39話
予想はしていたが、それよりも見た目は大きいか…
体長は三メートルは超えるくらいだろう。
俺たちよりもあきらかに大きいのは確かだった。
カエル型のモンスターと戦う場合、一番多い展開というのが、全員があのカエルの舌に捕まってしまうというものだろう。
特に女性メンバーはスカートがめくれ上がって中が見えそうになるのがお決まりの展開だろう。
もしくは完全に見えるということが多いだろう。
そんなことを考えていると…
【こういう展開だと、普通に元聖女が舌とかで辱めを受けてほしくなるわね】
なんと、自称神と同じ考えをしているとは思っていなくて、さすがにショックを受けた。
そういうことを神が言っていいことなのかはわからないけれど、いいのか?
まあいい…
そういう展開になったときは、そういうときだ。
そんなことを思いながら、俺はむやみに突っ込んでいくということをせず、カエルを観察する。
見た目は俺も知っているカエルと同じで、考えることはまず俺の拳などの打撃攻撃で、ぶよっとしている体表を破れるのかということだ。
とりあえず、ガマガエルは俺たちに気づいていないようなので、今の間に作戦を立てるしかないな。
「どうやってしかける?」
「どうやってと言われても、ボクはこの剣と盾で戦うしかないしな」
「私もシバルのカバーをするくらいでしか、戦うことはできないわよ」
「そうだよな」
そう、俺たちにはこういうときに攻撃魔法がない。
だからこういうときやることは、俺は殴ることしかできない。
こういうことなら、バーバルに依頼を手伝ってもらってから探し物の依頼も一緒にやるべきだだったと思う。
それができたら、攻撃要員が一人増えたのに…
今更だけど、遠距離攻撃できる人が誰もいないのもどうかと思う。
攻撃がきくかはわからないけど、ストッキング投擲を繰り出すべきか…
「ただしは何か作戦があるのか?」
「いや、初めての敵だし、どうしていいかわからないな」
「そうですか…」
「だからまずは後ろから近づいて攻撃してみるか?」
「そうですね」
「ねえ、私はどうしたらいい?」
「どうと言われてもな」
「だって、私に攻撃できる武器がないでしょ」
「確かにな」
そうなのだ。
アイラが使っている魔法は回復ができるホーリーヒールと、周りにバリアを張れるホーリーバリアだ。
確かにほとんどが防御系の魔法のみだ。
攻撃するすべがない。
なんだろうか、魔法が使えなくて拳でしか攻撃できない俺としてはかなり羨ましい悩みではあるが…
確かに工房に行ったときも俺とシバルが武器を見てもらうだけで、アイラは武器をもっていないのだ。
これまでは俺の武器である、ストッキングを使っていたのだ。
まずは攻撃をするしかないか…
「とりあえず、剣で切ってみるか」
「わかりました。ボクがまずはやってみましょう」
「頼む」
「それじゃ、私はシバルのカバーにまわるわね」
「了解」
俺はとりあえず観察だな。
今はヘンタイスキルも発動していないことだし、まずは様子を見るしかない
モンスターを倒せるだけの戦闘力があるわけじゃないしな。
「いくよ」
「はい」
シバルを前にしてアイラと二人で突っ込んでいく。
すぐにシバルが気づかれないようにして、ガマガエルに近づき剣を振るう。
「ガキン」
まじか!
