72話
「それじゃ、説明を手短にお願いしようかな?」
「ふーん、あんな風に仲間を戦わせて、あんたは戦わないのね?」
「ヒメ…お前が言うのか?」
「…」
「そうですよ。こちらとしても、戦ってもらってどれくらいの強さなのかを知るのは、いいのですがね」
「だそうだ、ヒメもあいつらを助けてやってくれないか?」
「嫌よ。ヒメにだってやるべきことが…」
「ふーむ、だからお前はこちらに対して何もできないというのが、わからないのですかあ?」
「なんですって!」
そんな会話のタイミングで、水龍がブレスを放つ。
アイラのバリアと、バリアにバーバルの風の魔法を纏わせることによって、風の流れを生んだそれは、俺の予想通りの動きをした。
角度をしっかりと調整した、ブレスはこちらに向かって飛んでくる。
「なんじゃと」
「おい」
「ちい、年寄りにあまり頑張らせるな。ふん!」
その言葉とともに、侍のおっさんが放つ斬撃が、ブレスを斬る。
ブレスといっても、長時間放つものというわけではなく、魔力を纏った水の球を放ったからだろう、それは斬られる。
「おいおい、完全にワシらに向かって飛んできたのは…」
「ま、さっさと教えてくれないから、ちょっと計算をしてな」
「くくく、なるほど、君は優秀なんですねえ?」
「いや、知らんけど。さっさと、今の状況を説明してくれ」
「くくく、わかりましたよ。せっかちなのはいただけませんが、このままこちらにブレスを全て飛ばされても困りますからねえ」
「よし、それじゃお願いする」
「では、手短にさせていただきますよ。こちらは水龍を目覚めさせることで、さらなる水を得て、商売に生かすことにするという領主の話を聞きました。水龍というものは、五十年に一度、目覚めてこのあたりに厄災を起こすドラゴン種ではあるのですが、現在はそれが起きて、まだ三十年というときしかたっておりませんでした。なので、とあるものを使って起こすことにしたのです」
「それが、魔法石ってことか?」
「ええ、やはりわかっていましたか、その魔法石を使うことで、水龍が眠っているところを無理やり起こそうとしたのです」
「なるほどな、そして、それが成功したと…」
「ええ、ですが、それをしたのは、実はそちらの修道女のかたたちでして」
「うん?どういうことだ?」
「知らないわよ!」
「ふん!」
声が聞こえていたのだろう、アイラからそんな声が聞こえながらも、次にきたブレスを同じように弾き、また侍のおっさんが斬る。
そんなことが続きながら、会話は続く。
「おい、知らないって言ってるぞ」
「まあ、あれは事故みたいなものですからねえ」
「も、もしかして、ボクたちがここに来るときに弾き飛ばした人って」
「くくく、そうですねえ…それがわかるとは」
「どういうことだ?」
「すみません、ただし。ボクたちがここに来るときに、ただしたちが使ったようにバリアの上を、ボクの盾で滑ってきたのです」
「ああ」
「そして、着地のときに勢いを殺しきれずに何かにぶつかったのですが…」
「な、なるほど、それは…」
なんとなく理解した。
ということは、その魔法石を持った領主なのかはわからないが、その男にぶつかってしまい、湖に落ちた男のせいで水龍が復活したと…
なるほどなあ…
「いや、それじゃあ悪いの俺たちじゃねえかよ」
「仕方ないでしょ、あんなところにいたやつが悪いのよ」
「すみません」
二人のそんな言葉を聞きながらも、三度目のブレスをアイラたちはなんとか弾くが、それは明後日の方向に飛んで行った。
まあ、近くに人がいるわけではないので、いいとしても、このままというわけにはいかない。
俺はしょうがないとため息をつく。
「ここは、しょうがねえ。なんとかするか」
「何か手があるというのですかあ?」
「ああ、あるな。ということで、ヒメ。あれをくれ」
「何をよ」
「魔法石だよ」
「「!」」
「はい」
「ありがとう」
驚いている、男二人をよそに、俺はヒメから魔法石を受け取った。
これで準備は整った。
後は、全員に動いてもらうだけだ。
「それじゃ、ピエロ。お前らにも協力してもらうからな?」
