54話
「ようやく着いた!」
「そうだな」
俺たちはリベルタスに向かうまでに立ち寄る最後の場所だった町にやってきていた。
アクアと呼ばれる町だ。
この町、アクアである程度の物資を買うことにはなるだろう。
じゃないと、ここから国境までは二日あるらしいしな。
いるものをしっかりと考えたうえで、買い物をしないとな。
そんなことを思いながらも、俺たちは簡単に検問を突破した。
良くも悪くも、この町は近くに湖がありそこに流れるためからか水が潤沢にあるため、町をあげて水を使った商売をしているのか、お金を持っているようなのだ。
確かに水って、こういう世界では特に重要になってくるよな。
そんなことを思っていると、町に入って、その光景に驚いたアイラが言う。
「こんなに町が綺麗だとは思わなかったわね」
「まあ、そうだな」
「水が潤沢だとこうなるんですね」
「噴水があるみたいですね、綺麗ですね」
噴水がある中央広場と呼ばれるところで、俺たちはそんなのんきなことを、会話していた。
町についてから、ここまで数分だ。
検問については、あれはないという言葉が正しいだろう。
お金を持っていると、犯罪者がいなくなるとか、寛容になるというのは本当なのだろうか?
検問にも、そんなので大丈夫かと思った。
だって、本当に何もされていないのだからだ。
確かに見張りとして、それなりの数の人がいたが、だからといってその人たちが俺たちの冒険者である証の、プレートをちらりと見ただけで通してくれたのだからだ。
こんな警備で大丈夫かと考えてしまうが、この世界の全部を知っているとは言えないので、町によって全く対応が違うというのもありえない話じゃないのかもしれない。
俺もお尋ね者になっているので、簡単に通される方がありがたいとはいえど、よくある物語でお尋ね者に声をかけてくる警備と言い争いに発展する…
なんてことが起きなくてよかった。
そんなことを考えながらも、次に何をするのかだけれど。
「まずはバーバルの冒険者登録だな」
「そうですね。今のままだとバーバル殿が他のパーティーに入ることができるので、そうなれば困ります」
「そうだね。私たちの弱点だった遠距離攻撃職である、魔法使いが仲間になるもんね」
「はい」
「そ、そんな期待されても…ありがとうございます」
まずは決まっていた。
俺たちはこの町にあるギルドに行くことだ。
そこでも俺がお尋ね者として出回っていないことになればいいが…
ギルドまではみんなで歩いて行ったが、そこでシバルが俺のことを引っ張る。
「ただし、すみません」
「どうした?」
「入ったときには大丈夫でしたが、もしかすればギルドにはただしのことが広まっているかもしれません」
俺はそこまでシバルに言われて気づいた。
確かに、ここで俺が一緒に行くのはまずいか…
ということで、俺は素直に外で待つことなった。
パーティーの参加についてはリーダーがいなくても、本人とパーティーメンバーの一人がいればできることになっているので、大丈夫だろう。
受付の人に前少し聞いたときに、そんなことを言っていたのだ。
これには、申請している間に、アイテムを買ったりの用事をこなせるようにという配慮らしい。
まあ、どれだけ依頼があるのかはわからないけれど、そうしたほうが効率がいいのは確かだな。
それにしてもだ…
「これからどうするかな…」
俺はギルドの前でずっと待っているという気まずい状況に耐えることができないことがわかっていたので、早々に少し歩いていた。
こういうときに、下手に長時間同じ場所にいて目立つようなことは避けたかったからというのもあった。
でも、どこに何があるのかわからない以上は適当に歩くというのもどうかと思う。
そう思いながらも、何かあてがあるというわけでもなくトボトボと歩いていたときだった。
「おふ」
「イタ!」
前から走ってきた少年?にぶつかってしまった。
慌てて立ち上がりながらも、これまでこういう経験をしたこともなかったので、起き上がりながらも何を言うべきか考えていたが、目の前にいた少年は声を荒げる。
「ちょっと、退いて!」
「は、はい!」
その言葉に気圧されるようにして、俺は立ち上がりながらも道をあける。
すぐに少年は立ち上がると、舌打ちをして去って行った。
「どうしてこんな目に合わないといけないんだ。」
一人そう愚痴りながらも、服についた土を落とすとあることに気が付いた。
光るものがそこにあったのだ。
「なんだこれ?」
俺はそれを拾い上げる。
よくはわからないが、赤い色をした石だった。
それをポケットにしまいながらも、暇になってしまった俺は手持ちのお金で、サンドウィッチのようなものを買うとベンチに腰掛けた。
「最初から、こうしておけばよかった…」
【本当にね】
「(おま、急に話しかけてくるなよ)」
【いいでしょ、別に!神に文句があるっていうの?】
「(ないけどさ、ビックリするだろ?)」
【ビックリしていないで、いつでもあたしの声から反応できるようにしておきなさい】
「(嫌だよ。そんな完全に社畜しかしないことをしたくないんだよ)」
【何?二十四時間電話対応のことと比べてるの?】
「(ぐは…思い出したくもないことをなんで知ってるんだよ)」
【それは簡単よ。なんといったって、あたしがあんたをそっちの世界に転生させたのだから、記憶をちょっと見るくらいは簡単なことなのよ】
「(くそ、俺にはそういうところのプライバシーはないのか?)」
【転生させるくらいだからその人がしてきたことくらいは全て把握しないとね】
「(なんだと…)」
俺は自分の全てが知られてしまっているかもしれない事実に驚きを隠せないでいたときだった。
黒い服に身を包んだ、何人かの男がこちらに近づいてきたのだ。
なんだあの集団は?