それは驚きの音だった。
そうなのだ、剣がカエルの体表に弾かれた音だったのだ。
シバルの剣は柔らかいと思っていたガマガエルの体表にきくことはなかったのだ。
「く…」
「石を食べるカエルってことだから、体も石みたいに硬いってことなの?」
「わかりません。でも、ボクの剣が弾かれるのですから、その可能性もありますね」
「切ってみた感触は?」
「石ですね」
「どうするか考えるためにも、一度距離をとらないとね」
「そうですね」
「距離をとるためにも防御を張るわね。我の前に絶対に通さない聖なる壁を作りたまえ、ホーリーバリア。」
「気を付けてください。攻撃きます」
「わかってるわ」
シバルが攻撃したことによって、カエルはこちらに気づき、シバルたちの方に向こうとするが、その動きはそれなりにゆっくりだったが、口が開いた瞬間にそれは飛んできた。
そう、カエル型モンスターの中で一番厄介な武器、舌だ。
舌は俺たちが思っているよりもかなりのスピードでアイラが張ったホーリーバリアに迫った。
「くう…」
「アイラ様大丈夫ですか?」
「大丈夫だけど、もう一度は防げないわ」
「わかりました。その後の一撃はボクがなんとかします」
さすがにまずい。
ここまで強いというか、相性が悪いとは思わなかった。
やっぱり魔法使いの味方が必要だということか…
カエルは一度舌を口にしまった後に、もう一度攻撃をする。
それによりアイラの張ったバリアを破壊する。
そして、もう一度口にしまう。
なるほど、攻撃をするときは毎回舌を口の中にしまわないとできないのか…
これは弱点だな。
この後すぐに舌で攻撃されるとキツイだろう。
俺は前もって準備していたストッキング投擲を行うことにする。
まずは弱点を探るためだ。
狙う場所は決まっている。
目だ。
こういうカエルモンスターではというか、見た目的に目は柔らかそうだからだ。
カエルもそれをわかっているのか、飛んできたストッキングを攻撃しようとした舌で弾く。
なるほど、目はやっぱり弱点と…
だからといって、こっちが攻撃してあの体表を傷つけられる気がしない。
目を狙うのが定石だけど、そうなるとあの舌がやっかいだ。
俺が投げたストッキングも簡単に防がれてしまうからな…
このまま普通に戦っていればじり貧だろう。
ストッキングを目に向けて投げたら舌の攻撃を防げるかもしれないが、それもストッキングがなくなるまでだろう。
手持ちのストッキングもそんなに多くない。
どうしようかと思っていたときだった。
ガマガエルも俺と考えることは同じだったのだろう、足に力を込めたかと思うとジャンプする。
距離をとった、何をするつもりだ?
そんな俺の考えを読んだかのように、頭の中に声が響く。
【あれは遠距離攻撃をしようとしてきてるわね】
「(わかるのか?)」
【当たり前よ】
「(どういう攻撃だ?)」
【見たらすぐにわかるわよ】
「(なんだと?)」
俺はガマガエルの動きを見ることにする。
舌が届く位置じゃないので普通であれば何もできないだろう。
自称神の言葉を聞いていた俺は遠距離攻撃がくることはわかっている。
だからといって、どんな攻撃なのか…
でもそんな俺の疑問は確かにすぐにわかることになった。
「あれは…」
「石を食べてるわね」
「何か嫌な予感がしますね」
舌をうまく使って石を口に含んだのだ。
それでわかる。
今からあの口に入れた石をこっちに向かって飛ばしてくるということが…
さすがにあれは防ぐことができるか?
いや、考えるまでもない防げない確率の方があきらかに高い。
「アイラ!」
「私でもさすがに無理よ」
「ボクもキツイです」
「ということは俺がやるしかないか…」
一か八かというところだろうけれど、このままっていうわけにもいかない。
俺は両手にストッキング投擲を持つと、同時に目に向かって投擲する。
あの舌でもさすがに、同時にくる攻撃を完璧に防ぐことができないと思ったからだ。
「グワーッ」
「くそ」
「アイラ様」
「く!」
ガマガエルは防げないことがわかっていたのだろう。
だから俺の投擲にあわせて口に含んだ岩をこっちに向かって飛ばしてくる。
本当に嫌な攻撃をしてくる。
確かに勢いはあまりないように見える岩吐き攻撃だが、それでも俺たちよりも大きな巨体から繰り出される攻撃は俺が投げたストッキング投擲をはじき返しながらもこちらに迫る。
それでも慌てて岩吐きを行ったせいだろうか、狙いは軽くずれていたため、なんとか避けることに成功する。
「大丈夫ですか、ただし!」
「なんとかな!そっちは?」
「ボクとアイラ様も大丈夫です。ですが…」
「わかってる」
俺は再度岩吐き攻撃をさせるわけにはいかないと、前進する。
ヘンタイスキルが発動していないが、やるしかねえ!
