55話
「それで、これはどういう状況なんだ?」
「こういう依頼があったんだからついでに受けるくらいいいでしょ」
「まじかよ」
急に何を言っているのかというと、俺の意見とは関係なく、依頼を受けていたのだ。
それにはさすがの俺も、そう言葉にするしかない。
だって急にだよ。
それがわかってるなら、俺だってボーっと公園の椅子に座ってないよ。
というか、俺に何も相談しないのなら、別にパーティーリーダーじゃなくてもいいんじゃないのかと思った俺はひねくれているだろうか…
受けてしまったものは仕方ないか、まずは内容を聞いてからだな。
そう思った俺はアイラに説明を促す。
「それで、依頼の内容をちゃんと教えてくれ」
「それはね、護衛よ」
「誰のだ?」
「あそこにいる人よ」
そう言ってアイラが指さした先にいたのは、少女だ。
少女といっても、元の俺から見ればになるので、アイラや現在の俺と同じくらいの年齢だろう。
ただ、違っているのは見た目だ。
見た目だけで、それなりに裕福なのだろうかと感じる程度には綺麗な服を着ている。
それだけで護衛する相手がどんな人なのかなんとなくわかる。
なるほど、高貴なお嬢さんの護衛ということか…
「それはいいが、どこまで護衛することになってるんだ?」
「そこは大丈夫よ。私にぬかりはないわ」
「どういうことだ?」
「ただし、それなんですが、あのお嬢様の護衛はリベルタスまでとなっています」
「なるほどな、それでぬかりがないと…」
「すごいでしょ!褒めていいのよ」
「あ、ああ。すごいな」
俺はアイラに対してそう口にするが、どこか不機嫌そうにこちらを見ている。
なんだ?
褒めたというのに、何か間違ったのだろうか?
こういう不機嫌になった女性に対しては近づかないのが一番だと、昔経験したので、ここはひとまずアイラのことはシバルに任せるしかないな。
本当に女性というのはわからない。
頭の中にハテナばかりを浮かばせながら、俺は護衛する少女を相手してくれている、バーバルに近づいた。
「バーバル…」
「ただしさん!わたくし、冒険者として復活しました」
「あ、ああ…」
自信満々に胸元にあるプレートを見せられたが、それと一緒にかなり胸自体も強調されていたので、目のやり場に困った。
いや、ここはプレートを見せてくれいるだけだから、別にガン見したところで悪いはずはない。
そう、しっかりと目に焼き付けるんだ。
しっかりとバーバルの胸を目の裏に焼き付けることに成功した俺は、少女に向き直る。
横目で見えていたとはいえ、俺のことを少女は怪訝な顔をして見ていたのは知っていたので、向き直ったときに何かを言われると思ったけけれど、相手の少女は驚きの声をあげた。
「げ…」
「?」
そんな声をあげるので、俺は疑問に思った。
俺の顔を見て、そんな声をあげるということは…
どこかで出会ったことがあったのだろうか?
そう考えて少女の顔をしっかりと見るが、見覚えがない。
そんな俺を見て、少女も取り繕ったような表情を見せると言う。
「ひ、人違いのようね」
「さようで」
あれかな、俺と似た人が知り合いにいて、思わず声を出してしまったということだろうか?
そんなことを思っていると、少女は長い髪の毛をバサッと広げると恰好つけたように言葉を発する。
「あなたたちはヒメを護衛することになった冒険者の方たちね」
「そうだけど…」
「ふふふ、ヒメを護衛できるのなんてすごいことなんだからね」
「それはありがとうございます」
「あ、ありが…」
「どうした?」
「いや、その…」
ヒメと自分で名乗った少女は、俺が普通の反応をすると急に勢いがなくなる。
たぶんだろうけれどかなりわがままなお嬢様という感じで接してきたのに、どうして嫌そうにしないのかということなのだろう。
だってねえ…
そんな権力を盾に言いたいこと、やりたいことをするのはお金がある人間はある意味当たり前のことだからだ。
社畜時代にどれだけ、横暴な社長たちにお金で仕事をさせられてきたか…
考えるだけで、無の境地になりそうだ。
だからお金をもっていそうな人からの理不尽な怒りなど、別に気にもしていないし、そんなことで怒るというのもいい大人として、どうかと思う。
なんたって俺は見た目はギリ未成年、精神年齢は枯れた元大人だからな。
自分で言ってて恥ずかしくなるけどな。
威張ることで何かをしたかったのか?
こちらが予定とは違う反応を見せたことで、予定が狂ってどうしていいかわからなくなっている少女に、なんと声をかけていいものかと悩んでいると、バーバルが声をかけた。
「えっと、リベルタスへの出発はいつにしましょうか?」
「えと…そうね。なるべく早くがいいわね」
「なら、一度全員で集まって決めないとな」
俺はそう言葉にすると、五人で集まった。
そこで、もう一度依頼内容の説明がシバルから始まる。
「今回の依頼は、このアクアからリベルタスの町、イリュジオンまでの護衛になりますね」
「そうね。ヒメの護衛をできるんだから、感謝しなさいよ」
「しっかりと報酬はもらえるのか?」
「失敬な。こう見えてもヒメはお金を持っています。だからこそ、依頼を出したのですから」
「そうかい」
そういいながらもシバルの方を見ると、しっかりとうなずいているところを見ると、ちゃんとお金は受け取っているようだ。
というかすでにお金の話も終わっているのだろう。
アイラの方を見ると何故か顔をそらされた。
なんだろうか、嫌な予感がする…
依頼の内容次第ではあるが、少しばかり前金がもらえるとギルドにいたときに聞いたことがあるが、もしかして…
前金をもらえるときは金額次第で依頼を行う士気も高まる。
まあ、そのことは後で聞くとして、お金をもらえるのだ、受けたものは仕方ないし後は依頼をこなすだけだ。
どっちにしろ、リベルタスの国に行くという目的は変わらないのだから、そことついでにお金になる依頼がついてくると考えるのが今は手っ取り早いのかもしれない。
気になることはあるがな…
それでも、本人を前にして聞くのは、何か面倒になりそうだと思った俺は、シバルを手でこっち呼ぶと、聞くことにした。
「なあ…」
「はい。どうかしましたか?」
「聞いていいかはわからんが、どうしてそんなお金を持っているような見た目のやつが、従者もいない状態でここにるんだ?」
「それなんですが…」
言いにくそうにしながらも、シバルは従者がいないことについて話してくれた。
その内容によると、どうやら先ほどの性格というべきか、言い方を他の従者にしていたらしい。
そのせいで、従者たちを怒らせてしまい、逃げられたということらしい。
ふーん、そうなのか?
俺は少女の横顔を見た。
そこには、何か強い意志を感じていた。
それを見て、なんとなくこの依頼が大変になりそうだと思いながらも、俺たちはこの後に必要になってくるものを買うと、なぜか俺が襲われたあの公園にやってきていた。