そんなことを疑問に思っていたときだった。
一人の男が何故か立ち止まる。
「ここだ!」
「どこにもないぞ」
そんな言葉を発している。
何か探し物だろうか?
のんきにそう考えていると、男はこちらを向く。
「おい、お前。ここに何か慌てているやつは来なかったか」
「さあ…どうでしょうか?」
「おい!真面目に答えろ!」
「おふ…」
適当に答えると、俺は胸倉をつかまれてしまう。
適当に答えたからって、初対面の人につかみかかるとかヤンキーか何かなのか?
残念なやつを見るような目で男たちを見ていたら、余計に怒りだす。
「お前、バカにしているのか!」
そんな言葉とともに殴られそうになったときだった。
その男の腕を掴む人間が現れる。
「おい、知らないって言ってるんだし、そのあたりにしてやれよ」
「な、我らの邪魔をって…」
「どうした?」
「いえ…おい行くぞ」
その言葉を残して、男たちは去って行った。
助けてくれたのは俺よりもかなり身長が高いそれなりに年上の男だ。
腰にはこの世界では初めて見た、日本刀のような見た目をした剣を三本携えていた。
後は服装も袴のようなものなので、完全に見た目は侍って感じだ。
「ありがとうございます。」
俺は素直にお礼を言うと、男は笑いながら言う。
「いいってことよ。とりあえずあいつらが気に入らなかっただけだからな」
「いえ、それでも助かりました」
「まあ、そう言ってもらえるのなら、助けたかいがあったものということだな」
そしてはははと笑うと、どこかに去って行った。
そのときに胸元に見えた冒険者プレートの色はシルバー。
それを見て、俺はなるほど強いわけだと納得してしまった。
ただ、胸倉をつかまれたせいで、思い出した疑問を確認する。
「これだな」
俺はポケットから拾っていたあるものを取り出した。
よくはわからないけれど、これを拾ってあいつらがやってきたような気がする。
そう思っていると、声が響く。
【それは、追跡魔法を使うために使われているのね】
「どういうことだ?」
【だから言った通りよ。それにある魔法を使うと、追跡できるようになるのよ。かなり珍しい魔法ね】
「なるほどな。ということは、あのぶつかった少年が落としていったこれがそれで、その少年をさっきのやつらは追ってるってことか…」
【そんなところでしょうね】
「そうか…」
なんだろうか、この世界に来てから、ほとんど休憩という休憩をとっていない気がするのは俺だけなのだろうか?
何かが起こりやすくなっているからといって、こんなに頻繁にことが起こってしまうというのも、俺にももう少しゆっくりとした時間がほしいものだと思ってしまった。
このままこの石を投げ捨てたところで、もう一度手元に戻ってきたりするのだろうか?
まあ、捨てたところで、すでに巻き込まれてしまった以上、このままというわけにもいかないし、黒服のやつらに目をつけられたのは確かなのだ、これはどうするか考えないといけないな。
そんなことを思いながらも、俺はそいつを再度ポケットにしまうとギルドに戻るために歩いた。