しっかりとナックルを手にはめるとガマガエルを観察する。
ガマガエルは近づいてくる俺に対して、すぐに攻撃を行えない岩吐きを諦めて、舌で攻撃をしてくる。
はええ…
だけどな!
「うら!」
俺は舌の攻撃を裏拳で横に弾く。
あぶねえ…
それにしても、岩を食べてるカエルだからか、そこらかしこが岩みたいに硬くなっているとはな。
本当に面倒な相手だ。
でもなんでだろうか、カエルの攻撃は速いことには速いが、俺でも見える。
どういうことだ?
俺が疑問に思っていると、声が響いてくる。
【よかったわね、あの騎士たちの戦闘が活かされてるわね】
「(そういうことか…)」
【そういうことよ。ヘンタイになったことで通常時も少しは成長しているってことね】
「(みたいだな)」
【でも、防ぐだけじゃ倒せないわよ】
「(わかってるよ)」
何か打開策はないのか?
俺は考える。
ちくしょー…
なんで異世界に来てまで、こんな頭を使うことをしないといけないんだよ。
ヘンタイスキルを使えば簡単に倒せるだろうけど、そうなったら俺の異世界での生活も終わりだしな。
またくるか!
考えている間に、ガマガエルは舌で攻撃をしてくる。
俺は対処するためにも少し後ろに下がる。
それによって川の近くにできていた水たまりのようなものに足が入る。
パシャっと音が鳴り、水が弾ける。
するとどうだろうか、俺の方に向かっていた舌が途中で止まって、戻っていった。
「…?」
それに疑問を感じたが、すぐに理由を理解する。
「なるほどな…」
「ただし、何かわかりましたか?」
「ああ!」
「だったら、ただしさっさと倒すわよ。いい加減あの舌の動きが気持ち悪いわ」
「了解。それじゃ二人にもやってもらうかな」
「はい、何をやりましょう」
「なんでもできることなら言いなさい」
「そうだな。深く考えず、あれだ…全力でガマガエルを川に落とすぞ」
「え?」
「ただし?」
二人には頭大丈夫という風に見られてしまったが、俺はいたって正常だった。
だって、これまでがおかしかったのだからだ。
何がおかしいって?
簡単だ。
なんでガマガエルというモンスターは全身のほとんどがあんなに硬かったのか?
それは岩を食べているからだ。
そして硬くない部分となるのは、たぶん体の中。
あとは最初に弱点だと思っていた目。
だから倒すのには、その柔らかい部分を攻撃しないといけないと思っていたが、どうやらあのカエルは水を嫌っているらしい。
何故か?
それはたぶんあいつは口にしたものの硬さに体表と舌を変化させることができるモンスターなのだろう。
だから今は石のように硬い。
でも舌で攻撃しようとしたときに水をとりそうになって慌てて引っ込めたのだ。
水がないと岩を消化できないくせに、水だけをとってしまうと体が柔らかくなってしまうとは…
なんだろう、本当に残念なモンスターと言わざるを得ないのかもしれない。
そうして俺たちは、半信半疑なアイラとシバルとともに、全力で攻撃を仕掛けた。
といっても、俺は殴ることで少しではあるが体表を傷つけ、シバルは盾で押すようにして川に押しやり、アイラはそのシバルを庇うようにしてホーリーバリアを何度か発動させては、バリアでカエルを川に追いやった。
なんだろう、本当にアイラのホーリーバリアの使い方を見ていると、武器が必要なんだろうかと思ってしまう。
まあ、そんなことを思いながらも、最後の悪足搔きでジャンプで逃げようとしたガマガエルをアイラが張ったホーリーバリアに当てて、逆に川に落とすとガマガエルは水をどうしても飲まなくてはいけなくなり、みるみるうちに体が透けていく。
「シバル!」
「任せてください!一の型、返し斬り」
そしてシバルの剣術により一撃のもとに討伐を成功させたのだった。




