゃ、バーバルはこのときは仲間じゃなかったもんね」
「そうですね」
「って、この話しって前にもしなかったっけ?」
「わたくしは覚えていませんね」
「まあまあ、ボクたちがただしとパーティーを組んだ後のことを少し説明しましょうか」
「そうね。シバルお願い」
「はい、わかりました」
そうして、いつものようにアイラに言われて、シバルが説明をしてくれる。
まあ、ヘンタイ男が助けたというところの話はなかったが、それ以外に関しては話をしたようだ。
その話のときに知ったが、どうやらピエロやあの侍もどうやら正義騎士と仲間だったらしい。
あの黒い穴でどこかに去ったようだ。
バーバルの魔法が強すぎたせいで、眠っていた俺は、その現場を見ていなかったがどうやらそういうことらしい。
っていうか、そういう重要なところは早めに教えてほしかったけどな。
全ての話が終わった後で、俺たちはふむとみんなで頭を悩ませた。
「結局、アクアの町でレジスタンスと呼ばれる人たちは何がしたかったんだ?」
「そうですね。私たちが聞いた限りでは、あの領主が何かを使って水龍を復活させようとしていたのを…見届けていましたね」
「それで?」
「はい、一応協力してという形にはなりますが、俺たちとともに水龍を眠りにつかせたところで去って行ったみたいですね」
「でも、最初に会ったときは何かを求めてなかったっけ?」
「そうですね。ボクたちがもっていたもの…確か、ただしが拾ったものでしたね」
「魔法石と呼ばれたものではありませんか?」
「それね」
「なんですと!」
「どうかしたんですか?」
急に声を荒げた王に対して、少し引きながらも俺たちは聞く。
すると、神妙な面持ちで王は指を鳴らすと、また書類がやってきた。
それを見るが…
うん、読めないな。
ただ、それを見て、理解できないのは俺だけではなかった。
シバルとアイラも首をかしげている。
それに対してバーバルだけは真剣に読むと、谷間から書類を取り出すと比較する。
あっさりと谷間から出しすぎて、新手の収納魔法なのかと勘違いするところだったが、すぐにバーバルはうなずくと、話を始める。
「もしかしてと思いまして、ただしが領主の館で見つけたという、魔法石の取り扱いについての説明が書かれたものがありまして、やはりというべきなのでしょうね。ほとんど同じ内容が書かれていました」
「そうか…やはり魔法石を求めているということなのか…」
「どういうことなんですか?」
「魔法石には、魔法を取り込むことができるというのは、知っての通りだと思うが…その魔法石を使ってあることをしようとしていると聞いたのだ」
「それはいったい…」
「意味はわからないが、ラグナロクを起こすという話しだ」
王の言葉に俺は考えていた。
ラグナロク。
俺たちの世界では終末の日なんて言われていた言葉だ。
それを起こそうとしているのだろうか?
でも、そこで疑問だ。
モンスターがいることから、この世界は魔王とかがいるものだと思っていたが、そんな魔王に滅ぼされることで終末を迎えるんじゃないのか?
それに魔法石だけで、そんなものが起こせるというのだろうか?
ふーむ、疑問が頭に浮かぶだけで、結論はほとんどでないな。
後で自称神に内容を聞いてみるか…
俺は、そんなことを考えながらもその後についての話を適当に聞き流して、王の間から出ることになった。
「なかなかもらったわね」
「はい、アイラ様」
「まずはどうするのですか?」
「宿を決めようぜ」
俺たちは王の間から出る際に、それなりのお金を報酬として受け取っていた。
そういえば、俺たちはリベルタスに向かうついでにレメの護衛依頼をこなしていたことをお金をもらってようやく思い出すくらいには、忘れていた。
いろんなことがありすぎたから仕方ないよな。
でも、そうなると気になるところが、いくつかあるが…
レメがどこにいるのかわからないし、聞くなら後でだな。
それに、ようやくゆっくりできそうなんだ。
今日くらいは遊んでも罰は当たらないだろう。
そうして、俺たちはある程度歩かされて、大きな屋敷までやってくると、そこでメイさんとは別れた。
「ここの屋敷は、わたしたちが専用で使っているものになります。なので、もし嫌でなければ使ってください」
「あ、ありがとうございます」
「いえ、それでは楽しんできてください」
俺が先ほど、最初に選ぶのは宿だという発言を聞いたのだろう、大きな屋敷から王城に戻る際に、そんなことを言われたので、一応お礼を言っておく。
というか、この最初に入らされた大きな屋敷って、王城と繋がっていたんだな。
行くときは緊張しすぎていたから気づかなかったな。
今更ながらにそんなことを考える。
こうして俺たちは屋敷から出ると、ようやくリベルタスの街へと足を踏み入れたのだった。