「くくく、敵であるこちらが手伝うとでも?」
「手伝うだろ、だって何もしないのなら、ここにずっととどまる理由もないからな」
「ガハハハッ、おい、ピエロ言われておるぞ」
「くくく、そうですねえ。このまま放置するということもこちらはできませんし、協力することにしましょう。それで?何か打つ手はありますか?」
「もちろんだ!」
俺は力強く答えていた。
というのもだ。
実は、水龍についての調査報告書というのを読んだ。
まあ、あれは運よくそこにあったというべきだろう。
上の服を探していたときに、偶然あったもの、それが書類だった。
そこには水龍被害についての報告が書かれていた。
おもに、水による津波のようなものを起こすと、それにのみこまれた人と、家畜などを全て食べる。
それは、自分が満たされるまで続けるというものだ。
はい、ここで思い出してほしい。
俺たち数人を食べたところで、水龍が満足するとは思えない。
今のところはアイラのバリアで防げてはいるし、無理やり起こされたからか、あまりにも動きが鈍い。
そして、そして…
バーバルには、俺が見つけたもう一つのものを渡している。
「バーバル!」
「はい、任せてください」
俺はバーバルに魔法石を投げる。
それをなんとかキャッチすると、胸元から書類をだし、何かをぶつぶつと魔法石に向かって唱えている。
魔法石についてはバーバルに任せればいいだろう。
後はピエロに、あれを使ってもらうだけだ。
「おい、ピエロ」
「どうしましたか?」
「あれを呼べるのか?」
「呼べると言われましても、何かがわからないのですから、難しいと思いますよ」
「はあ?とぼけるなよ。わかってるだろ?」
「ふう、気づいてしまったのなら仕方ありませんか」
ピエロはそう言うと、あの笛を取り出す。
そう、資料を見たときに気づいていた。
あの水龍は基本的に、起きるたびに必要になっているのは贄…
簡単に言えば、食事をするために起きているのだ。
後は、湖の中で生活しているのか、寝ているのかは正直なところわからないが、そんな感じなのだ。
だから、今回も無理やりに湖から引きずり出した形にはなるので、さっさとお腹いっぱいになって、湖に帰ってもらうことにすれば完璧だった。
そこで登場するのが、あのピエロが使っていた笛になるということだ。
おかしいと思っていたのだ、あれだけの…
名前を忘れたので牛としておこう。
その牛を笛で使役できるのだとしても、必要なのかと…
最初は確かに、ああやって戦闘で使うためなのではと思っていたが、実際のところ笛の効果がどういうものなのかがわからないとはいえ、俺ならできるならモンスターを使役でもして、戦わせるだろう。
だって、そうすればあのときのカエルや、ゴブリンといった武器を使うやつらまで使役できるのだから、そっちのほうが使役することができれば強いことは確実だからな。
というか、俺ならそうする。
まあ、早い話。
今回は、最初からもしものために用意していたのが、あの牛なのだろう。
だから、ここに連れてきてもらうだけだ。
ピエロが笛を吹く。
すると、どこからともなく牛たちがやってきた。
「た、ただし、ランページタウルスだっけ、そいつらを連れてこさせて、どうするつもりなのよ」
「そうですよ。敵になんてものを連れてこさせているんですか!」
「まあまあ、嬢ちゃんたちはあの男を信じてやってくれ」
「そうですよ。まあこちらの見た目は確かにうさん臭いとは思いますがねえ。あの男がやろうとしていることは正しいですからねえ」
そうして、やってきた牛たちはそのまま湖に突進をしていった。
その光景を構えることも忘れて、ぽかんとした表情で、アイラとシバルは見ていた。
水龍も、食料があちらからきたのだから、アイラたちに向けていた攻撃をやめて、牛たちを湖へと連れ込む。
これで、戦闘というものは落ち着いただろう。
後は、バーバルの魔法石を待つのみだ。
全ての属性が使えるバーバルだからこそ、その魔法が使えるのかどうかを先に確認しておいた。
少し誇らしげに、任せて!
