51話
「なんとかなったな」
俺は隠していた服がびしゃびしゃになっているものを再度着た 。
ヘンタイスキルがばれるわけにはいかないとはいえ、濡れた服をもう一度着るというのも、嫌な行為だな。
そんなことをしみじみと思いながらも、俺は隠していた荷物たちを回収していたときだった。
「くそが…」
「罠が多いですね」
そんな声とともに、森の入り口に見たことがあるやつを見た。
「あれは、自称勇者か?」
荒くれもののように、地面を蹴り飛ばして怒りをこれでもかと表現しているさまは、本当に勇者なのかと疑わしくなるほどだ。
それでも次の言葉である、火をつけるというセリフを聞いたときには足を動かしていた。
「あいつら正気か?」
【正気じゃないわね】
「だよな」
あきらかにおかしいことしようとしている勇者に対して、さすがの神もため息をつきそうな声色で話しかけてくる。
まあ、だからといってここで俺が勇者を懲らしめる、なんてことはしない。
だって、そんなことをしているうちに火をつけられれば、アイラたちの避難が遅れていれば、巻き込まれる可能性があるからだ。
あれが勇者だっていうのも、どんな神様が決めたのかはしらないが、あんなやつで大丈夫なのかと心配だ。
そんな、どうしようもないことを考えながらも、俺は岩山と森の境にやってきていた。
そして森の奥からはゆっくりと三人の姿が見えた。
ふう、あんなことがありながらもなんとかなったな。
そんなことをしみじみと思いながらも合流しようとしたときだった。
【あ、そうそう…あの魔法使いの女ね】
「バーバルがどうかしたのか?」
自称神に声をかけられて足をとめると、その言葉を言われる。
【そのバーバルのスキルがね、ドSみたいね。ま、それだけね】
「はあ?」
俺は思わず声を荒げ、またこの先もまだまだ前途多難な出来事が起きることを感じながらも、まずはこの場から離れるべく合流したのだった。
「本当に一緒に行って大丈夫なの?」
「いまさらでしょ」
「でも…」
「何を急にしおらしくなってるのよ、バーバルはもっとうざいくらいに一緒に出会ってたでしょ」
「それは、魅了されて仕方なくで、わたくしの性格ではないのに…」
少し恥ずかしそうに帽子で顔を隠す仕草をするバーバルに一瞬見とれながらも、アイラに同調しておく。
「まあ、この元聖女であるアイラは冒険にかなり憧れがあるからな。パーティーを組むというのも冒険者として必要なことだしな」
「そうなのよ。それに…パーティーには魔法使いが必要なの!」
そう勢いよく口にする。
アイラの言うことは間違いじゃない。
俺の攻撃は殴りだし、アイラは棒と修道女魔法と呼ばれるもの、シバルは騎士で剣と盾。
どう考えても遠距離攻撃が不足していたのだ。
それは、ガマガエルを討伐したときもそうだった。
ここで魔法がほしいという場面が多く存在していたので、ここでバーバルが仲間になってくれないというのも困るのだ。
そんな俺たちの願いが通じたのだろう、バーバルは俺たち三人の顔を見て笑うと言う。
「不束者ですが、これからよろしくお願いいたします」
こうして俺たちは冒険をともにすることになった。
だけど悠長なことをしている暇がないことを俺は知っていた。
火が迫っていることを俺はみんなに伝えると、俺たちは慌ててその場を後にしたのだった。