68話
町に入った私たちは、すぐにその人たちを見た。
「ねえ、もしかして…」
「はい。嫌な予感がします」
「ごめん、ヒメは行かないと…」
すぐにヒメが、それを追いかけるために行動するのを、私はどうするべきかと思いながらも見ていた。
このままでは一人で行ってしまう。
でも、さすがにただしを助けないことには…
「わたくしが、ただしさんのもとに行きます」
迷っている私に、そう力強く言ったのはバーバルだった。
この中では確かに一番運動能力が低いのは、バーバルで、尚且つ目立たないのもバーバルだった。
そんなバーバルからの言葉に、私は一瞬戸惑った。
ほんの数日前までは、捕えられていたこともあって、あまり強く言ってくることもなかったといのに、今では私たちを行かせるために、声をかけている。
「えっと…」
「バーバルさん。行けますか?」
「シバル?」
「ボクはアイラ様と離れるわけにはいきませんから」
「それはそうだけど」
「はい、わたくしに任せてください」
力強くバーバルは言うと、その場を離れる。
私は慌ててシバルの方を見る。
「ここは、バーバルさんに任せるべきです」
「そうね。私は優秀な魔法使いを仲間にしたってことね」
「ええ、それも全部ただしに出会ってからですけどね」
「本当にね、ただしには早く合流してもらわないと、困るわね」
「はい!」
「それじゃ、一人でさっさと行ったヒメと依頼を完了させて、ヒメの秘密を教えてもらうわよ」
「はい!」
私たちは、ヒメを追いかけた。
それにしても、あのときのピエロがいるなんて…
何か訳アリなのはわかるけど、あんなにすぐに行くなんて、もう少し周りを見てほしいし、信じてほしいな。
ま、私も人のことは言えないけど…
でも、結局あのピエロたちがいるってことは、行く場所は決まってるのよね。
どうせ、湖ね。
夜の湖って、何か出そうで怖いけど行くしかないってことね。
私とシバルは、ヒメを追いかけるべく走り出した。
「さすがに速いわね」
「はい、ですが急げば間に合います」
「そうね」
かといって、このままでは間に合わないのはわかっていた。
こういうときに、ただしならどうするんだろう?
記憶をなくしているからか、いろいろ突拍子もないようなアイディアをだしてくれるから、こんなときでも何か思いついたりするのかな…
こういうときに必要なのって、あれだよね、まずは私たちに今何ができるのかを考えないとね。
私が今のところ使えるの修道女魔法は、ホーリーバリアとホーリーヒールの二つ。
シバルは魔法剣と、聖騎士剣術を使える。
けど、どちらも移動が速くなる魔法やスキルを使えるってわけじゃないよね。
うーん…
湖には少しずつ下に降りた位置にあるっていうことは…
あんなのって使えるわけないよね?
普通に考えれば修道女魔法で使える、防御系の魔法。
でも、もしかすれば…
「ねえ、シバル!」
「なんでしょうか、アイラ様」
「ちょっと試してみたいことをやっていい?」
「はい、ボクはアイラ様についていきますから!」
「オッケー!」
まずはイメージ。
魔法を使うには、どういった魔法になるのかのイメージが大事。
そう、イメージは確かに壁。
でも、今回は私たちを守るものじゃなくて、道になるように!
「我の前に絶対に通さない聖なる壁を作りたまえ、ホーリーバリア」
その力強い言葉は、バリアを作る。
それも地面に!
「シバル!」
「はい!」
「乗るわよ!」
「わかりました」
初めてのことで、普通なら考えもしないこと、でも、魔法や剣術、拳だって防ぐこともできたのだから、私やシバルが乗ったところで壊れない。
後は、いっけー!
「ふべ…」
「大丈夫ですか、アイラ様?」
「ご、ごめんね。うまくいかなかったね」
「いえ、これを見て、ボクもいつもいいことを思いつきましたから」
シバルはそう言ってくれるが、これはあきらかに失敗だった。
確かに、地面にバリアを張る。
ということはできたけど、それだけ…
うまくいかないことに、少し落ち込んでいると、シバルは盾をバリアの上に置く。
「アイラ様、失礼します!」
そして、そんな言葉とともに、私のことを小脇に抱くと、盾に飛び乗った。
飛び乗ることによる勢いで前に進んでいく。
「すごいすごい!」
「はい、これは!」
二人で、先ほどよりも速く移動できることと、楽なことに喜んでいたけれど、それはすぐに慌てたものに変わる。
だんだんとスピードが上がってきたのだ。
「ちょ、ちょっと速くない?」
「す、すみません、アイラ様」
「どうしたの、シバル?」
「止め方がわかりません!」
「ほ、ほんとに?」
「はい」
「シバルのバカーーー」
そんな言葉とともに、私たちは湖に向かって滑り落ちて行ったのだった。
バンという音が鳴ったと思うと、私たちは湖の上に落ちるわけではなく、人とぶつかっていた。
「領主様――」
そんな声が聞こえたような気がしたような…
わからないけれど、何かが起こったようだ。
「イタタタタ…」
「はい、無茶をしました」
「本当にね」
「はい…」
「それで、これはどういう状況だと思う?」
「アイラ様。ボクたちは、今きたばかりなのですから、わかりませんよ」
「確かにね…」
とりあえず、視線が私たちに集まっていることだけはわかるかな。
そう思いながらも、この状況をなんとかしなければと思った私は、知っている人に声をかけたのだった。