と言っていたので、大丈夫だろう。
後は俺もできることをやろう。
といっても、できることは限られている。
俺にできることといえば、この体だけだ。
人が相手じゃないから、俺もこれを使えるしな。
拳にしっかりとナックルを装着する。
流れとしてはこうだ。
しっかりとお腹いっぱいにしたうえで、バーバルが魔法石に眠り魔法である、スリーピーウィンドと呼ばれる魔法を使えるようにして、それで眠らせるというものだ。
そのためにも必要なことは、湖の上で食事に夢中になった水龍に近づく方法だ。
さすがに、アイラの魔法でバリアを作り、強引に湖の上を走って近づくということもできる。
でも、アイラは魔法を水龍にかなり見せてしまっているし、ああいうドラゴン種というものは頭もそれなりにいいということは物語でよくある話だ。
できるかはわからない、けどやるか!
気力。
前回のことで、少しばかり思い出した、俺が元の世界で子供のころから使っていた技。
いつの間にか、使えるということすら忘れていたけれど、確かにあった力だ。
その感覚は、前の戦いで確実に感じたしな。
難しいことは、足に気力を集めることだろう。
集中だ。
気力の発動には、まず認識を変えることが大事だ。
そこにあるということを認識するということと、後はよくあるお腹にある丹田だか?
いや、違うな。
確か心臓を動かすことでも、力というものが湧いてくるはず。
心臓が鼓動するように、体にある気力というものを血のめぐりのように送る。
まずは全身に…
めぐってきて、体が軽く感じたら、それを足の裏に集まるように、力だけを送る。
ドクン、ドクンと音がうるさいくらいに鳴ったあと、俺は目を開けた。
見た目の変化は確かにない。
でも、いけるはずだ。
「ただし、できたましたわよ」
「おっけい。それじゃ、それを俺に!」
「はい!」
俺はバーバルから魔法石を受け取った。
そして、湖の上へと足を踏み出す。
「ただし⁈」
驚くアイラをよそに、俺は湖の上に立った。
なんとか行けそうだな。
「ただし、頑張ってください」
「ああ、任せろシバル。それじゃ、後はバーバル任せた!」
「はい」
「後で回復魔法をかけてくれ、アイラ」
「しょうがないわね」
俺は湖の上を走った。
魔法石を水龍にぶつけることで、この戦いは終わる。
そうなのだ。
魔法石には、魔力を流さないと魔法を使えないという欠点はあるものの、魔法石に魔法が収納されていれば、その魔法を魔力が関係なく魔法石に魔法を収納した人の威力で使えるものだった。
でも、そこでおかしいところがあることは俺が最初のときにわかっていた。
それは、書類を見たところでわかっていた。
というのもだ。
俺は魔法使いになれない。
ヘンタイスキルを持っているからという理由ではない。
それには、魔力がないというのが関係している。
でも、それならどうして、俺がこの魔法石を持っていたときにサーチが発動していて、俺の元に最初黒服の男たちが来ていたのだろうか?
答えは簡単だった。
魔法石に魔力をぶつけることで、魔法石にある魔法を強制的に発動することができる。
まあ、それは魔法石に魔法を収納した人間じゃないといけないという条件があるが、そんなことができるということがわかれば、後は俺が水龍に近づいて魔法石をぶつけることができさえすればバーバルの魔力で魔法を発動させる。
後は、お腹いっぱいになった水龍が魔法で寝るのを待つだけというものだろう。
音もなく、湖の上を走る。
俺は近くまで行って、ジャンプ。
「いっけー」
俺は魔法石を投げた。
すぐに魔力を感じる。
魔法が発動したのはわかった。
けど…
「バーバル。魔法の威力強す…」
スリーピーウィンドに巻き込まれた俺は意識が遠のいた。




