57話
相対する黒服の男たちの人数は十人。
人数差ではこちらがあきらかに負けているとはいえ、パーティーメンバーが優秀なので、今のところはなんとかなるだろうと思ってしまう。
そんなことを考えていると、黒服の一人が前に出てきて言う。
「おい、そこにいる女をこちらに渡せ」
「それは無理かな」
「どうしてだ?」
「俺たちは護衛の依頼をこいつから受けているからな」
「護衛の依頼だと?」
「ああ、ギルドに確認でもしてみればいい」
「なんだと、こちらはこのアクアの町をまとめる領主様からの命令だぞ」
「だったら、先にギルドに確認してから来ればいいことだろ?」
「ちっ…」
男は舌打ちをすると、何かを取り出した。
腕輪かな?
疑問に思っていると、それに話かける。
「領主様。ギルドに依頼を行っているから引けと言っているようですが」
[ああ?そんなこと、別にこちらでいくらでももみ消せる]
「では…」
[そうだ。とりあえずはその女を連れてこい。そして石の在り方を吐かせるのだ]
「わかりました!」
なるほど、あれは通話できる腕輪なのか…
でも、会話があれだけ周りに丸聞こえで大丈夫なのか?
そんな俺の疑問に答えるように、男はしゃべりだす。
「ふ、聞かれても別にいいことだ。だって我々のこの会話もすぐに聞かなかったことにできるんだからな」
そして構えをとる。
「おい、あの女以外は殺してしまっても構わない、やれ!」
『は!』
その言葉とともに黒服に包まれた集団は武器を構えた。
俺たちも同じように武器を構える。
アイラは金属の棍棒を、シバルは剣と盾を、バーバルは杖をだし、ヒメは二刀の短刀を…
そして俺はストッキングを手にもっていた。
「ちょっちょっと…」
「どうした?」
「どうしたじゃないわよ、何よその武器は!」
「いや、こう見えてもちゃんとした武器なんだが…」
「ふざけてるの?」
【そーだ、そーだ、ふざけるな!】
すぐに仲間?になったはずのヒメに怒られるが、頭の中でもそんな声が響いてきて、俺は思わず声を荒げる。
「いや、ふざけてねえからな!」
「じゃあ、どうしてそんなふざけたものを持っているのよ」
「そうよ、ただし、あなたメリケンサック持ってるじゃない」
【そうだ、そうだ】
でもまさかのアイラにもそう言われる。
メリケンサックは確かに強い武器だ。
でもあれは、一体の敵と戦うときに使うものだし、攻撃力が高すぎるから人相手に使いたくないというのが、正直なところだった。
前回戦った騎士のときも俺だとバレるとまずいので、使っていなかったしな。
サキュバスのときには使っていたが、あれは隠すために実は布を巻いていたのでセーフだ。
でもそのとき戦ったのもサキュバスであって人ではなかったし、相手が強いことはわかっていたから、最初から使わないといけない相手だったということもある。
相手の実力を測れないうちは対人で使うのは危ないのだ。
そういう事情から今は武器としてストッキングを手に持っている。
確かに、周りから見ればふざけているのかもしれない。
実際に、この状況を知らない人から見られていれば、ただのおかしな人だ。
でも俺にはヘンタイスキルがある。
これがある限り、ヘンタイと認識される武器を使うのが強いから使っているというのに…
というか、自称神はそんな俺のことをわかっているはずなのに、煽ってくるあたり、完全に楽しんでやがるな。
くそ、やりたくないが仕方ない。
俺は一歩前に出た。
「ただしって言ったわね。そんな武器で戦えるはずないでしょ、なんで前に出るの?」
「ま、本当に戦えないのか見てもらおうと思ってな」
そして前に走り出した。
一番近い男を気絶させる!
こうなったら、俺が新しく体得した技を見せるしかないと思ったのだ。
「なんだ?ふざけた恰好のやつがきたぞ!」
「おい、そんなのにやられるなよ!」
「わかってる」
そんなことを言いながらも、相手は武器を構えている。
そして俺はそいつと交錯する。
倒れる相手…
驚愕する周り。
俺は思っていた。
普通に戦えるようになりたいと…
「どうなっている!」
【本当に、どうしてそうなったのよ…】
「(ヘンタイスキルが強化されたというか、前回目にブラジャーをつけることで、魔力の流れを見ることができるようになっただろ?)」
【え?そんなことがあったの?】
「(うん?確実に大活躍していたのになかったことになっているのか?)」
【だって、あまりにもヘンタイ過ぎて、見ていられなくて…】
「(このスキルを与えたのはお前じゃないのか?)」
【転生させたのはあたしだけど、スキルはその世界に行ったときに勝手にその人にあったものが選ばれただけだから、あたしのせいじゃないわよ】
「(そうなのか?って、そんなことはどうだっていい)」
【あんたから、聞いてきたんでしょ】
「(そうだけどな。まあ、そのときに俺は違うことにも目覚めていたんだ)」
【どうせ、変なことでしょうけど、一応聞いてあげるわ】
「(それはヘンタイとして、認識できる道具を扱うことができるというものだ)」
【そうなんだ…】
「(な、何か呆れてないか?)」
【あれだけ、俺はヘンタイじゃないんだと言いながらも、しっかりとヘンタイスキルを使いこなしてるんだって思うと、言われているあたしがかわいそうだと思わないのかしら?】
「(いや、別にヘンタイになりたいわけじゃない。)」
【じゃあ、どうなりたいのよ】
「(わからないけどな、それでもこの武器が強いんだよ)」
【それで、この状況をどうするの?】
「(本当にな…)」
俺は自称神と会話を終わり、現実に目を向けた。
静まりかえっている現状で、ようやくというべきか一番前の男が口を開いた。
「何が起こったというんだ…」
「わかりません。どうしてあんなふざけた武器があのような動きをするなんて…」
驚くのも無理はない。
ストッキングは履くものであり、普通であれば武器になったり被るものではないからだ。
でも実際には武器となる。
それは、俺がヘンタイスキルによってこのストッキングに何ができるのかを把握したためだ。
石をいれれば投擲ができ、被ることでヘンタイになり、縛ることで拘束具ともなる。
そんなストッキングの特徴は収縮性があるということだ。
だからこそ、近づいた俺は右手を前にだし、左手でストッキングを引っ張り、まさしく弓のように持った。
後は左手を離し、ゴムパッチンのように勢いが増したストッキングをさらに右手のスナップを生かして、速度を増すと向かってきた敵の顔にぶち当てたということだ。
予想外の攻撃とそして、その速さに、さすがの相手も防御することもできずに、顔面に直撃し昏倒したというものだ。
相手が油断していたということもあるが、それでも一撃で昏倒させたということから、周りが動揺したのも無理はなかった。
武器ではないようなものを武器として扱い、速攻で一人を昏倒させたことから、先ほどまで威勢のよかった相手もかなり戸惑っている。
すると、その気配を察したのか、黒服の男は武器を収める。
「不足の事態すぎる、ここは一度引くぞ」
『わかりました』
その言葉を最後に黒服の男は昏倒した一人を担ぎ撤退していった。
これにて一件落着。
そう思ったところで全員が武器をしまった。
俺もいそいそとストッキングを直していると、アイラにはぎとられた。
そんな…
俺は嘆きそうになりながらも、後いくつのストッキングがあったのだろうかと考えたのだった。